持つべきものは友

文字数 2,411文字


「あれ? リエルちゃん?」

「あ! 唯川さん! こんばんはなのです!」

 唯川は近所のスーパーマーケットで買い物をしている最中、偶然にもリエルと出会った。
 リエルが買い物かごを持っているところから推測すると、恐らくリエルは一人での買い物だろう。
 その買い物かごの中は、食料品が大半である。

「おつかいかな? えらいねー」

「はい! これくらい朝飯前なのです」

 どうやら唯川の予想は当たっていたようで、リエルは一人で来ていたらしい。
 その事を自慢するかのように、鼻を高くして胸を張っている。

「後は、牛乳とお醤油を買って、ミッションコンプリートなのです。初めてのおつかいでしたけど、案外楽勝なのです」

「かごの中身……随分と重くなりそうだけど、持って帰れる……?」

「…………帰りの事を考えてなかったのです……」

 リエルは少しの間黙って考えた。
 しかし、そこから導き出された結論は、諦めと言えるような降伏の言葉である。
 反省とも言えるだろう。

 牛乳や醤油など液体系の商品は、かなり重さが水増しするもので、リエルの体格と合わせて見てみても、運搬が難しいのは自明の理だった。

「あはは、私暇だから手伝ってもいいかなー?」

「ほ、本当ですか!? ぜ、ぜひお願いしたいのです!」

 極限まで困っているリエルに、唯川から救いの手が差し伸べられる。
 最悪の場合、両手と口を使った三刀流で持って帰ろうとしていたリエルにとっては、願ってもいない提案であり、とても頼もしい存在であった。

「決まりだね。じゃあ、パパッと買っちゃおうか」

「はいなのです!」

 それからは、牛乳と醤油が置かれている場所を、完璧に把握している唯川によって、スムーズに買い物が行われた。


*********


「唯川さんには感謝なのです。重くないですか?」

「あはは、へーきへーき。いざとなったら真琴くんを呼ぼうと思ったけど、これならなんとかなりそうだよ」

 スーパーマーケットからの帰り道。
 リエル一袋、唯川二袋の内訳で分配される。
 合計で三袋あったので、リエルは自分が二袋持つと提案したが、唯川はそれを許さない。
 そして、その割り振りは正解だったようで、リエルと唯川の体格にあった重量になった。

「少年なら暇そうなのです」

「だよねー。メールが五秒で返ってきた時なんて恐怖を覚えたよ」

「げげっ、ずっとスマホいじってる証拠なのです」

 何故か流れ弾が当たる真琴だった。

「あ、真琴くんに電話してみる? 多分暇だから」

「面白そうなのです。多分暇なので、少年も喜ぶのですよ」

 真琴はやたらと暇を強調される。
 真琴=暇だという、確信に近い何かがあった。
 唯川は器用に、塞がっていた手でありながらも、ポケットからスマホを取り出して、真琴へと電話をかける。

 二人の暇だという予想は当たっていたようで、その電話が繋がったのは、わずか二秒後だった。

『もしもし、ドッピオです』

「でかしたドッピオ……わたしのドッピオよ……」

『乗ってくれた!? 頭の回転早すぎだろ!』

 いきなりすぎるジョジョネタに、完璧な対応を見せる唯川。
 無言、もしくは怒られる事を予想していた真琴は、予想外の対応に驚きを隠せない。
 つまり、完全敗北の真琴だった。

「それで、真琴くん今何してた?」

『今? 今はポケモンの孵化作業中だよ』

「うーん、びみょー」

『おいおい、いきなり電話かけてきてそれはないだろ。こっちだって、やりたくてやってるわけじゃないんだぞ。ただ、この作業をしなくちゃ、勝てないから――』

「わかったわかった。じゃーねー」

 そう言って、電話は強制的に切られる。
 これ以上話すと、真琴の性格からしてかなり長くなるという事を、直感的に悟ったからだ。

「少年はどうでしたか?」

「今はアローラ地方にいるみたい」

「アローラ地方? なんだか遠そうな所にいるのです」

 リエルは頭の中を必死に漁るが、残念ながら真琴の居場所を掴む事はできない。
 というか、ゲームの地方なので、分かるはずがなかった。

 ところで――と、唯川は話を変える。

「リエルちゃんって、最近この町に来たみたいだけど、もう慣れた?」

「はいなのです。みんなと神様のおかげで、助けられているのです」

「うんうん、知らない土地って大変だろうから、どんどん頼ってねー」

「はぅ、お世話になりすぎているのです」

 素晴らしい仲間に恵まれるリエルだった。
 最初は住む場所すら決まってなかった有様だったが、教会での出会いを通して、様々な人たちの助けを借りることができる。
 かつて、かなり仲が悪かったココとも、僅かだが距離が縮まった気がするくらいだ。

「そんな遠慮しなくていいよー。困った時はお互い様だからね。ほら、もう着きそうだし」

「あ、牧野先生もいるのです」

 楽しい会話によって気付かなかったが、もうゴールは見えていた。
 そこでは、牧野が花に水をやっており、リエルと唯川には、ワンテンポ遅れて気付くことになる。

「こんにちはー、牧野先生」

「お、唯川さん。こんにちは」

「ただいまなのです! 唯川さんに手伝ってもらったのです。ありがとうございました!」

「あぁー、そういう事だったんだね。ありがとう、唯川さん」

 状況をだいたい理解した牧野は、唯川に感謝の気持ちを伝える。

「いえいえ、暇でしたから丁度よかったです」

「リエルちゃんには帰り道の事を言おうと思ったけど、すぐに飛んで行っちゃったんだ。ごめんね、リエルちゃん」

「一切帰りの事を考えてなかったのです」

 あはは――と、三人の笑い声が通りに舞う。

 行動力がずば抜けているリエルだった。



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