王様だらけ

文字数 1,619文字

 次に僕たちが降り立ったのは、大きな宮殿を囲むように作られた、大きな街だった。

 不思議に思ったのは、目に入る人々のすべてが、頭に「(かんむり)」を乗せているということだ。

「フィロン、どうしてここの人たちは、みんな頭に冠をかぶっているんだい?」

 フィロンはにこっと笑った。

「王さまだからだよ。この国ではね、みんながみんな、王さまなんだ。王さまは冠をかぶるものでしょ? だからみんな、冠を頭につけているんだよ」

「みんなが王さまって、いったい、どういうこと?」

「この国ではね、昔こんな出来事があったんだ。それはね、『王さまがひとりだけなんてずるい。自分たちも王さまにしろ!』 民衆はそんなふうに叫びはじめて、身の危険を感じた王さまは、言うとおりにしたのさ。結果、みんなが王さまになって、みんなが満足した。ふふっ、めでたしめでたし、だね」

「民衆が王さまに……みんなが王さまになって、何かが変わったの?」

「な~んにも、変わらないよ。商人はあいかわらず商人のままだし、農家はあいかわらず農家のままだし、奴隷だって、あいかわらず奴隷のままなんだよ。変わったことと言えば、そう、王さまという『かたがき』がついただけだね。商人は『商売をする王さま』に、農家は『農業をする王さま』に、奴隷は『ひたすらこきつかわれる王さま』になったんだ」

「かたがき……それって、何か意味があったの……?」

「さあね。人間はかたがきが好きだから、かたがきさえついてしまえば、それでいいんじゃない?」

「う~ん、かたがき……そういうものなのかな……」

「だって、不公平じゃない? だれかひとりだけが王さまだなんてさ。この国の人たちは、みんなが王さまになることで、そう、『平等』になったんだよ」

「不公平、平等……」

「みんなが同じ、それこそが平等さ。それが一番じゃない」

「でも、中身は結局、変わっていないわけだし……」

「いいんだよ。みんな、自分は王さまなんだっていう、満足感でいっぱいなんだし。みんなが王さまなら、みんなが平等、みんなが満足、つまりみんなが、幸せなのさ。そういうものなんだよ、人間はね」

「うう、う~ん……平等、平等って、どういうことなんだろう……」

「ハルくんは難しく考えすぎなんだよ。もっと頭をパーにするんだ、パッパラパーにね、ふふっ」

「うう、頭が、ぼやけてくる……」

「君はなかなかしぶといよね。いままでに連れてきた子は、すぐに僕の言いなりになったのにさ」

「うう、ああ……」

「まあ、いいか、時間の問題なんだからね、時間の。ふふっ、ふふふ」

 脳みそが砂糖みたいに溶けてくる。

 これもフィロンの意志なのか?

 どうでもいいか、どうでも……

 気持ちいいんだから、考えないということは……

「さ、ハルくん、次の世界へ行こう。ここよりもっと、素敵なところなんだ。永遠の夜まで、あとちょっとだよ? ふふっ、ふふふ」

「あ、ああ……」

 フィロンは僕の手を取って、ふわりと空へ舞い上がった。

 いったい次は、どんな場所なんだろう?

 どんどん奥へと入っていっている感覚がする、牢獄の。

 見えない(かせ)(くさり)がはまり込んでくる感触。

 気持ちいい、つながれているというのは。

 永遠の夜か、早くたどり着きたい。

 そこへ行ったらきっと、僕は解放されるんだ。

 いったい何者なんだ、彼は?

 何の得があって、こんなことを?

 わからない、けど、どうでもいい。

 確かなのは、フィロンがわかってくれているということだ、僕のことを。

 こんなことは、いままで、なかった。

 誰かがよりそってくれるなんて。

 あれ、なんだろう?

 ここに来る前、僕は何をしていたんだっけ……

 思い出せない、そして、思い出してはいけない気がする。

 忘れよう、忘れよう。

 頭をからっぽにするんだ。

 それが正しい、フィロンが正しい。

 彼が、絶対だ。

 それが、彼そのものだ。

 行くんだ、永遠の夜へ。

 きっとそこは、夢の国なんだ……

 そして僕たちは、次の世界へと降り立った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み