第2話

文字数 2,226文字

 季節(きせつ)(あき)()わるころになった。ぼくとシロ様は、相変(あいか)わらず一緒(いっしょ)にいる。


 お屋敷(やしき)のお(にわ)散策(さんさく)しながら、シロ様はぼくに(おだ)やかな(ひとみ)()ける。

 丁寧(ていねい)管理(かんり)されている庭園(ていえん)は、紅葉(こうよう)のシーズンが()わって(えだ)()っぱは(すく)なかったけれど、それでも十分(じゅうぶん)『みやび』だった。

昨日(きのう)従者(じゅうしゃ)手入(てい)れしたばかりなのに。もう()ちた()がたくさん()ちていますね、クロ」

 ぼくは地面(じめん)にしゃがみこみ、枯葉(かれは)何枚(なんまい)(ひろ)ってシロ様に(かか)げる。

「シロ様! ()っぱって、一枚一枚(いちまいいちまい)(かたち)(ちが)ってておもしろいよね」

「ふふ、(たし)かに。(まる)みを()びていたり、細長(ほそなが)かったり。(むし)()べられたのか、()けた(かたち)のものもありますね」

 役目(やくめ)()えた()っぱたちを、ぼくはそっと()まれないところへ()き、つぶやくように(つづ)けた。

(いのち)があるものってみんなそう。(おな)種族(しゅぞく)()てたとしても、まったく(おな)じものなんて絶対(ぜったい)ない。ひとつひとつが(とうと)いものなんだよ、大切(たいせつ)にしなきゃいけないんだよ、って(おし)えてくれる。()きものって、『(あい)』の先生(せんせい)なんだ」

「……クロは詩人(しじん)ですね」

 きれいなお月様色(つきさまいろ)()(ほそ)めて、シロ様は(やさ)しく、ぼくの(あたま)をなでた。

「えへへ」

「……っ、くしゅっ」

 くしゃみをし、ふるりと()をちぢこまらせるシロ様。そうか、ぼくは(さむ)さに(つよ)いオオカミのもののけだけれど、シロ様は華奢(きゃしゃ)な鬼だから……!

大変(たいへん)、あっちに(もど)ろう!」

 ぼくは反射的(はんしゃてき)にシロ様を()っぱってゆき、縁側(えんがわ)(すわ)らせた。

「??」

 不思議(ふしぎ)そうな表情(ひょうじょう)のシロ様に(かま)わず、その(ひざ)へよじのぼり、(ほそ)くてしなやかな(こし)自分(じぶん)(あし)(まわ)してしがみついた。

「ク、クロ!?」

「あのね、ぼく、体温高(たいおんたか)いから!」

「いやでも……」

「それにね、だいすきなシロ様にぴったりくっつくと、うれしいからどきどきして、もっと(あつ)くなるから!! カイロなの!!」

「……っ」

 きゅうう、とシロ様を()きしめて、その(むね)(あたま)をすりよせたけれど、でも、シロ様は(あか)いような(あお)いような(かお)をして、(ぎゃく)(ふる)えはじめてしまって。

 ぼくは、もうからだ中真(じゅうま)()で、ぽっぽっと(ねつ)っぽくなっているのに。

「シロ様、まだ(さむ)い?? それとも……」

 ひとつの可能性(かのうせい)()づいてしまい、不安(ふあん)()れる(ひとみ)でシロ様を()つめる。

「ぼくにぎゅってされるの、いや……?」

「いえっなんかいろいろ()そうなだけです!!?」

()る? なにが??」

「う……、あ、ええと……。ちょっといいですか。すぅー、はぁー、すぅー、はぁー……。こほん!」

 盛大(せいだい)深呼吸(しんこきゅう)のあと、咳払(せきばら)いをしたシロ様は、もう、いつものシロ様で。

 にっこり(わら)うと、ぼくを()きしめて、背中(せなか)(やさ)しくなでてくれた。

「とても、あたたかいです。(からだ)も、(こころ)も。クロの(やさ)しさが(つた)わってくるから」

「シロ様、シロ様もあったかい。そばにいられて、いつも(しあわ)せなの。シロ様に出会(であ)えてよかった」

「私もですよ。……でも、そろそろ()かなくては。クレナイに(おこ)られてしまう」

 ぼくたちはそっと(はな)れて、シロ様はぼくの(ほお)(やさ)しく()をそえた。

「また。クロ」

「うん、シロ様。お仕事(しごと)応援(おうえん)してるね」

 (ほお)()かれた、(しろ)くてきれいな(ほね)ばった()を、(ちい)さな(りょう)()大切(たいせつ)(つつ)みこむと、シロ様は、ふんわり微笑(ほほえ)んだ。

「……()ってきます」



✿✿✿✿✿



【おまけ】


執務室(しつむしつ)にて。着席(ちゃくせき)し、きりりとした表情(ひょうじょう)でゲン○ウポーズをとるシロと、淡々(たんたん)書類(しょるい)整理(せいり)するクレナイ。


(おとこ)(うえ)無邪気(むじゃき)()ってくるとかなに(かんが)えているのあの天使(てんし)? というか最近(さいきん)可愛(かわい)すぎるクロに勃起(ぼっき)(きん)じえなくて、バレないようキツめのぱんつを三枚重(さんまいかさ)穿()いている私の気持(きも)ちがわかるか、クレナイ?」

「お(まえ)のぱんつ事情(じじょう)とか心底(しんそこ)どうでもいいよ仕事(しごと)しろ」




【終】

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登場人物紹介

クロ


 弱っているところをシロに拾われた、オオカミのもののけ。

 シロがだいすき。意外と大人だったりする。

シロ


 鬼の国の王子。

 一見穏やかで、柔らかな物腰の紳士だが、内心ではクロをはちゃめちゃに想っている。

クレナイ


 鬼の国の官僚。

 正直、クロを構ってみたいし、シロにはガチで引いている。

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