季節は秋が終わるころになった。ぼくとシロ様は、相変わらず一緒にいる。
お屋敷のお庭を散策しながら、シロ様はぼくに穏やかな瞳を向ける。
丁寧に管理されている庭園は、紅葉のシーズンが終わって枝に葉っぱは少なかったけれど、それでも十分『みやび』だった。
「昨日、従者が手入れしたばかりなのに。もう朽ちた葉がたくさん落ちていますね、クロ」
ぼくは地面にしゃがみこみ、枯葉を何枚か拾ってシロ様に掲げる。
「シロ様! 葉っぱって、一枚一枚、形が違ってておもしろいよね」
「ふふ、確かに。丸みを帯びていたり、細長かったり。虫に食べられたのか、欠けた形のものもありますね」
役目を終えた葉っぱたちを、ぼくはそっと踏まれないところへ置き、つぶやくように続けた。
「命があるものってみんなそう。同じ種族で似てたとしても、まったく同じものなんて絶対ない。ひとつひとつが尊いものなんだよ、大切にしなきゃいけないんだよ、って教えてくれる。生きものって、『愛』の先生なんだ」
「……クロは詩人ですね」
きれいなお月様色の目を細めて、シロ様は優しく、ぼくの頭をなでた。
「えへへ」
「……っ、くしゅっ」
くしゃみをし、ふるりと身をちぢこまらせるシロ様。そうか、ぼくは寒さに強いオオカミのもののけだけれど、シロ様は華奢な鬼だから……!
「大変、あっちに戻ろう!」
ぼくは反射的にシロ様を引っぱってゆき、縁側へ座らせた。
「??」
不思議そうな表情のシロ様に構わず、その膝へよじのぼり、細くてしなやかな腰に自分の足を回してしがみついた。
「ク、クロ!?」
「あのね、ぼく、体温高いから!」
「いやでも……」
「それにね、だいすきなシロ様にぴったりくっつくと、うれしいからどきどきして、もっと熱くなるから!! カイロなの!!」
「……っ」
きゅうう、とシロ様を抱きしめて、その胸に頭をすりよせたけれど、でも、シロ様は赤いような青いような顔をして、逆に震えはじめてしまって。
ぼくは、もうからだ中真っ赤で、ぽっぽっと熱っぽくなっているのに。
「シロ様、まだ寒い?? それとも……」
ひとつの可能性に気づいてしまい、不安に揺れる瞳でシロ様を見つめる。
「ぼくにぎゅってされるの、いや……?」
「いえっなんかいろいろ出そうなだけです!!?」
「出る? なにが??」
「う……、あ、ええと……。ちょっといいですか。すぅー、はぁー、すぅー、はぁー……。こほん!」
盛大な深呼吸のあと、咳払いをしたシロ様は、もう、いつものシロ様で。
にっこり笑うと、ぼくを抱きしめて、背中を優しくなでてくれた。
「とても、あたたかいです。躰も、心も。クロの優しさが伝わってくるから」
「シロ様、シロ様もあったかい。そばにいられて、いつも幸せなの。シロ様に出会えてよかった」
「私もですよ。……でも、そろそろ行かなくては。クレナイに怒られてしまう」
ぼくたちはそっと離れて、シロ様はぼくの頬に優しく手をそえた。
「また。クロ」
「うん、シロ様。お仕事、応援してるね」
頬に置かれた、白くてきれいな骨ばった手を、小さな両の手で大切に包みこむと、シロ様は、ふんわり微笑んだ。
「……行ってきます」
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【おまけ】
※執務室にて。着席し、きりりとした表情でゲン○ウポーズをとるシロと、淡々と書類を整理するクレナイ。
「男の上へ無邪気に騎ってくるとかなに考えているのあの天使? というか最近、可愛すぎるクロに勃起が禁じえなくて、バレないようキツめのぱんつを三枚重ね穿いている私の気持ちがわかるか、クレナイ?」
「お前のぱんつ事情とか心底どうでもいいよ仕事しろ」
【終】