第15話
文字数 880文字
ミーナが戻ってきたのは一週間後だった。結局、イヴの夜は一緒には過ごせなかったことになる。
カーテンを閉ざしたまま朝日の入らない、荒れ果てた部屋の中で泣き濡れていた渋谷は、改めて頭を下げると、ミーナは意外な事にあっけらかんとした顔で何事も無かったかのごとく、台所に立ちながら朝食を作り始めた。
「今回は許してあげる。二度目は無いからね」ミーナはテーブルにトーストとサラダとコーヒーを並べながら労(ねぎら)いの言葉をかけてきた。
じゃあ三度目はと言いかけたが、その言葉を呑み込んだ渋谷は、ありがとうと感謝の言葉を返す。
以前と同じように見えたが、どこか違っているように感じた。どこがどうとは言えないが、何となく垢抜(あかぬ)けたオーラを帯びている。それに加えて妙に他人行儀な態度に思えるのは気のせいだろうか。
あんな事があったんだからミーナだって少なからず平常心でいられるはずがない。渋谷は改めて大倉の事を告白したことを悔やまずにはいられない。あのまま黙っていれば、波風を立てなければと思わざるを得ないのは自明(じめい)の理(り)であり、反省しようにも後悔先に立たずであった。
それでも誠意を示すために、「年末は無理でも、年明けにはまた旅行に行こう」と誘いを入れる。彼女は深く頷(うなず)いたが、その返事は心ここにあらずといった印象でしかなかった。結局、旅行に行く事は無かったが、ミーナとの関係は軌道に戻ったと感じていた。
年が明けても二人の同棲生活はなおも続いたが、やがて喧嘩が頻繁に起こるようになると、渋谷の帰りが遅くなる日々が毎晩のように繰り返された。次第に別れを意識するようになっていくが、ミーナがそれを察したのかどうかは判らない。だが、成人の日を待たずして、些細な口論がきっかけとなり、彼女の方からアパートの鍵をテーブルに置いたのは事実であった。
その時、未練はなかったが後悔がなかったと言えば嘘になる。
渋谷はすぐさま電話をかけずにはいられなかった。
しかし、彼女がこの世から消え去る事を知らない渋谷にとって、それはあまりも時間が少なすぎたと言えよう。
カーテンを閉ざしたまま朝日の入らない、荒れ果てた部屋の中で泣き濡れていた渋谷は、改めて頭を下げると、ミーナは意外な事にあっけらかんとした顔で何事も無かったかのごとく、台所に立ちながら朝食を作り始めた。
「今回は許してあげる。二度目は無いからね」ミーナはテーブルにトーストとサラダとコーヒーを並べながら労(ねぎら)いの言葉をかけてきた。
じゃあ三度目はと言いかけたが、その言葉を呑み込んだ渋谷は、ありがとうと感謝の言葉を返す。
以前と同じように見えたが、どこか違っているように感じた。どこがどうとは言えないが、何となく垢抜(あかぬ)けたオーラを帯びている。それに加えて妙に他人行儀な態度に思えるのは気のせいだろうか。
あんな事があったんだからミーナだって少なからず平常心でいられるはずがない。渋谷は改めて大倉の事を告白したことを悔やまずにはいられない。あのまま黙っていれば、波風を立てなければと思わざるを得ないのは自明(じめい)の理(り)であり、反省しようにも後悔先に立たずであった。
それでも誠意を示すために、「年末は無理でも、年明けにはまた旅行に行こう」と誘いを入れる。彼女は深く頷(うなず)いたが、その返事は心ここにあらずといった印象でしかなかった。結局、旅行に行く事は無かったが、ミーナとの関係は軌道に戻ったと感じていた。
年が明けても二人の同棲生活はなおも続いたが、やがて喧嘩が頻繁に起こるようになると、渋谷の帰りが遅くなる日々が毎晩のように繰り返された。次第に別れを意識するようになっていくが、ミーナがそれを察したのかどうかは判らない。だが、成人の日を待たずして、些細な口論がきっかけとなり、彼女の方からアパートの鍵をテーブルに置いたのは事実であった。
その時、未練はなかったが後悔がなかったと言えば嘘になる。
渋谷はすぐさま電話をかけずにはいられなかった。
しかし、彼女がこの世から消え去る事を知らない渋谷にとって、それはあまりも時間が少なすぎたと言えよう。