第15話 弱冠24歳の直木賞受賞作(朝井リョウ『何者』篇1)

文字数 1,288文字

 前回に続き、今回もエンターテインメントに分類される作品を読んでみました。

 朝井リョウ『何者』。

 朝井リョウさんは早稲田大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』により第22回小説すばる新人賞を受賞して、デビュー。2013年、『何者』で直木賞を受賞。弱冠24歳、平成生まれとして初の直木賞受賞者になりました。

 明確に新人賞である芥川賞の場合は、綿矢りささんが僅か19歳で受賞し、史上最年少受賞者として話題になったように、受賞時の年齢の若さがしばしば注目されます。
 一方の直木賞は、中堅作家の受賞が一番多く、場合によっては大御所作家が功労賞的に受賞することもあったりします。

 こうした受賞者の年齢の違いは、純文学を対象とした芥川賞と、エンターテインメントを対象とした直木賞の間の必然の違いだと言えるかもしれません。

 天才的な人がその才能に任せ、読者のことなんか何も考えずに書いたのに、結果としてすごいものができてしまった、というケースが純文学の場合にはあるのでしょう。
 でも、エンターテインメントの場合は、最初から読者というものを想定し、読者を愉しませるということが前提になっています。

 その意味では、それなりの人生経験を積み、人情の機微や社会の仕組みに通じている人の方がエンターテインメント作家には向いている、という見方もできるかもしれません。
 だからこそ一層、朝井リョウさんの直木賞受賞時の若さが、当時大きな話題になっていたんですよね。

『何者』は、就活をする大学生を描いた作品です。作者の朝井リョウさんは当時の自分と同年齢の、謂わば等身大の若者たちを主人公にしてこの作品を書いたと言えるでしょう。

 わたしは今回初めて朝井リョウさんの作品を読んだのですが、実は読む前、「これってエンターテインメントというより、純文学っぽいテーマじゃないかしら」と思ったんです。

 わたしが読んだ新潮文庫版『何者』(2015)の作品紹介を以下に引用します。

 就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎が率いるバンドの引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に潜む本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えてゆき……。直木賞受賞作。

 作品紹介を読んでわかるように、『何者』の中ではSNSが大きな役割を担っています。
 ツイッターやフェイスブックなど、SNSが一般化した社会において、人間関係はどのように変化してしまうのか……。

 描き方によっては、十分純文学のテーマたり得ると思ったのです。
 で、実際に読んでみた感想は――

 確かに、エンターテインメント!

 読後感としては、すごいミステリーを読んだなって感じなんです。

 もちろん、人はひとりも死なないし、そもそも法に触れるような事件は一切起こらないのですが……。

 でも、ミステリー!

 どこがどうミステリーなのか、次回詳しく内容をご紹介したいと思います。 
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