第20話 介護回顧

文字数 1,900文字

 冷静に書こう。
 介護の仕事は、確かにいっぱいある。だが、それも〈健康第一〉。
 腰に弱味のある私に、この仕事はもうムリか、と。
 気力で持って来たけれど…
 では、今後の仕事をどうするか?
 どうやって生きていこうか、という問題はもう慣れっこで、今に始まったことではない。
 ただ、何だかんだと働いていたいと思う。べつに、働かないで死ぬのなら、それでもいいと思っている。死ぬのがイヤで働きたいのではない。ただ、ひとつの社会のようなところで、人と関わっていたい。でないと、どうも、調子が出ない気がする…これも幻想かな。迷惑かけるから、社会参加など、しない方がいいかな。

「Indeed」などを見れば、マンションの通勤管理人。しかし、シニアでもなくミドルでもない。半端な、この実年齢。
 休憩時間に、他愛のない話で、笑い合える人がいてほしいな…。
 いや、こんなことは、わざわざここに書く必要はない。
 ただ、頭の中の整理も兼ねて、文字化しよう。

 まだ、前を向くのは早いかもしれない。私がやりたかった介護の仕事、その経験をさせてくれた3つの職場について、自分の中に残っていること、人、思いを書こう。
 ─── ほとんど、たぶんサービス残業ばかりしているような人がいた。だが、彼はいつも落ち着いていて、ニコニコしていた。休憩なんか、パンを食べる10分足らずの時間があれば、彼にはもう充分そうであった。
 だが、上司は、その仕事ぶりを快く思っていなかった。
 しかし、働く本人が、誰に強制されるわけでもなく、「これが自分のペースです」と言わんばかりに働いているのだから、それでいいのではないかと、ぼくには思えた。
 彼と話していると楽しかったし、安心して接していられる唯一の人だった。のんびり屋さんで、彼が焦ったり慌てている姿を見たことがない。休憩時間にゆっくり、笑い合いたかったが…

 逆に、いつも走っているような人もいた。それが彼女のペースなのだ。「走るのは良くない」と注意されても、やはり走っていた。
 トークがうまい、70歳位のパート職員は、いつもまわりを笑わせていた。それだけでフロアの雰囲気が全然明るくなった。「○さん、ほんと、仕事はぼくがやりますから、ここにいてくれるだけでいいです」と、言ってしまったりした。

 思うに、実際、ひとりひとり、違う人間だ。それぞれ、そうなのだから、「こうしなさい、ああしなさい」と、十把一絡げに、上層部の人がチャチャを入れて、その人のペースを乱さなくてもいいのではないかと思う。介護の現場よ。最低限の技術だけ、しっかり、しっかり教えて、細かいところは、もう…。
 でないと、ほんとに介護する仕事人、いなくなるよ。
 もし、そのペースで、その人が何かミスをしたら、ふつうに責任感のある人なら、チャンと自分で思い知り、厳しく言われなくても自己を正すだろう。

 そう、「異質の者を認めたくない」。
 島国根性のような空気が、私の勤めた3つの施設にあった共通点だった。いや、これはもう、JAPANである以上、抗えないことかもしれない。リーダー的な人間は、誰もが自分のやり方を絶対と思っていたし、またそのやり方が上から評価などをされてしまうと、絶対がさらに絶対化される。小さなフロアで、自分が一国のあるじさながら、超絶対的指導者になってしまう。
 こんな、ぼくが言うことではないけれど。

 眼に見えない気持ち、精神的な部分は、眼に見えないから手がつけられない。
 でも、こういう人もいる、ああいう人もいる。みんな、違うということを、人間を相手にする仕事であれば尚更に、だいじにしてもいいのではないかと思った。
「スタッフ1人1人の個性なんか尊重したら、バラバラになってまとまらなくなる」と、上の人間は言う。そんな統一性より前に、人が定着しないじゃないか。

 現場に即さない「決まりごと」は形だけになる。
「ホントはこうなんだけど」と言いながら、ホントじゃないやり方がまかり通っているのが現実じゃないか。形骸化したものに固執して、だから空っぽの指導者を生産し、現場を困らせ、辞めていく人間をつくってるんじゃないか。
 ぼくも空っぽすぎる人間だけど、何か言われれば、言った相手に、自分の中から対したい。「こうなっているから・これがここのやり方だから」といった、自分以外の所から借りてきたもので、相手に対したくない。
「権力、握っちゃったもん勝ち」だなぁとも思った。何に勝ったんだろう。ひとのことは、ほんとに言えないが、おかしな人間が多かった。
 閉鎖された世界だった。
 でも、これだけは言える。ぼくが悪かった。
 感情的な文になった…
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