4話「村娘、鬼娘になる」
文字数 1,616文字
「ほーう。やってるのう」
「やってますねえ!」
「こんな辺境どころか秘境の村にくるなんて珍しいわね」
霊峰の住民にして仙人である3人。
村長の鉄心。
ノリだけはいい男ののり蔵。
村のお姉さんの深雪。
3人が3人共に美心よりも前から村に住んでいる古株である。仙人としての熟練度は鉄心が飛び抜けており、次点で深雪、のり蔵は不明だ。
「彼、自然力を使わずに此処へ来たようだけどどうやったのかしらね」
「それは彼が勇者じゃからのう。入れてもおかしくはない」
「あーそういうこと。なら納得だわ。そもそも勇者の血統って鉄心の子孫だものね」
「は!? マジで!?」
「あんたは知っておきなさい! 前に聞いたでしょ」
「うぉぉぉ……!」
深雪はのり蔵のこめかみをぐりぐりと中指の第二関節で押し込んだ。
うずくまって頭を抑えてたのも束の間。のり蔵は神速の勢いで復活し、いつもの口調に戻った。
「ま、たまたま最初に出会ったのが美心で良かったんじゃねえの? 俺とか他の奴らだったら傷治して外へポイッとしてただろうしな」
「あの子は優しいし面倒見もいいからねえ」
うんうんと2人は頷いて美心の愛らしさについて語り始めた。愛らしさと言っても妹的な要素についての語り合いなので平和なものである。
「ところで美心ちゃんはいつの間にあそこまで熟達してるんじゃ? 儂らちょっとしか教えてないじゃろ」
「鉄心はいつの話してるのよ。美心は暇さえあればずっと鍛錬ばかりしてるのくらい村のみんなが知ってるじゃないの」
「ふぉえ!?」
「え、ひょっとして爺さん知らんの? かあー! 恥ずかしいねえ! 俺ら含めて8人は知ってるのに爺さん知らないとか恥ずかしいのう、はずか――へぶっ!?」
のり蔵の煽りがしつこかったのか頭にきた鉄心は自然力を込めた拳骨を食らわせた。
「黙っとれい」
どすの効いた声でのり蔵を鎮めるも何も知らなかったのは事実であり、孫娘のように接してきた美心のことをしらない自分に恥ずかしさを覚えた。
「にしても鉄心の子孫にしては名前も容姿もずいぶんかけ離れてるわね。金髪に翡翠の瞳。名前はグリームだって」
「ふむ、長い年月が経ってるからのう。国が変わり、様々な人種と交われば変わっていくじゃろうて」
「それもそうか。冴えない鉄心に比べれば月にすっぽんね」
「余計なこと言わんでいいわ」
鉄心たちは互いに軽口を叩きあいながらも千年以上の付き合い故に本気で喧嘩するようなことはない。
仙人としての精神性はのり蔵も含めて極めて中庸である。悪も善も全てを包括してこそ強靭という言葉も生温いほどの精神を持っている。なお美心のことに関しては他の仙人もついつい甘やかしてしまうという穴もあったりはするが。
◆◆◆
「くしゅ……誰か私の噂でもしているのでしょうか」
(あ、かわいい)
グリームは瞑想の修行中にそんなことを思ってしまっていた。そのために。
「あ、雑念がありますね」
「ぐぉ!」
肩に自然力が込められた平手を受け、悶絶。瞑想で高めた自然力の防御がなければ間違いなく肩が外れていた。
「ちょっと強くしすぎましたね」
(ちょっと!?)
口には出さず飲み込む。
どうやら自分が師匠と呼ぶ女性は想像以上に厳しくしたたかな人のようだとグリームは心の底から思う。
「でも成長が早いのは良いことです。明日からはもっと厳しくいきましょうか」
「えっ……痛ぁ!」
「集中なさい」
(……はい)
改めてこの世の誰よりも鬼のような女性だと思い直したグリームであった。
「やってますねえ!」
「こんな辺境どころか秘境の村にくるなんて珍しいわね」
霊峰の住民にして仙人である3人。
村長の鉄心。
ノリだけはいい男ののり蔵。
村のお姉さんの深雪。
3人が3人共に美心よりも前から村に住んでいる古株である。仙人としての熟練度は鉄心が飛び抜けており、次点で深雪、のり蔵は不明だ。
「彼、自然力を使わずに此処へ来たようだけどどうやったのかしらね」
「それは彼が勇者じゃからのう。入れてもおかしくはない」
「あーそういうこと。なら納得だわ。そもそも勇者の血統って鉄心の子孫だものね」
「は!? マジで!?」
「あんたは知っておきなさい! 前に聞いたでしょ」
「うぉぉぉ……!」
深雪はのり蔵のこめかみをぐりぐりと中指の第二関節で押し込んだ。
うずくまって頭を抑えてたのも束の間。のり蔵は神速の勢いで復活し、いつもの口調に戻った。
「ま、たまたま最初に出会ったのが美心で良かったんじゃねえの? 俺とか他の奴らだったら傷治して外へポイッとしてただろうしな」
「あの子は優しいし面倒見もいいからねえ」
うんうんと2人は頷いて美心の愛らしさについて語り始めた。愛らしさと言っても妹的な要素についての語り合いなので平和なものである。
「ところで美心ちゃんはいつの間にあそこまで熟達してるんじゃ? 儂らちょっとしか教えてないじゃろ」
「鉄心はいつの話してるのよ。美心は暇さえあればずっと鍛錬ばかりしてるのくらい村のみんなが知ってるじゃないの」
「ふぉえ!?」
「え、ひょっとして爺さん知らんの? かあー! 恥ずかしいねえ! 俺ら含めて8人は知ってるのに爺さん知らないとか恥ずかしいのう、はずか――へぶっ!?」
のり蔵の煽りがしつこかったのか頭にきた鉄心は自然力を込めた拳骨を食らわせた。
「黙っとれい」
どすの効いた声でのり蔵を鎮めるも何も知らなかったのは事実であり、孫娘のように接してきた美心のことをしらない自分に恥ずかしさを覚えた。
「にしても鉄心の子孫にしては名前も容姿もずいぶんかけ離れてるわね。金髪に翡翠の瞳。名前はグリームだって」
「ふむ、長い年月が経ってるからのう。国が変わり、様々な人種と交われば変わっていくじゃろうて」
「それもそうか。冴えない鉄心に比べれば月にすっぽんね」
「余計なこと言わんでいいわ」
鉄心たちは互いに軽口を叩きあいながらも千年以上の付き合い故に本気で喧嘩するようなことはない。
仙人としての精神性はのり蔵も含めて極めて中庸である。悪も善も全てを包括してこそ強靭という言葉も生温いほどの精神を持っている。なお美心のことに関しては他の仙人もついつい甘やかしてしまうという穴もあったりはするが。
◆◆◆
「くしゅ……誰か私の噂でもしているのでしょうか」
(あ、かわいい)
グリームは瞑想の修行中にそんなことを思ってしまっていた。そのために。
「あ、雑念がありますね」
「ぐぉ!」
肩に自然力が込められた平手を受け、悶絶。瞑想で高めた自然力の防御がなければ間違いなく肩が外れていた。
「ちょっと強くしすぎましたね」
(ちょっと!?)
口には出さず飲み込む。
どうやら自分が師匠と呼ぶ女性は想像以上に厳しくしたたかな人のようだとグリームは心の底から思う。
「でも成長が早いのは良いことです。明日からはもっと厳しくいきましょうか」
「えっ……痛ぁ!」
「集中なさい」
(……はい)
改めてこの世の誰よりも鬼のような女性だと思い直したグリームであった。