ある意味ハートが強いよな

文字数 1,405文字

 川崎特区の外れに立つ川崎特区カトリック教会。その聖堂。
「君たち、なんてことをしてくれるんですか!!」
 朔太郎の叫び声が響き渡った。
「いやあ……後任の神父が来るとは思ってなかったもんで……」
 蒼生はバツが悪そうに答えた。
 
 神聖な祈りの場は、不良少年たちの溜まり場と化していた。

  *

 バッドヘッズの強襲を逃れた蒼生たちはアジトへ引き揚げた。
 アジト。すなわち川崎特区カトリック教会の聖堂、である。
 前任の司祭が心神耗弱で教会を去り、ただでさえ少なかった信徒たちは他地区の教会に転会してしまった。で、実質的に閉鎖状態になっていた教会を不良少年たちが乗っ取った、というわけだった。以来、聖堂は居場所のない少年たちの憩いの場となった。
 はからずも、神の力に守られるような形となったのである。

 *

「聖堂で飲み食いは禁止です! タバコなんて持ってのほか!! DJセットを持ち込まない!!」
 朔太郎の指導で、ポテチやビールのストックを聖堂の外に出す少年たち。はじめはぶーぶー文句を言っていたが、蒼生に一喝されて渋々と従った。そのうち、乱闘の場には居合わせなかった他の仲間たちも集まり始めた。現場復帰は思いのほか順調に進んだが、聖堂の入口にでかでかと描かれた『KAWASAKI BROTHERHOOD』のタギングだけはペンキを塗り直る必要があった。
「非常にセンスの良いタギングではあります」と論評をくだす朔太郎。
「それ僕が描いたんだよぉ」恭平は嬉しそうに言った。
「神様は君に良い賜物をお与えになりましたね。しかし、才能は別のところで発揮してください」

 蒼生は少年の一人に向かって叫ぶ。
「おい、シンジ! おまえん家、塗装屋だろ! 家からペンキとローラー持ってこれるか!」
「了解ー」
「テツ、ケンジ、サボってねーでおまえらはこっちの床を掃除しとけ!」
「ういー」
 蒼生の指示で少年たちはテキパキと動く。少年たちは存外に真面目だった。
 というよりは、蒼生を頂点とした上下関係ができあがっているのだろう。蒼生の指示には逆らわない。
「もともとあんたらの持ちモンだから、元通りにして返すけどさ。実際、ミサ? に人なんか来ねぇと思うぜ」蒼生はぼやく。
「そんなのやってみなければわからないでしょう?」
「いや、俺来たことあるんだって」
「おや、それはそれは」
「仲の良い連れに誘われて、一回だけな。でも閑古鳥だったぜ。あんたら、ある意味ハートが強いよな。1人2人相手にミサやるって、売れてない芸人かよっての」
「出席数が1人だろうがゼロ人だろうが、ミサを執り行うのが私たち司祭の務めです」
「虚しくなんねぇのかよ?」
 朔太郎はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。「そっくりそのままお返しします。喧嘩なんかに明け暮れて虚しくならないのですか?」
 蒼生は図星をつかれて、ムッとした表情になる。
「るせえな。ほっとけや」蒼生は工具箱を片手に持つと、脚立を肩に担ぎ上げる。「外壁を直すんだろ。場所を教えろ」
 朔太郎はにっこりした。「どうもありがとうございます、蒼生君」
 少年たちが蒼生を慕うのも無理はない、と朔太郎は思った。口は悪く見てくれは派手だが、義理堅く真面目。ただ腕っ節が強いだけではなく、自分が真っ先に前線に飛び出して、いざというときは身を挺して仲間をかばう。良きリーダーとは、支配者ではなく、人に遣える者だ。
「手伝いますよ」
 朔太郎は蒼生の後を追った。
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登場人物紹介

木城朔太郎(きじょう・さくたろう)

新任司祭。川崎特区の教会に赴任する。

久我山蒼生(くがやま・あおい)

川崎特区生まれ育ちの少年。

恭平
蒼生の仲間。蒼生を慕っている。

マサ

蒼生の仲間。

ユウキ

蒼生の仲間。

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