詩小説『癒えない、醒めない』3分の大晦日。全ての現代人へ。

エピソード文字数 794文字

癒えない、醒めない

乾いた風。生温い吊革。窓では、電線が高さを変えて流れる。
見上げた月は霞んでいて、消えそうに、消えないで、僕についてくる。
僕は、この真夜中の電車に揺られていた。疲れた肩にぶら下がる鞄と、首元を締め付けるネクタイ。
ホームに居るまばらの人達をすり抜けて改札を潜る。
今日は、大晦日。
大学を卒業してから、四年の月日が流れていた。
今年のこの街は、いつもの街と少し違った。
毎年下位に低迷していた球団が優勝してしまったり、アメリカの大統領がこの街を訪問してしまったり。
なんだか、この街に住んでいる人間は皆、浮き足立っていた。
帰り道から外れて、遠回りになるこのコンビニで缶ビールを買った。
コートの襟を合わせ、顔を埋めた後、空を仰いだ。
耳を赤くさせる、この冷めた風が何故か心地よく感じた。
『癒えない』
僕は、何かに取り付かれたように仕事へ明け暮れた。目まぐるしく廻る月日と追いかけっこしながら。
立ち止まったら見つめてしまいそうで。考える暇もないように忙しくした。
頭の中を空っぽにしたくて、呼吸することも忘れ、走り続けた。
一人暮らしのアパート。鍵を廻し、ドアを開けると、当然ながら真っ暗で、僕は手探りでスイッチを探し、灯を灯す。
重いドアを開ければ、鈍いきしむ音がした。
ベランダへ出て、ポケットを探り、煙草を取り出す。
銜えた煙草に火をつけて、この街を見下ろす。
もう少しで今年が終わり、もう少しで来年がやってくる。
年越しを前にして、街は少しだけ、鼓動が高鳴っているように見えた。
煙草を吸い終えそのまま部屋の中へ。
缶ビールを開け、あと僅かに残った今年、立ち止まっていた。
振り返ってみる。歩いてきた道を眺めることなんて久しぶりに思えた。
そっけない顔をして気がつけば新年を迎えていた。
『醒めない』
ふと、思い出した名前。

僕は、電話を掛けていた。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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