epilogue jinx (6)

文字数 792文字

わたし達はお会計を済ませた。お会計はさすがにキャッシュレスでもできた。映画の代金も合わせて支払いをしたけど、ミストレスが言っていた『恋人割』と『学割』で、二人で1000円って安過ぎない。

 陸くんじゃないけど、本当に商売成り立つのか不安になる。

 手動のドアを開け、わたしはミストレスに、また来ます、と言ってお別れした。

 にっこりと手を振って、ミストレスは楽しみにしてるわ、と言ってくれた。

 暗い映画館の中に入っていくと、顎髭をたくわえた執事のようなスーツを着た、ダンディなおじさまがいた。

「いらっしゃいませ、チケットを拝見します」

 おじさまはチケットを受け取って、半分に破り始めた。

「え、ちょっと」とわたしが焦ると、横から陸くんにまた指摘された。

「これ、モギリって言うんだよ。昔はこうやって入場を管理してたんだよ」

「これは失礼しました。驚きましたかな」

 おじさまはミストレスのように、にっこりとわたしの不安を解消してくれるように微笑んでくれた。

 雰囲気がミストレスに似てる。ひょっとしたら、この人が。

「あの、ひょっとしたら未来のミストレスの旦那さんですか?」

「そうです。この映画館のオーナーを勤めております。滝川と申します」

 ではご案内しますと、滝川さんは指をきれいに伸ばした手で方向を指し示す。

 滝川さんのあとをてくてくと追うと、横で陸くんがぶつぶつと顎に手を当て、なにか言っている。

 いまさら観たくないと、文句を並べているんじゃ。わたしが耳をすませると。

「どっかで見たことあるんだよなぁ」と、言っている。

「だれ?滝川さんを?」

「うん……なんだったかなぁ。滝川……滝川……」

「陸くんが知ってる人?どこかで顔を合わせたとか?」

「いや、そういうんじゃなくて、動画、電子書、ニュース……」

「有名な人で?」

「うん……」

「陸くんが知ってるなら、スポーツ関係とか?陸上とか」

「ああ!それだぁ!!」

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