第13話 The-Calling.

文字数 2,534文字

神は6日で世界を創り、7日目に見放した。

「聖 書」より
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最終話(前半). The-Calling.
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俺はM&S TOWERに着いた。

来る途中空から見た首都は、

暴走したD-ramが辺りかまわず戦略衛星からTitan Spear(チタンの鉄芯/タイタンの雷)を撃っているので至る所から煙が上り、火災による爆発音と消防車が走る際に流すメタルミュージックで騒々しかった。

黒煙は空を覆い赤い空と相まって首都は見渡す限り戦闘地域の装いだった。

TOWER内部は避難が完了したと見え、がらんとして少しひんやりしていた。

建物の中を飛んで制御室に向かう。

俺はかつてここの要人の警護をした事があったので、建物の図面は頭に入っている。

飛びながら考えた。

ーさて俺の人生は何だったのか?
上手くいっても行かなくても、
多分俺はここで死ぬ。

子供の頃からしたら十分夢は叶った。
しかし全部じゃない。

特に息子…睡眠促進派の次期リーダーとの噂が流れ、STAR BACCHUS(居酒屋)で1人呑んでいた時、爆弾テロで跡形もなく吹き飛ばされた。その後、妻は俺を責め出て行った。



まぁ、どう転んでも息子には会えるのか。



しかし君にはもう会えないな。





Syzka.





ー物想いに耽っているうちに辿り着いた。

さあ ここが俺の死に場所だ。



ーD-RAM管理制御室ー


…さて

どうすれば良い?

手取り早くDoulaの道具で爆破するか?

俺は奪ったポシェットに手を入れた。

いや…しかし

そんな事をすれば

“Dラミ“で管理しているインフラ全てがストップし、日本は壊滅状態に陥るだろう。

では電源を切るか?

俺は入力デバイスに対峙した。

いやこれも…同じだろう。

制御を解く、という行為は破壊する事と何ら変わりはない。

外では相変わらず暴走(Over-drive)したDラミの衛星からの攻撃が続いており、それが地面を伝って重々しい衝撃がこのビルにも伝わってくる。

早くなんとかしないと。

「なぁ!Dラミ。やめてくれ!!もう十分だろ?頼むから…。」

返事がない。もう声が届いている様子はなかった。

考えろ。何かあるはずだ。
お前が管理責任者(タスク・マネージャー)だと思え。

ドドン!!

壁と床がここ1番の衝撃で大きく揺れ、窓が全て割れた。


Dラミは自分ごと日本を壊滅しようとしているようだった。


「やめろ!!やめてくれ!!!頼むから…。」



…もうだめだ




…助けてくれよ



…Doula…衛門





“「キミの好きナ事」を選択せヨ…。”




俺の好きな…


…!?



射撃…昼寝…昼寝…昼寝


そうか!!





壊すんじゃない。






D-ramを眠らせ……






Sleep-Mode(スリープモード)

だ!!


D-ramは筐体だ。あるじゃないか。電源、再起動…そしてスリープモードが!



俺はD-ramの入力デバイスのスタートマークを探した。


ーあった!



 俺の人生を散々振り回した“スリープ”の文字が。




ビシッ!!


 鋭い空気の塊の様なものが俺の右手をかすめていった。
 
 「ウゥ!!」

 右手から血が流れた。

 背後を見るとSewashが立っていた。

 「Ash…お前…」

 そうだ、Doulaに記憶を消されていたのだ。

 「…おじいちゃん、何やってるの?こんなに街をメチャクチャにして…そこまでバカだったの?」

 「いや、これは誤解…」

ビシッ!!


 「ウワ!!」

 こんどは俺の左肩を空砲が掠めた。
 血煙が割れた窓ガラスから外に流れていった。

 (まさか…Doulaはこの結末を先読みしていたのか?)

 記憶をつまみ食いされたSewashは俺がこのコンピュータで東京を破壊していると思い込んでいる。

 
「あいつを…Doulaを破壊したところでやめておくべきだったね。」
 
 Sewashは沈んだ声で話した。

 俺のエアーガンリキッドはまだ…いや、この負傷した手でSewashを危害なくディザームできる自信はない。

  ーポシェット!!

 ビシッツ!!

 「動かないで!…探し物はこれかな?」

 sewashの左手からは白いポシェットがぶら下がっていた。

 彼はため息をついて話した。

 「もう諦めてほしい。 …僕はテロリストだけど、…別に街を壊したい訳じゃないんだ。おじいちゃん…この行為は残念だけど見逃せない。…安心して。皆に名前は伏せておくよ。」
 
 …勘違いだ。

 Sewashは人差し指を俺に向けた。

 -俺は息を一度深く吸い込んで、言った。


 「Sewash」

 「…なんだい」


  「最後に…一言だけ言わせてくれ。」


 「…」



 「帰ったら Syzka…いや、おばあちゃんに叱って貰うからな!」


 「!?」


 「…飛べ」

 次の瞬間、制御室は竜巻のような激しい暴風の中にあった。


 固定されていない用具、書類など全てのものが天井に巻き上げられ、轟音と共に回転しながら壊れた窓から空に吸い込まれていった。

 sewashもその例外ではなかった。 

 荒れ狂う突風が彼を天井に叩きつけ、
 壁にその身体を張り付かせたまま床まで引き摺りおろし、ガラスが割れて大きく口を開けた窓から彼を吐き出そうとした。

 「Ash!!

 俺はビルの外に投げ出されたSewashの片腕を掴んだ。

 …なんとか間に合った。

  「…着地」

 風は瞬時に収まり、空を舞っていた物が床に落下した。

 そしてやっとの思いで気絶しているsewashを腕一本でフロアに引き上げた。

 俺は…制御室に入室前、自分のBamb-o-ptorの保護モードを解除して入口の床上に立てておいたのだ。
 …人1人を持ち上げるBamb-o-ptorの風力はF5クラス/秒速117m、実に台風と同程度なのだ。保護モードなしだと大災害が起きてしまい、スカートどころか車さえ吹き飛ばせるのだった。

 しかし危なかった。間に合ったから良かったものの、ー俺は孫を一度ビルの外へ放り出してしまったのだ。

 「…Ash、一緒に怒られような。」

 Sewashを制御デバイスの近くで横たわらせ、再び俺はデバイスのポインターをスタートマークに近づけた。

 “シャットダウン“
 ”スリープ”
 “再起動“

 俺はポインターを移動させる。

 ー今度こそ

「Dラミ!!」






「SLEEP-TIGHT !(おやすみなさい) 」


(続く)
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