第2話 環奈の朝
文字数 1,800文字
佐藤環奈(17)の朝は遅かった。ギリギリに目覚め、バタバタと慌ただしく身支度を整える。
洗面所には父親・佐藤恵理也(47)の歯ブラシや髭剃り、ヘアワックスなども置いてあった。恵理也は牧師で人前に出る機会が多い。意外と身だしなみには力を入れているようだ。
ちなみに恵理也の名前は聖書の登場人物・エリヤからとられた。恵理也の父も牧師であり、生粋のクリスチャンでもあった。
一方、環奈はなかなか信仰を持てず、2ヶ月前にようや洗礼を受けた。子供の頃一度洗礼は受けてはいたが、形だけというか信仰が腐敗していたので、正確に言えば再洗礼ではあったが。
母親が死んだ寂しさからゲームや漫画の世界に逃げていたが、それではダメだと気づいた。同時に神様にも興味を持ち、信仰心も帰ってきた。
環奈はそんな事を考えつつ、顔を洗い、髪の毛をポニーテールに結んだ。ポニーテールは好きでは無いが、寝癖を絶妙に隠せる位置に結び、なんとか身だしなみを終えた。元々オタク気質というのもあるのか、あまりオシャレには興味が持てない。
そんな手抜き極まりない身だしなみを終えると、食卓へ向かった。もう既に朝食はできていた。母が死んでから朝食作りは恵理也の担当だった。
夕食はたまに環奈も手伝ったりするが、なかなか料理は難しい。はっきり言って苦手だった。面倒臭い工程も多いし、失敗すると後は地獄だ。不味い料理をずっと食べなくてはならない。料理は父に任せておくのが一番だ。
「おはよう、環奈」
「おはよう、お父さん」
笑顔で挨拶し、二人で食卓についた。今日の朝ごはんはキャベツのサラダや菜の花の味噌汁、プチトマトの酢漬けと塩むすびだった。全体的に野菜が多い。
環奈達が暮らす麹衣村は、山に囲まれた田舎だった。牧師という職業は儲からず貧乏状態の我が家だが、教会の人や近所の人から野菜をどっさりと貰い、食費はあまりかかっていなかった。恵理也は魚釣りも趣味だし、時々大きな鯛なども釣ってきて、食に困ることはない。むしろ、都会の人より恵まれている食卓だった。
「いただきます!」
「おいおい、環奈。食べる前は食前のお祈りしなくちゃ」
「えー? そんな事は聖書に書いてなくない?」
「書いてなくても神様に感謝してれば、自然とやろたくなるだろう? この菜の花もキャベツもトマトも誰が作ったんだ?」
そう言われるとぐうの音も出ない。環奈はまだ新米クリスチャンであるので、こういうちょっとした基本的な部分が抜けていた。聖書のルール通りにロボットみたいに守ってれば良いというわけでもない。まあ、食前の祈りについては両親もずっとやっていたし、違和感のない事ではあったが。
環奈と恵理也は食前の祈りをして、朝食を取り始めた。
野菜の甘みが美味しく、太陽の光を食べているみたいだった。食べているだけで元気一杯になりそうだった。
「ところで環奈。最近は、どんな漫画にハマってるんだ?」
「えーとね、月島月美先生の『悪役令嬢は、カフェ店長になって隣国の騎士に溺愛されています』っていう漫画が好き!」
「おー、どういう話か?」
「えっとね」
父親の恵理也は漫画やゲームにも理解があり、こうして盛り上がる事も多かった。
まあ、あまりハマり過ぎてはいけないという事で、単行本を買うのは月一回一冊だけにしている。ゲームも週一回しかやっていない。
不思議な事に信仰心を持ちようになって、あまり娯楽に興味もなくなった。転生もファンタジーにしか見えなくなったし、ゲームも漫画もたまに食べるお菓子のような立ち位置になってしまった。
それに恵理也も以前より話をよく聞いてくれるようになった。ゲームや漫画は母親のいない寂しさを埋めるためにはまっていたから、今はもうどうでも良くなってしまった面も強い。
漫画に話が終えると、恵理也は少し真顔になって言った。
「でも環奈。洗礼受けてすぐの頃は、悪魔からの攻撃も多いから注意しなさい」
「え? マジで?」
恵理也が言うには、この時期が一番攻撃されるらしい。罪への誘惑が多いらしい。悪魔というと霊的な存在に見られるが、メディア、人間関係などリアルなものを通してくる事が多いらしい。例えばお金や性的な罪の誘惑が多い。
「えー、誘惑なんて怖いよ」
「大丈夫だよ、祈ろう!」
こうして二人で祈っていた。不思議な事に祈っていると、心が軽くなってくる。悪魔なんていない、大丈夫と思い始めた。
洗面所には父親・佐藤恵理也(47)の歯ブラシや髭剃り、ヘアワックスなども置いてあった。恵理也は牧師で人前に出る機会が多い。意外と身だしなみには力を入れているようだ。
ちなみに恵理也の名前は聖書の登場人物・エリヤからとられた。恵理也の父も牧師であり、生粋のクリスチャンでもあった。
一方、環奈はなかなか信仰を持てず、2ヶ月前にようや洗礼を受けた。子供の頃一度洗礼は受けてはいたが、形だけというか信仰が腐敗していたので、正確に言えば再洗礼ではあったが。
母親が死んだ寂しさからゲームや漫画の世界に逃げていたが、それではダメだと気づいた。同時に神様にも興味を持ち、信仰心も帰ってきた。
環奈はそんな事を考えつつ、顔を洗い、髪の毛をポニーテールに結んだ。ポニーテールは好きでは無いが、寝癖を絶妙に隠せる位置に結び、なんとか身だしなみを終えた。元々オタク気質というのもあるのか、あまりオシャレには興味が持てない。
そんな手抜き極まりない身だしなみを終えると、食卓へ向かった。もう既に朝食はできていた。母が死んでから朝食作りは恵理也の担当だった。
夕食はたまに環奈も手伝ったりするが、なかなか料理は難しい。はっきり言って苦手だった。面倒臭い工程も多いし、失敗すると後は地獄だ。不味い料理をずっと食べなくてはならない。料理は父に任せておくのが一番だ。
「おはよう、環奈」
「おはよう、お父さん」
笑顔で挨拶し、二人で食卓についた。今日の朝ごはんはキャベツのサラダや菜の花の味噌汁、プチトマトの酢漬けと塩むすびだった。全体的に野菜が多い。
環奈達が暮らす麹衣村は、山に囲まれた田舎だった。牧師という職業は儲からず貧乏状態の我が家だが、教会の人や近所の人から野菜をどっさりと貰い、食費はあまりかかっていなかった。恵理也は魚釣りも趣味だし、時々大きな鯛なども釣ってきて、食に困ることはない。むしろ、都会の人より恵まれている食卓だった。
「いただきます!」
「おいおい、環奈。食べる前は食前のお祈りしなくちゃ」
「えー? そんな事は聖書に書いてなくない?」
「書いてなくても神様に感謝してれば、自然とやろたくなるだろう? この菜の花もキャベツもトマトも誰が作ったんだ?」
そう言われるとぐうの音も出ない。環奈はまだ新米クリスチャンであるので、こういうちょっとした基本的な部分が抜けていた。聖書のルール通りにロボットみたいに守ってれば良いというわけでもない。まあ、食前の祈りについては両親もずっとやっていたし、違和感のない事ではあったが。
環奈と恵理也は食前の祈りをして、朝食を取り始めた。
野菜の甘みが美味しく、太陽の光を食べているみたいだった。食べているだけで元気一杯になりそうだった。
「ところで環奈。最近は、どんな漫画にハマってるんだ?」
「えーとね、月島月美先生の『悪役令嬢は、カフェ店長になって隣国の騎士に溺愛されています』っていう漫画が好き!」
「おー、どういう話か?」
「えっとね」
父親の恵理也は漫画やゲームにも理解があり、こうして盛り上がる事も多かった。
まあ、あまりハマり過ぎてはいけないという事で、単行本を買うのは月一回一冊だけにしている。ゲームも週一回しかやっていない。
不思議な事に信仰心を持ちようになって、あまり娯楽に興味もなくなった。転生もファンタジーにしか見えなくなったし、ゲームも漫画もたまに食べるお菓子のような立ち位置になってしまった。
それに恵理也も以前より話をよく聞いてくれるようになった。ゲームや漫画は母親のいない寂しさを埋めるためにはまっていたから、今はもうどうでも良くなってしまった面も強い。
漫画に話が終えると、恵理也は少し真顔になって言った。
「でも環奈。洗礼受けてすぐの頃は、悪魔からの攻撃も多いから注意しなさい」
「え? マジで?」
恵理也が言うには、この時期が一番攻撃されるらしい。罪への誘惑が多いらしい。悪魔というと霊的な存在に見られるが、メディア、人間関係などリアルなものを通してくる事が多いらしい。例えばお金や性的な罪の誘惑が多い。
「えー、誘惑なんて怖いよ」
「大丈夫だよ、祈ろう!」
こうして二人で祈っていた。不思議な事に祈っていると、心が軽くなってくる。悪魔なんていない、大丈夫と思い始めた。
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