本当に困った鉄研

文字数 5,329文字

そして読み終わった。
詩音ちゃん、向こうはちゃんとsigil(epubオーサリングソフト)の使い方とか、pythonのインストールの仕方とか、いろいろ順序追ってちゃんとやってるよ……。
そうですわね……。
真面目にやってるなあ……。やっぱりお金に窮して必死でやってる私たちと読者さんへのスタンスが全然違う。というか、これ、そもそも、向こうにメーワクじゃない?
それもやや否めませんわねえ……。
というか、この連載の企画自身、ダメだったんじゃない?
そうですわねえ。
だーっ!! でもこれじゃ引っ込みもどうもつかないわよ。

というか総裁もカオルちゃんもいない私たちでどうこうってのがそもそも無理だったのよ!

困りましたわねえ。でも、わたくしたちの目的は向こうと違いますから。
え、違うの? そんな!!
そうですわ。わたくしたちは

「夏の展示のためにトークメーカーの作品を電子書籍にして、少しでも収益にならないかやってみる」

というのがコンセプトですわ。

いや、そりゃそうだけど、でもどう違うんだろう。
つまり、読者が実際にpythonのプログラムを使ってページのhtmlソースを綺麗にしたり、それでできたxhtmlファイルをsigilというソフトに入れてepubファイルにしたり、さらにそのepubファイルをKindleプレビューアでKindleDirectPublishing(KDP)に提出できるかどうかやってみるとか、さらにはそのKDPに登録して収益を上げるとか、そういうことについての読者へのサポートは、一切するつもりはないのですわ。
ひ ど い っ!

詩音ちゃん密かにすごくひどい!

そもそも、それは考えれば分かることですわ。

もし読者の方がそういうことを「自分もやりたいな」と思うことはあるでしょう。

でもそのサポートをするためにファイルの開き方、ソフトのインストールの仕方を手取り足取り教えていたら?

あっ、私たちがJAM(国際鉄道模型コンベンション)に出展する準備をしている時間も収益得るためにがんばる時間もなくなっちゃう!!
そうなのですわ。

実際ソフトのインストールの仕方とか、そういうものはソフトのバージョンが変わったりして、作品にしても陳腐化してしまうことも良くあります。

操作法もメジャーアップデートされてしまえばまるっきり変わってしまって全部説明までやり直しになってしまうこともありますわ。

そんな……かといって読者置いてけぼりが許されるわけないじゃない!
正直、今の時代そのものが平気で人々を置いてけぼりにしていく時代なのですわ。

だいたいわたくしたちがPIC(ざっくりいえばプログラムを書き換えできるIC)をプログラミングしようと必死になったとき、だれか教えてくれました?

……カオルちゃんはあのとき、降級しちゃって棋戦が忙しくなってて、私たちぜんぜんカオルちゃんになにも質問できなかった。

カオルちゃん、鉄道会社でダイヤ作成とプログラミング、それも鉄道会社のアプリ作成のバイトするぐらいにわかってても、頼ることはできなかった。

だって、カオルちゃんにはカオルちゃんの大事な人生があるんだもの。

カオルちゃんは鉄研部員だけど、もともと将棋部にいた子で、現在プロ棋士でもあるのだ。
そうですわ。カオルさんはそれでバイト代を稼いでがんばっていたのです。
いくら同じ鉄研でも、私たちがそれをただ頼りにすると……カオルちゃんがこれまでがんばって勉強してきたことに、ただ乗りしてしまう。あのときはそう思った。

ましてカオルちゃんの人生のかかった棋戦を、私たちのために犠牲にするなんて、できない。

そのことは大事ですわ。


わたくしの知っている「国鉄方向幕書体」というサイトさん、御波さんもご存じのはず。

知ってる! あそこのフォント、すごくかっこいい! 国鉄の行き先方向幕の書体をPCのフォントにしてくれてた!

でも、それがどうなったの?

あれが公開中止、使用許諾条件が変わって、フリーでは使えなくなってしまったのですわ。
ええっ、ほんとなの!?
そもそも経緯はちょっと見れば分かることですが、「いつか有償にしようと思いつつも結果無償で使うひとばかりでビジネスにつながる話が一つもなかった。そのうえ無償で使うだけでなく無償で使うことについての問い合わせばかりで消耗してしまった」というような事情があったようです。それも仕方のないところなのかも知れません。


それによって方向幕書体をロールズさんは有料化しましたが、しかし現在、その移行期間ということとはいえ、公開停止で方向幕書体は利用したくても全くできない状況ですわ。

あれ、フリーフォントじゃなかったんだね……。たしかにすごくクオリティの高い、いいフォントだったけれども。

でも、ここまで人はお金払いたがらないものなんだね……。

結果、払っても使いたいと思うのに、「払っても使うことができない」事態に陥ったのです。

この世の中、とくに鉄道趣味のものとしても、これはとても大きな損失ですわ。

そうね……。世の中にはあらかじめ書いてある説明すらよく読まない人も一杯いるし、それを読んでもなお理解しない人もいる。

それですっかり疲れてしまったんでしょうね……。おつかれさまとしか言えないわ。

もし私たちが同じように成果物を無償で提供したら?

もちろんいい成果物なら、それに感謝してくれる人がほとんどでしょう。


でも、総裁が言われたように「好きでやってるんだろ? だからタダで良いだろ?」と言われてしまうこともあり得ます。


そのうえ、成果物についてのサポートまで無償になってしまったら、わたくしたちの人生の時間が確実に削られてしまいます。

世の中は助け合いが大事だと思うけど、でも確かに、せめてモチベーションを全く奪うようなことは言わないで欲しいわね……。たとえ内心は思っていたとしても。そのことのひどさは理解していて欲しい。
神楽坂らせんさんのご厚意で今回プログラムを借りることができましたわ。

でもそれは借りたに過ぎないのです。

だからこのことには、なにかでお礼を、せめてモチベーションになるなにかを返さなければならないのですわ。

それが世の中の大事な、そして失われかけている原則なのです。

インターネットの世界になって、つい忘れてしまいそうになることよね。

世の中にただ落ちているもの、ただ拾っていいものなんて一つもない。

それを作るために、そのデータを作るために、世の中のだれかが労力をかけている。

そのことを忘れちゃいけないわね。

フリーで流通しているものでさえも、それにはフリーにする理由があるのです。

この世に理由なくタダで使っていいもの、ただで読んでいいものなんてないのです。


最近ではマンガをタダで読めてしまうサイトもあります。ひどいことです。

あのマンガ、一つ一つ、みんな作者さんが人生の時間と労力を費やして書いたものなのに。

本当に悲しくなるわね。あのサイトを支持するなんて言っちゃえる人がいるのが私には理解できないわ。
思っていても決して言っちゃいけない事というものはあるのですわ。

そしてそのことがわからない人が、このウェブという世界では平気で存在してしまう。

そうね……。私たちがこのトーク作品をepubにして収益化するってのも、いろいろな人への感謝無しにやっちゃダメなコトよね。

このトーク作品を置かせてくれるこのサイト、トークメーカーさんにも感謝しなくちゃイケナイし。

そうですわ。そういうことを大事にしなくてはならないのです。

そして、なにかの形でモチベーションを返したり、お礼をすることを考えなくてはならないのです。

そうでなければ、世の中は縮小再生産になってしまうのです。

だれかがやるだろう、きっと放っておいてもやるだろう、じゃダメだよね。確かに。


とても私たちに私たちがやってる電子書籍のとりくみを公開して、サポートを続けるなんて、できそうにもないわ。

神楽坂らせんさんはそれをやろうとしているのかもしれません。すばらしいことです。

でも、らせんさんには深い感謝といつかお礼をするとは言え、わたくしたちにあのマネはとてもできません。

わたくしたちはすでに追い詰められているのです。

そうよね……。世の中に無限の時間を持っている人間はいないものね……。
今一度、神楽坂らせんさんに感謝しましょう。
そうだねー。ほんと、ありがとうございます!! らせんさん!!
それを踏まえた上で、わたくしたちのやるべきアプローチもまた違ってくるのです。


そこで、わたくしたちのこの連載のジャンルは見ましたか?

あ、創作論・評論になってる!
そうです。

つまりわたくしたちのやることは、それなのです。

わたくしたちは、『電子書籍で収益を得る方法』についてではなく、その『収益を得ることについて考察していく』のです。

たしかにそうね。ガイドブックやハウツー本みたいに『電子書籍で儲ける方法!』みたいにやれればそれは儲かるだろうけど、事実私たち儲かってないものね。だからいまお金に困ってるわけだし。
それでもうちの著者さんは幸いにして電子書籍の印税で月1万円になったりしてびっくりしているわけだけど、でも世の中には、もっと儲けている人なんていくらでもいる。

儲けを競ったり、誇ったりすることは、私たちには無縁のことですわ。

誇れるほど儲けられれば、ねえ。そうすれば鉄道模型もたくさん買えるし夏の出展も余裕でできちゃうのにねえ。このままじゃ、無理っぽいもんね。ほんと。
そうですわ。だからそういう電子書籍の作り方とか、電子書籍の売り方はザックリとしかやりようがないのです。

だから、わたくしたちがここでやったことで、よく分からないことがあれば、ググって(Web検索して)貰うしかないのですわ。

でも今はググっても肝心なことが分からないことが正直多いのですが。

そうだねー。へんなハウツーサイトばっかり引っかかることもあるし、書きかけのままアップロードしてある情報もあるもんね。

質問サイトで質問書いた人が答えを「自己解決しました!」だけでおしまいにしちゃってたり。

今回pythonのプログラムを書き換えるに当たっても、わからないことで何度もそういうサイトに当たりましたわ。

正直、ああいう技術系のサイトの独特の読みにくさはなぜなのか、考えこんでしまうこともあります。正直、同じ日本語とは思えないですわ。

その点、カオルちゃんはすごく頭脳明晰で聴くと答えも即答ですごいけどねえ。そういやカオルちゃんの作文したもの、あんまり見てないかもなあ。カオルちゃんの書いたダイヤ論とかすごく細かいって総裁に聞いたことあるけど。
それはよくわからないところはありますわ。でも、わたしたちのやることは、どうやっても手取り足取りのハウツーにはなり得ないし、したくてもできないのです。
そうだねー。でも、これじゃ読者さんの期待裏切っちゃうよね。正直。
わたくしもそう思います。

でも、それもわたくしたちにはどうもできないことなのです。

そもそも読者の期待も制御不能なのですから、それに応えるのもほぼ不可能なのです。

わたくしたちには、ただ、読者さんにわたくしたちの冒険を見て楽しんで貰うことしか、やりようがないのですから。

ということは、やっぱりそれでも読んでくれる読者さんへの感謝も忘れちゃいけないわね。当然のことだけど。
そうですわ。そもそもぜんぜんサイトの傾向すら分からなかったわたくしたちエビコー鉄研と「鉄研でいず!」をここまであたたかく受け入れてくれ、支持してくれたのですから。当然、感謝しかないですわ。
そうだねー。ホント感謝だねー。


でも、ここからどういう話になるの? ちょっとなんかよくわかんない。

御波さん、だから申し上げたとおりですわ。


あとは慣れないpythonプログラミングにおいての、わたくしたちの七転八倒ぶりを楽しんでいただくしかないのです。

ええっ、そんな悲惨な内容なの?!
もともと前の「鉄研でいず!」も最後は『死の彷徨』みたいになっていたわけですから。
あ、私たちの「鉄研でいず!」に「2018年、最後の冒険」が付け加えられてる!!
本当に最後の冒険になってしまうでしょう。おそらく。
ええっ、総裁のおうち、親子関係が大変だって聞いてたけど、それ以上に大変なことに? それに私たちの冒険、もう終わっちゃうの?
そうでしょうね。おそらく。
悲しいよ……そんなの、悲しいよ!!
なんにでも終わりはあるのです。

そして、せめて最後に、夏の出展をがんばりたい。

そのための電子書籍なのです。

そうだけど……だとしても、悲しいよ!!
それでも、わたくしは話を進めます。

総裁のためにも。

詩音の決意の表情は、いつになく厳しいものだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。

その驚異の類推能力でどこまでできるのか?

武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。

実は電子書籍や書籍にも詳しい。


ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色