第29話  染谷龍一視点 染谷三兄弟の絆

エピソード文字数 5,756文字

 染谷龍一視点です。



 ※

おっ! おかえり龍兄ぃ。どこ行ってたんですか?
どこでもいいだろ? 

どっかの組の会合?


あっ! まさか抗争の極秘任務?  

うるせーから! どっかいけよ!
うぉっ! マジ切れ顔っ! ごめんなさいぃ
すまん。今は一人にしてくれ

 まとわり付く虎を排除して一目散に自分の部屋に向かう。


 ベッドが見えた瞬間、俺は勢いよくダイビングしていた。



 大の字で寝転がったまま数分。

 さきほどの出来事を振り返っていると、沸々と喜びが沸きあがってくる。

よし。よし。よしよしよしっ!!  よっしゃぁ~~!


何とか……きっかけは掴めたぞ。

 無難な結果だ。あれでいい。十分だ。


 

オムライスの人か。くっくっくっ。


ふははははっ!

 とにかく顔を覚えて貰えた。今日は合格だ。



 喫茶店に入るまでは、白竹さんのオムライスを頼んでカモフラージュしようと思ったが……

 楓蓮さんが俺のテーブルにオーダー取りに来たからな。


 彼女を目の前にして、俺の頭は一発でイカれちまった。


 これは運命かも。そう直感した時には、ド本命である楓蓮さん仕様の愛情オムライスを思わず注文してしまった。



 彼女が作った一番最初のオムライサーになっちまった事と、厨房で緊張していたあの姿を見て、有頂天になっていたのは言うまでもない。

 


 思わず写メを撮ってしまい引かれた感半端無かったが、あの記録は是非とも証拠として残しておきたいが為だ。


 ちょっと変なヤツの方が喋りやすい。

 突っ込み所が無いと向こうも話題が無いからな。そう。あれは確信犯だ。



 そして外で楓蓮さんと少し喋った事により結果オーライ。


 一発逆転。終わりよければ全てよし!

でもな……
 交差点ですれ違った彼女の目は……全然違った。

 分かっている。分かっているんだけど。やっぱりキツイ。



 兄貴の言う通りだった。その意味が今なら痛いほど分かる。





 彼女の瞳に写る。二人の俺の姿。 

 

 一人にはとても優しい眼差しを見せてくれる。

 知り合い。友達。バイト仲間として俺に接してくれる。


 女として。楓蓮さんは俺を……山田龍子として認識している。




 もう一人は、龍一では今日初めて会ったばかり。


 

 その瞳は、龍子とはかけ離れた態度を見せた。

 当然だ。今日初めてあったばかりなのだ。

 知り合いでもなんでもない、ただのオムライスの人なのだ。




 次の一手はどうする?

 今回はやや強引だったとは思っている。



 立て続けに喫茶店でオムライスを頼むのは、あまりにも無謀すぎないか? 

 今日の時点でも引かれていた感があったし……



 しばらく間を開けるか? 

 それとも今度こそ白竹さんのオムライスを頼んでカモフラージュするのもいいかも知れない。


 

 あまりにも真っ直ぐストレートで楓蓮さんに近寄るよりも、まずは変な男ではないと印象付けさせる方が良くないか?



 白竹さんや弟の魔樹にもあまり悟られないようにもしたいし……

 ここは一旦様子を見た方がいいかも知れない。





そうしよう。すこしづつでも彼女に近づければ

 

 ベッドの上でジャージを脱ぎ、ズボンを投げ捨てた。


 そのまま寝転んで天井を見上げる。

 そして目を閉じると、身体が徐々に変化してゆく。

 自然と溜息が漏れる。

 俺は立ち上がり、縦長の鏡の前に立った。


 

 そこには女の自分が写っていた。

 長くなった髪。少しだけ膨らんだ胸に、ブリーフはピチピチに広がっちまってる。

信じろ。自分を……自分自身の力を



 自分に言い聞かせる。何度も何度も。



 鏡に映る自分。

 その泣きそうな面に向かって自然と声が漏れた。  





 楓蓮さん。あなたは……

 こんな俺でも、好きになって……くれるだろうか?

 


 ※



 楓蓮さんと初めて出会ったのは、あの呪われたコンビニ前だった。妹のような子と一緒に手を繋ぎ、俺の前を通り過ぎた。


 その姿を見たとき、その瞬間――


 俺は一撃で……彼女に惚れてしまったのだ。


 一目惚れなんて、俺には絶対縁のないものだと思い込んでいた。

 そんな事は兄貴にあっても、俺には無いと信じていた。

 

 その時までは。



 最初のシーンは今でも忘れられない。

 楓蓮さんがこちらを向き瞳が合った瞬間、頭のてっぺんから雷のような衝撃が脳内を駆け巡ったのを覚えている。


 その直後から彼女を視界に入れるだけで鼓動は早くなり、見られるととても恥ずかしく感じてしまった。



 それは今まで感じたことの無い感覚。


 今まで兄貴にしかビビった事のない俺が……

 どんなに大勢の組員に囲まれても微動だにしない俺が……

 暴走族に一人で突っ込んでも臆することなかった俺が……


 たった一人の女性に見られるだけで……

 あっさりとダウンした。


 今となっては良く分かる。あれが一目惚れだったって事に。

 気が付けば、彼女の事ばかり考えている自分がいた。




 龍子で楓蓮さんと知り合えば知り合うほど、その気持ちが大きくなってゆく。


 可愛いし、綺麗だし、俺よりもグラマーで胸も大きくて、とても優しい。

 それに礼節もしっかりしているのも大きい。しかも……ケンカも強いとか。最高じゃねぇか。



 全てがむちゃくちゃ俺好みなのだ。


 もう何もかも好きすぎて……たまらない!



 楓蓮さんとの他愛も無い会話も、何故か共感できる部分も多く、友達としても相性は抜群に良いと感じた。


 そういう意味では高校の黒澤くんのような、同じような雰囲気まで持っている。


 まさに最強。俺の好みの全てか彼女の中に詰っている。

 それが楓蓮さんという人なのだ。



 ※


 俺の家はマンションの十階にある。結構グレードの高いマンションで、俺と虎、二人で暮らしていた。


 家の隣のインターホンを鳴らすと、玄関から出てきたのは綺麗な女性が出てくる。



あらっ。龍子さん。こんなお時間にどうしたの?

夜分すみません。


翔兄ぃにちょっと話がしたくて。

 彼女は俺の兄貴の嫁さん。桜さんと言う。


 俺が今までめぐり合った中でも、突き抜けた美人だ。

珍しいな。お前が来るなんて
はい。ちょっと相談しにきました


 俺の兄貴。染谷家三兄弟の長男。翔一兄貴。

 年は六つ離れており、今年で二十二歳になる。 


 染谷家の大黒柱であり、俺と虎がもっとも尊敬し、目標である。

 頭も切れるし、ケンカだって俺が百人で掛かっても勝てる気がしない。

 ぶっちゃけモンスター並みのスペックだったりする。


 リビングに案内されると、最初は気軽に喋ってきた兄貴も、俺の神妙な態度を見るや否や、俺が喋るのを待っているようだ。


 正座な俺に対し、兄貴も正座に座りなおす。


翔兄ぃ。俺、もしかしたら……

てめー。声がちっさくて聞こえねーよ。


桜さんも兄貴の横に座ると、二人は俺にずっと注目していた。
兄貴と同じ。ある女性に一目惚れしたかもしれない
まぁ。龍子さんも? 運命の人が現れたのね

 桜さんにそう言われると、滅茶苦茶照れてしまいます。




 そう。兄貴も昔……この桜さんに一目惚れしたのだ。   




 兄貴は何も言わず、俺をじっと見つめてくる。

 俺もその気持ちを分かってもらうべく、その強い眼力に真っ向から挑んでいた。


そうか
はい……

 染谷家三兄弟は以心伝心。絆はとても強い。

 言葉は無くとも、兄貴は俺の気持ちを察してくれたのだろう。

龍子。お前は俺や桜が進んできた道。分かっているだろう?
分かってます

 知ってる。兄貴と桜さんがどんなつらい道を歩んできたのかを。


 俺や虎は……目の前でずっと見てきた。

入れ替わり体質の人間と、普通の人が結ばれると言うのが、どれほど苦難の道なのか。承知してます

 そう。桜さんは普通の人間なのだ。

 それでも兄貴と桜さんは……長年の末、ようやく結ばれたのだ。


 まだ日は浅く、結婚は去年の話になる。

それが分かっていればいい。お前の好きにしろ。


入れ替わりの人間だからって、バレるのを恐れるな。

お前が本当にその女性の事が好きなら、お前の信じる道を進め

そうですよ龍子さん。

それに特殊体質って染谷家が思ってるほど、秘密にしなくても大丈夫。


その女の子が龍子さんの愛を感じられれば……きっと乗り越えられる

桜さん……
楓蓮さんが桜さんみたいな考えの持ち主なら……

でもな。最初は慎重にいけよ。

まずは秘密を守れるような人間なのかどうか、お前がじっくりと見定める必要がある。


まぁ……俺を見てるから大丈夫か。

そうね。翔一さんも滅茶苦茶慎重だったもんね。

あの頃は全然手を出してくれなくて、私も悩んでました

でもな桜。それは俺達にはそう簡単には出来ないんだ。

入れ替わり体質ってのは本当に厄介なんだよ

そうですか?
これは入れ替わり体質じゃないと分からない苦しみなんです。

俺達染谷家が人と付き合うには、最終的に全てを話さなければならない。


それがどれだけ怖い事なのか。恐ろしい事なのか。

その決断は、親戚や家族、兄弟達。全てに関係してくるんだからな。


 付き合う前で全てを暴露し、逃げられるならまだいい。

 お互いがこうむる被害も最小限だと思う。



 だが結婚とかの話になってから、その話をして失望させる可能性だって十分ありえる。


 ずっと真実を語らないまま、最終的に暴露するのは、人としてどうなのか? 

 入れ替わり体質を隠して、付き合うなんて、まるで詐欺ではないのか? 




 兄貴だって、桜さんと付き合っている最中は地獄だった。

 その頃の兄貴は、悩み、苦しみ、必死にもがいていた。



 桜さんに真実を打ち明けた方がいいのか、まだ黙っているのか? 

 隠すのは彼女にとって失礼じゃないのか。その行動は本当に彼女の為になっているのか?



 結婚する直前に、告白された彼女の気持ちを考えた事はあるのか?

 それとも、生涯バレずにひたすら隠し通すのか?



 最終的に兄貴は本当に彼女を好きなのか。

 それさえ分からなくなるほど……この入れ替わり体質に苦しんでいたのだ。

 

 

 俺や虎はそんな兄貴を見て……

 人を好きになるなんて、簡単に出来る訳が無かった。

 

 

 入れ替わり体質の人間がその正体をカミングアウトするのは、果てしなく難易度の高い壁があるのだ。



 それなのに……
それはもう聞き飽きました

 きっぱり言う桜さん。不意にふふっと笑う兄貴。


 ですよね。この議論になると桜さんはいつも俺達の意見を否定するんだ。

染谷家はあまりその特殊体質は好きではなさそうですが、でもね。


普通の人から見ると入れ替わり体質の人間は、凄く魅力的で……素晴らしいものだと思っています。


あなた達。染谷家だけに与えられた、唯一無地の能力なのです。

桜さん……

龍子さん。あまり特殊体質の事で悩まないで。


それよりも、その女性と上手く付き合えるかどうか、じっくり考えて、普通にお付き合いすればいいからね

桜さんの助言。普通の人からの言葉は何よりも心強い。 

本当に好きなら、結婚したいと思うなら、最後に全てを話してもきっと大丈夫です。


私が……そうだったから

……ありがとう桜さん。俺。頑張ります
桜さんの言葉を信じて……やるしかない。

いいか龍子。お前は三兄弟の中でも……ずば抜けた能力の持ち主だ。

頭も良いし、ケンカも強い。バックには天下の山田組もいる。全てを兼ね備えているんだ。


お前が本気出せば何でも出来ると思ってる

中学生の頃。全国統一してましたからね
それは言わないで桜さん。かなり汚点だと思ってますから。
お前の本気。彼女に見せてやれよ。きっと大丈夫だ
はいっ!
お前。声でかすぎ。その気合を彼女に見せて来いよ
 思いっきり大きな返事してしまった。ごめんなさい。

 いつも注意されてんのに、気持ちが高ぶって思いっきり叫んでしまった。

何かあったら相談しに来てね。


私も翔一さんも……龍子さんの味方だから

分かりました!

 翔兄貴。桜さん。本当にありがとう。

 

 入れ替わりの人間でも、普通の人と結ばれる。

 それを実践した二人の応援は、今の俺にとって計り知れないほどの勇気を与えてくれた。 

 ※


 桜さんと翔兄に見送られ、家を出るとさっさと自宅に戻る。すると虎が玄関に走ってきた。

お? 翔兄のとこ行ってたの?
あぁ。ちょっと絞られてきた
何で言わないんだよ~俺にはあんまり行くなって言うくせに。新婚生活を邪魔するなとか
真面目な話だ。そう言う時はいいの
ずるいぞ龍ねぇ。俺だけのけ者にして
わかったわかった。じゃあ……今から何処か行ってやろうか?
えっいいの? 暴走? カチコミ? ストリートファイト?
どれでもいいぞ。好きなのを選べ
くぅお~~~! どれにすればいいんだぁ!

 悩みまくる虎。

 こいつはこいつで、戦う事しか頭に無い戦闘民族からな。


 誰に似たんだマジで。

お前も着替えろ。ちょっと夜中の散歩でもしよう
了解! ヴァルハラの奴らにも連絡するぜ。総長直々の大名行列! ここに開幕すっ!

 勝手に言ってろ。


 あっ。ちなみに俺がチームを作ったわけじゃないぞ。勝手に虎が言ってるだけだ。

 勝手に総長とか、楓蓮さんが特攻隊長とか、こいつの頭の中でドリームチームを結成してるに過ぎない。

 

 まぁ楓蓮さんがチームに入るなら、一緒に入るけど。

 喫茶店のメイド姿で暴走したいという気持ちは、ある。


お前と二人きりでいいから。ちょっと付き合え

えぇ~~? いつも二人で夜中俳諧してるじゃん。


大部隊で暴れまくりたいぜ

大部隊って……メンバー八人しかいねーんだろ?


俺達合わせても十人しかいねーのに……

今日は勘弁してくれ。


お前に、ちゃんとした話があるんだよ

 虎にもちゃんと伝えておかねば。


 楓蓮さんに一目惚れした事を。




 そして。俺は真っ直ぐ……彼女だけを目指すと。 

――――――――――――――



 登場人物紹介


 染谷 翔一 (そめや しょういち) 二十二歳。


 染谷家三兄弟の長男。入れ替わり体質。


 龍一が認める最強の兄貴。頭も良く、ケンカも強い。

 面倒見が良く人望もあり、山田組の中でも彼を慕う人間は多い。


 昨年、桜と結婚。長い恋愛を経てようやく結ばれ、只今新婚生活真っ最中。

 ちなみに家は、龍一と虎が住む住居の隣となっている。

 登場人物紹介 


 染谷 桜 (そめや さくら)二十二歳


 翔一の奥さん。普通の人間。


 龍一や虎一も彼女との付き合いは長く、結婚前から既に兄弟のような真柄である。

 

 普通の人間なので、入れ替わり体質の人間が持つ独特の概念を真っ向から否定したりする。

  

 普段はとても物静かな性格だが……

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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