11.難民キャンプからの武力侵攻

文字数 939文字

1994年12月3日土曜日、午前8時
UNHCRンガラ事務所会議室
 
 UNHCRの定例会議で、ゴマの難民キャンプから旧ルワンダ軍兵士と民兵がルワンダ国内に武力侵攻したことが知らされた。
 侵攻の規模や戦闘の状況などはまだ明らかになっていないが、ンガラのキャンプでも起こる可能性があり、深刻に受け止められた。その兆候はベナコでの活発に行われている軍事教練からも見て取れた。同じように国境を越えてルワンダに侵攻したら、戦争になる最悪の事態だ。

 先日、トシさんが言っていたカンボディア難民キャンプの軍事基地化が思い出された。
 ずっしりと、会議室全体に重たい空気が漂った。

 UNHCRは難民キャンプ内での軍事教練を即刻中止するようにキャンプの難民組織に強く申し入れていたが、難民が独自に訓練をしているもので止められない、とけんもほろろにあしらわれた末、逆に彼らには手を焼いているという嘘か真か分からない回答で煙に巻かれたらしい。

 フツ人難民組織が関与していないはずがない。UNHCRが警察や軍隊をキャンプに配置して治安維持が出来ないことを分かってのことだが、UNHCRによる再三の国連PKOなどの治安部隊の派遣要請を拒んで出来た国連安保理事会にもその責がある。
 
 会議が終わり鬱々とした気持ちで会議室を出るとミキに呼び止められた。
「岡田先生、ちょっといいですか?」
「何か急ぎ?」 会議の内容で気が重く、何も話す気にはなれなかった。

「日本からうちの給水プロジェクトの取材でテレビが来ているの。それで、他の日本人援助関係者にも話を聞きたいというので、お願い出来ます?」 と、ミキは言った。

 はるばるアフリカ奥地まで来て難民援助をする日本人をテーマに取材して番組を作っているらしい。日本赤十字派遣の日本人ナースのグループも取材するという。

「いいですよ。来週の土曜の午後だと病院も手すきだから」 
 気乗りがしなかったので来週末には取材チームも帰国するだろうと思った。

「ありがとうございます。来週日曜に車でンガラを出るのでちょうどよかった。ルコレのクリニックに午後2時でいいですか?」 彼女が言った。
「じゃあ、10日の土曜日午後2時にルコレのクリニックで」 

 日曜日といっておけば良かったが遅かった。
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