ヒツジが第5章の練習問題をやってみるページ
文字数 3,889文字
400~700字で、形容詞と副詞を使わずに、何かを描写する文章を書いてみましょう。会話もなしです。
ようするに、動詞と名詞と代名詞だけを使って、ひとつのシーンやアクションを生き生きと描くのです。
時をあらわす副詞(「それから」「今度は」「のちに」などなど)は、ないと無理かもしれませんが、できるだけ使わないようにしてください。簡潔に、つつましやかにね。
いまあなたが書いている小説があるなら、そのつづきのページを、この練習問題のやりかたで書いてみてもいいのでは。
すでに書いた小説の一部分を「より簡潔に/つつましやかに」書き直してみてもいいでしょう。面白いかもしれませんよ。
「富士には、月見草がよく似合う。」
→修飾語は「よく」の1個だけ。
「孤高の富士には、けなげで可憐で凛とした月見草が似合う。」
→「孤高の」「けなげで」「可憐で」「凛とした」がぜんぶ修飾語。
燃えてきた! わーい!
↑リアルなダイエットはつねに惨敗なのに、文章の減量と聞くとがぜんやる気を見せるヒツジ。
「激しく怒った」を「激怒した」にして、修飾語を中に入れ込んじゃう、というのは、ル=グウィンさんオススメのテクニックなのです。
この場合は「邪知暴虐の王」のほうが断然いいけどね!!
つまり「形容詞」「副詞」「形容動詞」などの用語は忘れて、
文中の他の言葉を「飾っている」言葉を、マックス減らす、
と考えましょ。
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
なんと! ほとんどない!!!
メロスは激怒した。[…]かの暴君を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪のにおいを嗅ぎ取ることにかけては、誰にも負けない男であった。
◆対策2:修飾語と、それが飾っている語をドッキングしちゃう。(上のメロスの例では「邪知暴虐の王」を「暴君」に)
◆対策3:2の応用編。
単語レベルでなく、まとまった表現ごと入れ換えて、修飾語を吸収しちゃう。
(上のメロスの例では、「邪悪に対しては、人一倍に敏感であった」→「邪悪のにおいを嗅ぎ取ることにかけては、誰にも負けない男であった。」
ということは、オリジナルの文章の修飾語が、削っちゃだめな「ごちそう修飾語」だってことですね!
はずかしいけど、わたしの小説で、修飾語をぎりぎりまで削ったつもりで書いた部分を挙げて、というか、さらすので!(冷や汗)
ちょっと見ていただけますか?
連載中の長編小説『ダブルダブル』巻二より。
ヒロインに片思いしている男の子クリストフくんが、ひょんなことで彼女とふたり異世界に来てしまい、一日じゅう二人きりで過ごして、夜明けを迎えたときのシーンです。
あ、えっちは皆無。
ヒロインにはちゃんと恋人がいて、その彼はクリスくんにとって――ようするに、主君なので。
(『ダブルダブル』を(まだ笑)お読みでないという読者さまのために、設定をかんたんに説明しますと、
クリストフは彼の字[あざな]で、本名は、佐藤四郎嗣信[つぐのぶ]と申します。
湘南に住む高校生です。
しかも、いまは白狐の姿になっております。
もうこの段階でついていけないというかたは、この設定はすっぱり忘れてお読みください。それでもたぶん通じると思います。(^^ゞ)
(該当エピソード:「うちへおいでよ (2)」
よかったら読みにいらしてくださいね!)
クリストフは顔を上げて、柔らかく色を変えていく空を見つめる。
今日こそは、彼女を連れて帰ろうと思う。もとの世界へ。
昨日、彼女、帰るって言わなかったな、と思う。自分も言わなかった。でも――今日は、帰らないと。
その先のことはわからない。白紙だ。きっと日々は続いていくのだろう。何事もなかったかのように。
この一日はたぶん自分にとって永遠の一日で、自分は生涯、この一日をくりかえし思い出すことになるのだろう。
それが自分にとって苦痛なのか至福なのかわからない。たぶん両方だ。
それとも、忘れる日が来るのだろうか。苦痛でも至福でもなくなる日が。
そうなる前に、死にたいな、と思う。
夜が明けていく。
こういうとき、ギリシア神話だとかならず言う。
〈さて 暁が薔薇色の指をひろげるとき……〉
女神の白い指のさきにほのかに血の色がかよい、天の球面をピンチオープンしてくれているイメージだ。すごいよね。古代ギリシアにまだタッチパネルないのに。
(ん?)
その薔薇色の空を一瞬ちらりとかすめた光を見て、白狐はくんくんと鼻を鳴らした。
(稲妻?)
稲妻にしては不思議だ。空に走った亀裂が、そのまま残っている。
(わっ)
タイミングを同じくして派手にぐぐう……と鳴ったのは、彼のおなかだった。
(525字)
クリストフは顔を上げて、柔らかく色を変えていく空を見つめる。
今日こそは、彼女を連れて帰ろうと思う。もとの世界へ。
昨日、彼女、帰るって言わなかったな、と思う。自分も言わなかった。でも――今日は、帰らないと。
その先のことはわからない。白紙だ。きっと日々は続いていくのだろう。何事もなかったかのように。
この一日はたぶん自分にとって永遠の一日で、自分は生涯、この一日をくりかえし思い出すことになるのだろう。
それが自分にとって苦痛なのか至福なのかわからない。たぶん両方だ。
それとも、忘れる日が来るのだろうか。苦痛でも至福でもなくなる日が。
そうなる前に、死にたいな、と思う。
夜が明けていく。
こういうとき、ギリシア神話だとかならず言う。
〈さて 暁が薔薇色の指をひろげるとき……〉
女神の白い指のさきにほのかに血の色がかよい、天の球面をピンチオープンしてくれているイメージだ。すごいよね。古代ギリシアにまだタッチパネルないのに。
(ん?)
その薔薇色の空を一瞬ちらりとかすめた光を見て、白狐はくんくんと鼻を鳴らした。
(稲妻?)
稲妻にしては不思議だ。空に走った亀裂が、そのまま残っている。
(わっ)
タイミングを同じくして派手にぐぐう……と鳴ったのは、彼のおなかだった。
だけど、たぶん皆さんお気づきのように、「時」や「順番」をあらわす副詞が多いんです。半分近く?
(ル=グウィンさんも「時をあらわす副詞(「それから」「今度は」「のちに」などなど)は、ないと無理かもしれませんが」と言ってくださっていたやつです。)
これをもーっとしぼるとどうなるか……?
クリストフは顔を上げて、柔らかく色を変えていく空を見つめる。
今日こそは、彼女を連れて帰ろうと思う。日常世界へ。
昨日、彼女、帰るって言わなかったな、と思う。自分も言わなかった。でも――今日は、帰らないと。
その先のことはわからない。白紙だ。きっと日々は続いていくのだろう。何事もなかったかのように。
この一日はたぶん自分にとって永遠の一日で、自分は生涯、この一日を思い出しつづけることになるのだろう。
それが自分にとって苦痛なのか至福なのかわからない。両方なのだろう。
それとも、忘れる日が来るのだろうか。苦痛でも至福でもなくなる日が。
そうなる前に、死にたいな、と思う。
夜が明けていく。
こういうとき、ギリシア神話だとかならず言う。
〈さて 暁が薔薇色の指をひろげるとき……〉
女神の白い指のさきにほのかに血の色がかよい、天の球面をピンチオープンしてくれているイメージだ。すごいよね。古代ギリシアにまだタッチパネルないのに。
(ん?)
その薔薇色の空を一瞬ちらりとかすめた光を見て、白狐はくんくんと鼻を鳴らした。
(稲妻?)
稲妻にしては不思議だ。空に走った亀裂が、そのまま残っている。
(わっ)
そのとき派手にぐぐう……と鳴ったのは、彼のおなかだった。
赤いまま残したところは、削ると意味がわからなくなっちゃう。
青は、修飾語なしの表現に言い換えてみた部分です。
『ダブルダブル』、むだなおしゃべりをだらだらしているように見せかけて、じつはこれくらいしぼりにしぼって書いてるんです。
(さらに小声で)頭から血が出るんじゃないかと思うことありますよ……
いよいよ! お待ちかね?! 「人称」と「視点」を学びます。
乞うご期待なのでありますー!