橘 麗名《たちばな れいな》 四

文字数 949文字

「ただいま」

 東京都国分寺市。ここに私の家がある。

 比較的大きな家だけど、豪邸って訳じゃない。お父さんもお母さんも、豪邸を建てることを嫌ったらしい。その代わり、家の設備にお金がかかっている。床暖房とか、お風呂も最新だし、トイレも3つある。そんなにいらないけど。


「お帰り」


 リビングに入ると、お祖母(ばあ)ちゃんが笑顔で迎えてくれた。

 私は、お父さんとそれほど仲良くない。というか、悪い。お母さんには辛く当られていたし、だからお祖母(ばあ)ちゃんの存在が救いだった。


「これ、届いてたわよ」


 お祖母(ばあ)ちゃんが差し出してきたのは、白い封筒だ。この間受けたオーディションの合否を報せるものだろう。

「ありがと」

 瞬間、作ったような笑顔になった。お祖母(ばあ)ちゃんの目の前で封筒を開ける自信がなくて、すぐに自分の部屋に戻った。


 2階に私の部屋がある。けっこう広くて、7畳くらいはあるのかな。


 平静を装いつつも、胸はどきどきとしていた。今回は自分でもわりと手応えがあったからだ。

 部屋に入ってすぐに、封筒を開ける。一枚の便箋が顔を出した。




株式会社 芸音(げいおん) タレントオーディション選考結果のお知らせ

拝啓

時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

この度は弊社主催、芸音 タレントオーディションにご応募いただき誠にありがとうございます。

厳正なる審査を行いましたが、この度は残念ながらご期待に添いかねる結果となりましたのでここに謹んでご通知申し上げます。何卒あしからずご了承くださいますようお願い申し上げます。

再度のチャレンジを期待すると共に、貴殿のより一層のご活躍をお祈りいたします。
                    敬具


          株式会社 芸音 新人開発部




 無慈悲な宣告がもたらされた。まるで鳩尾(みぞおち)に拳の一撃が入ったみたいだ。


「…なんで」


 思わず、そう口に出していた。手応えはあったし、自信もあったのに。


 ベッドに、腰をおろす。頭がぐらぐらする。そんな感覚が自分を襲っていた。



『下手ね、あなたは。女優には向かないわ』


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み