第5話 浩二の場合

文字数 1,048文字

俺は、裕一郎にひとつだけ秘密にしとる事がある。例の『願いが叶う石』の事や。
あの石はそもそも俺がフリマで出した物や。
数か月前に手に入れて、使うことなく転売してしもたもの、
まさか今度はあいつが手に入れるとは思ってもいなかった。

裕一郎とは同じ大学のクラスメイトで、実に気の合う親友や。決して秘密にしようと思って黙っとった訳ではない。
何日か前に奴から電話があり、「おもろい物を手に入れた、手伝ってくれへんか」という内容やった。
翌日、四条の喫茶店で待ち合わせて話を聞くことになった。
俺の時とは少し入手方法が違うみたいだ。
とにかく何処かのタイミングで話そうと思っとったが、話しそびれて此処まできてしもた。
明日には必ず話そう!

翌日の夕方、四条駅前で裕一郎と待ち合わせた。
今日は久しぶりに雨も上がって晴れ間も見える。
鴨川がキラキラと夕方の陽をあびて光っている。
裕一郎はすでに待ち合わせ場所に到着しとったようや。軽く手を上げ目を合わせ近寄る。「どう、何や進展は」
「まあまあかな。浩二こそ何かあったの?」
「うん、ちょっと歩こうや、天気もええし」
「久しぶりだよな、晴れたの」
そういいながら四条から三条に向かって鴨川沿いを歩き始めた。俺は歩きもって一通りの事を裕一郎に話した。

聞き終えた裕一郎は
「こんな偶然あるんだなぁー」
「黙っとった事。ほんまにごめん」
「ありがとう、大丈夫さ。僕たち似た者同士って事か」
「そう言うことになるのかな?・・・・ただ不思議な事があるんや。そもそも俺はネットで申し込んで、直接石を手に入れたけど、今度はいっぺん人に預けとったやろう」
「たぶん浩二が転売してからも何人もの人の手に渡り、受取方法が変わって行ったんじゃないかな」
「なるほど」
「実際のところ、あの石を使って何人もの人が願いを叶えたのだろうか?」
「願いというよりも、抱えた不安を解消してもろたのかなー」
「浩二、お前は何か願いは叶ったのか?」
「俺は最終的に使わなかったよ。ひとりで色々と問題を書き出しとったら、へこんで来ちゃって、逆に頑張ったかな」
「それって、ある意味、願いが叶ったんじゃないのか」
「そうとも言うな!裕一郎、お前はどうするんだ」
「僕も同じだ!」
「そっか!」
何だか俺は、裕一郎に全てを話してスッキリしてしまった。裕一郎もいつになく晴れやかな顔をしとる

「おい浩二、あれ見ろよ」
裕一郎の指さす空には大きな月が雲の間から顔を出している。
今日は新月だ。
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