第37話 決定

文字数 2,071文字

 瞬く間に城壁まで迫るがセブルはスピードを緩めない。このままでは城壁に激突するのではとユウトは心配になりかけた時、セブルは大きく跳ねると体をひねり城壁へ垂直に音もなく着地する。そしてまるで水泳選手のターンの様に壁を蹴りだし速度を増して反対側の城壁へ向け駆けた。

 ユウトは壁を使っての折り返しには驚かされたがそれ以上にセブルの乗り心地の良さに驚かされる。身体をバネの様にしならせ全身で走るセブルの背中においても非常に安定していた。セブルの毛による鞍が揺れや振動を減衰させているようだった。

 セブルはもう一度城壁を使って折り返す。二回目ではすでにユウトもディゼルもセブルの動きに対応していた。

 そして出発した地点へと戻ってくる。セブルは停止地点手前から減速を始めて緩やかに止まった。

「これほどとは。得体は掴めないがこの能力なら役割をはたせるか」

 クロノワは感嘆したようにつぶやく。

「ええ。充分です。馬と違って目の前が開けているのも盾が使いやすい」

 ディゼルがクロノワに所感を返した。

「ありがとう、セブル。確認は済んだようだ」
「なーうん(当然です)」

 ユウトの礼にセブルは満足げに返答すると、まるで液体の様に二人の又をすり抜けユウトへ寄り添う。ユウトはセブルの頭をなでた。

「どうだろう。これで問題はないかな。オレは馬に乗り慣れないからセブルの方がいいんだけど」
「よし。ユウトの案でいこう。これで足の確保はできたな。次にユウトはディゼルの魔術盾への魔力の補充を頼んだ。補充後は作戦決行まで休んでいてくれてかまわない」
「ああ。わかった」

 クロノワはユウトに次の行動指示を出してガラルド、ヨーレンと共に城壁の方へと向かっていった。ガラルドは丸薬の袋をユウトへ預け使用する時機はユウトに任せるむねを伝え、ヨーレンは魔力の補充のコツをユウトに伝えて別れる。

 残ったのはユウト、ディゼル、レナ、セブル。

 ユウトはディゼルに尋ねる。

「魔力の補充に集中するためにこの砦の中で人の少ない集中できる場所はないか?」
「うん。それなら騎士用に当てがわれている部屋があるからそこを使おう。今は他の団員も出払っているだろうし。休むためのベッドもある」
「そこが丁度よさそうだ。案内を頼むよ。あ、それとレナに頼みがあるんだけど」
「ん、何?」

 話を振ったユウトは不意にレナと目が合ってしまいグッと高まるものがあったが咄嗟に視線をそらして何とか平静を保つ。

「セブルが今この状態だから部屋の中に一緒に入るのは難しいと思うんだ。たぶんある程度時間が立てば元に戻ると思うからそれまでセブルと一緒にいてやってくれないか。セブルだけにしておくと周りも落ち着かないと思うし」
「ええ、いいわ。まぁ会議してた部屋あたりでのんびりしてるかな。あたしも今はできることなさそうだし」

 レナの承諾にユウトはひとまず胸をなでおろす。チクリと刺される感覚がしたのはセブルの不機嫌な感情を感じ取ったからだとわかる。

 ユウトは座っているセブルに歩み寄り首元に抱き着きささやく。

「魔力が減って理性が緩むと何するかわからないからレナの相手を頼む」
「・・・なむぅ(わかりました)」

 こちらの方の承諾も得てユウトはセブルから離れる。ユウトは心なしか毛が名残惜しそうにまとわりついたような気がした。

 それからユウトはレナとセブルから分かれディゼルに案内されて先ほどまで会議を行っていた建物から少し奥に進む。広場を抜けた先にある建物は他のものと比べどこか小ぎれいで整えられている印象をユウトは受けた。

 大きな両扉の片方をディゼルが開けてユウトを招きいれる。入ってすぐ広間になっておりそこから左の通路そ進み一室に案内された。

 部屋は広く天井も高い。数台のベッドと大きめのテーブルに背もたれのついた六脚の椅子。先ほどの広間も含め部屋はさっぱりと整えられていてユウトたちが宿泊する予定だった宿と同じ砦の中なのかとユウトは思った。

「どれでも好きな席を使ってくれ。今盾を外す」

 そう言ってディゼルは左腕に装備していた盾と一体になったガントレットのベルトを解きだす。その作業にはユウトが考えていた以上に時間が掛かった。複数のベルトに加え紐も使って腕を固定しており構造は複雑に見える。ディゼルは取り外した盾付きのガントレットをテーブルの上に静かに置いた。

「充填口は前腕内側の解放してる部分。よろしく頼むよ」

 ディゼルはそう言いながらガントレットの装甲板をずらすと金色のラインが放射状に入った曲面が現れる。

 ディゼルの丁寧な取り扱い方を見ても魔術具とは高価で希少な道具なのだろうとユウトは思う。それを気軽に貸し出すガラルドにユウトは呆れるがそれを不可抗力とはいえ半壊させてしまった自身も迂闊だっただろうかと思案した。

 そこまで考えてディゼルの剣を損壊させたことを思い出しユウトは一人いたたまれない気分になった。

 ともあれ今回は作戦を成功させる重要な行為であると自身に言い聞かせユウトは気を引き締める。慎重に魔力の充填を行おうと一人決心していた。
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