第3話 靴下どろぼうの正体
文字数 1,965文字
気がつくと、ちいちゃんは真っ白な世界にいました。右も左も上も下も、お洗濯したてのタオルのように真っ白です。
はっくしょん!
冷たい空気が体中を包んだのでちいちゃんはくしゃみをしてしまいました。
まわりが白いのは雪が降っているせいでした。雪の上に裸足でパジャマ姿のままで立っているちいちゃんは寒くて仕方ありません。靴下があったらはくのにとちいちゃんは残念に思いました。
ここが洗濯機の中の世界なら、もしかしたらなくなった靴下があるかもしれない。どこかに落ちていないかと、ちいちゃんは靴下を探し始めました。
冷たい雪をできるだけふまないようにと片足ずつジャンプしながら前に進んでいた時でした。何度目かのジャンプで、ちいちゃんは白い雪野原に落ちているピンク色の何かを発見しました。かき氷にかけたイチゴシロップのようにみえたそれは、ちいちゃんのお気に入りのピンクの靴下でした。
ちいちゃんはうれしくなって、靴下にかけよりました。片っぽだけの靴下ですが、裸足よりはましです。とにかく足が冷たくてもう一歩も歩けないので、はやく靴下をはいて足をあたためたいのです。
靴下をひろおうとしたその時でした。降りしきる雪のむこう側で誰かが靴下を取ろうとしました。
「何するの、これは私の靴下よ!」
ちいちゃんは綱引きするように靴下を思い切りひっぱりました。相手も負けていません。ぐいぐい引っぱるので、ちいちゃんは負けそうです。
「やめなさい!」
突然大きな声がしたので相手が驚いてぱっと手を放した瞬間、靴下の爪先の部分をもっていたちいちゃんは勢いよくしりもちをついてしまいました。幸い、雪が受けとめてくれたので、怪我はしませんでした。ちいちゃんは大急ぎで靴下をはいてしまいました。
「かわいそうに、寒さに震えているじゃないの。この靴下はこの子にあげなさい」
雪の向こうにみえた人影がそう言いました。
「さあ、お前の靴下も貸してあげなさい」
「はい……」
という声がしたかと思うと、雪のカーテンのむこうから小さな男の子が姿を現しました。背の高さはちいちゃんの膝までしかありません。顔全体が隠れそうなほど帽子をすっぽりとかぶって、両手には手袋をはめ、首にはマフラーを巻き、両足には靴下をはいてあたたかそうです。おかしいのは、帽子も手袋もマフラーも靴下も全部ばらばらの色違いなのです。
小人の男の子は、首に巻いていたマフラーをほどいてちいちゃんに差し出しました。赤と白のしましま模様のそれは、ずっと前になくなったちいちゃんの靴下でした。
「これ、私の靴下!」
よくみると、男の子の帽子も手袋も全部靴下なのです。
「靴下を片っぽだけ取っていたのはあなたたちなのね!」
ちいちゃんが大きな声を出したので、男の子は驚いてもうひとりの小人の背中の後ろに隠れてしまいました。
「あなたたちの靴下をこっそり取ったのは悪かったわ、人間の女の子」
男の子より少しだけ背の高い小人の女の人が謝ったので、ちいちゃんはゆるしてあげることにしました。
「私は倉本ちひろ。でもみんなちいちゃんて呼ぶから、あなたもちいちゃんと呼んでいいわ」
「私はメアリー。この子はトビー。私の息子です」
マフラーにしていた靴下をちいちゃんにあげてしまったので、トビーは寒そうに首をちぢめて震えています。
「どうして靴下を取ったりしたの?」とちいちゃんは聞きました。
「寒くてしょうがないからだよ!」とトビーがこたえました。
「人のものを取ったりしないで、靴下がいるんだったらスーパーに行って買いなさいよ。私のお母さんはそうしているわ」と、ちいちゃんが言うと、トビーもメアリーさんも不思議そうに首をかしげました。
「でも、勝手に取ってはダメなの。ちゃんとお金を払って買うのよ」
お母さんから教えてもらったとおりにちいちゃんはトビーに教えてあげました。
「そのスーパーというものがあれば、僕たちだって人間の靴下を取ったりしないんだけどなあ」とトビーは言いました。
「でもないんだから、靴下を失敬するしかないんだ。だって、ここはとても寒いんだもの。靴下がなかったら寒くて死んでしまうよ!」
そうだ、そうだと、大勢の人の声がしました。いつの間にか、ちいちゃんの周りには小人たちがたくさん集まってきていました。みんな、トビーたちのように、色違いの靴下を手袋やマフラーにしてどうにか寒さをこらえています。
ちいちゃんは小人たちが気の毒に思えました。こんなに寒くて雪が降っているのでは靴下をまとってあたたまりたいと思うのは当然でしたから。
「ちいちゃん、ひとまず私たちの家に行きましょう。ここにこうしてずっと立っていると、トビーもちいちゃんも寒くてしょうがないでしょう」
メアリーさんがそう言うので、ちいちゃんはおうちに招待されることにしました。
はっくしょん!
冷たい空気が体中を包んだのでちいちゃんはくしゃみをしてしまいました。
まわりが白いのは雪が降っているせいでした。雪の上に裸足でパジャマ姿のままで立っているちいちゃんは寒くて仕方ありません。靴下があったらはくのにとちいちゃんは残念に思いました。
ここが洗濯機の中の世界なら、もしかしたらなくなった靴下があるかもしれない。どこかに落ちていないかと、ちいちゃんは靴下を探し始めました。
冷たい雪をできるだけふまないようにと片足ずつジャンプしながら前に進んでいた時でした。何度目かのジャンプで、ちいちゃんは白い雪野原に落ちているピンク色の何かを発見しました。かき氷にかけたイチゴシロップのようにみえたそれは、ちいちゃんのお気に入りのピンクの靴下でした。
ちいちゃんはうれしくなって、靴下にかけよりました。片っぽだけの靴下ですが、裸足よりはましです。とにかく足が冷たくてもう一歩も歩けないので、はやく靴下をはいて足をあたためたいのです。
靴下をひろおうとしたその時でした。降りしきる雪のむこう側で誰かが靴下を取ろうとしました。
「何するの、これは私の靴下よ!」
ちいちゃんは綱引きするように靴下を思い切りひっぱりました。相手も負けていません。ぐいぐい引っぱるので、ちいちゃんは負けそうです。
「やめなさい!」
突然大きな声がしたので相手が驚いてぱっと手を放した瞬間、靴下の爪先の部分をもっていたちいちゃんは勢いよくしりもちをついてしまいました。幸い、雪が受けとめてくれたので、怪我はしませんでした。ちいちゃんは大急ぎで靴下をはいてしまいました。
「かわいそうに、寒さに震えているじゃないの。この靴下はこの子にあげなさい」
雪の向こうにみえた人影がそう言いました。
「さあ、お前の靴下も貸してあげなさい」
「はい……」
という声がしたかと思うと、雪のカーテンのむこうから小さな男の子が姿を現しました。背の高さはちいちゃんの膝までしかありません。顔全体が隠れそうなほど帽子をすっぽりとかぶって、両手には手袋をはめ、首にはマフラーを巻き、両足には靴下をはいてあたたかそうです。おかしいのは、帽子も手袋もマフラーも靴下も全部ばらばらの色違いなのです。
小人の男の子は、首に巻いていたマフラーをほどいてちいちゃんに差し出しました。赤と白のしましま模様のそれは、ずっと前になくなったちいちゃんの靴下でした。
「これ、私の靴下!」
よくみると、男の子の帽子も手袋も全部靴下なのです。
「靴下を片っぽだけ取っていたのはあなたたちなのね!」
ちいちゃんが大きな声を出したので、男の子は驚いてもうひとりの小人の背中の後ろに隠れてしまいました。
「あなたたちの靴下をこっそり取ったのは悪かったわ、人間の女の子」
男の子より少しだけ背の高い小人の女の人が謝ったので、ちいちゃんはゆるしてあげることにしました。
「私は倉本ちひろ。でもみんなちいちゃんて呼ぶから、あなたもちいちゃんと呼んでいいわ」
「私はメアリー。この子はトビー。私の息子です」
マフラーにしていた靴下をちいちゃんにあげてしまったので、トビーは寒そうに首をちぢめて震えています。
「どうして靴下を取ったりしたの?」とちいちゃんは聞きました。
「寒くてしょうがないからだよ!」とトビーがこたえました。
「人のものを取ったりしないで、靴下がいるんだったらスーパーに行って買いなさいよ。私のお母さんはそうしているわ」と、ちいちゃんが言うと、トビーもメアリーさんも不思議そうに首をかしげました。
「でも、勝手に取ってはダメなの。ちゃんとお金を払って買うのよ」
お母さんから教えてもらったとおりにちいちゃんはトビーに教えてあげました。
「そのスーパーというものがあれば、僕たちだって人間の靴下を取ったりしないんだけどなあ」とトビーは言いました。
「でもないんだから、靴下を失敬するしかないんだ。だって、ここはとても寒いんだもの。靴下がなかったら寒くて死んでしまうよ!」
そうだ、そうだと、大勢の人の声がしました。いつの間にか、ちいちゃんの周りには小人たちがたくさん集まってきていました。みんな、トビーたちのように、色違いの靴下を手袋やマフラーにしてどうにか寒さをこらえています。
ちいちゃんは小人たちが気の毒に思えました。こんなに寒くて雪が降っているのでは靴下をまとってあたたまりたいと思うのは当然でしたから。
「ちいちゃん、ひとまず私たちの家に行きましょう。ここにこうしてずっと立っていると、トビーもちいちゃんも寒くてしょうがないでしょう」
メアリーさんがそう言うので、ちいちゃんはおうちに招待されることにしました。