もう気にしないの!

文字数 2,360文字

「おはよー」

 朝の教室。

 桔葉さんは、自席で固まっている睦月さんに気が付きます。

「…どうかした?」

 睦月さんは、机に広げられたピンク色の紙と、その上に置かれたハートの形に見える石を凝視していました。

「何だと思う? これ…」

「何故か、笹本湖岸で…ちらほら見掛けるハート石。」

「石の種類なんか、聞いてない!」

「─ ピンクに上にハートの形の石だから、そう言う意味かもね…」

 顔をしかめた睦月さんに、桔葉さんが確認します。

「因みに…第一発見者は、誰?」

 睦月さんは、自分を指差しました。

「朝一で、私が教室に来た時には もう置いてあった…」

 桔葉さんは、どんよりする睦月さんの前の席に、背もたれ前にして座ります。

「どんな意味を込め様が、石は、所詮 石」

 ハートの形の石をピンク色の紙で包んで、自分のポケットに入れました。

「私が処分しておくから、もう気にしないの!」

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 翌日の朝の教室。

「…もしかして、また今日も置いてあった…とか?」

 尋ねられた睦月さんは、ぎこちなく頷きます。

 机の上には、昨日と同じピンク色の紙が広げられ、ハート状の石が2個 置かれていました。

「昨日と石と合わせて、ハート石が合計3つか…」

 何故か感心した様に、桔葉さんは呟きました。

「それだけ石を見つけるの…結構、大変そうだよねぇ」

 見当はずれな感慨に、睦月さんがムッとします。

「そう言う問題じゃない!」

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 3日目の朝の教室。

「─ 今日も、置いてあったんだ…」

 頷いた睦月さんの前には、敷かれたピンク色の紙の上に、ハートの形の石が4個 置かれていました。

「1・2・3と1個づつ増えるのかと思ったら…1・2・4の倍増だったんだね」

 何度か頷いて得心した桔葉さんは、ジト目で睨む睦月さんの方に向き直ります。

「現場、押さえる?」

「…え?」

「色々段取りがあるから、詳細は昼休みね。」

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 昼休みの昼食の後。

「下校時間前って、結構人がウロウロしてるから…」

 ペットボトルに手にして、お茶で軽く口を潤す桔葉さん。

「─ 犯行時間は、目撃者が少ない早朝だと思うんだよね。」

 睦月さんの視線を感じつつ、ペットボトルの蓋を閉めます。

「誰よりも早く、学校に来れば、待ち伏せ出来ると思うんだ。は・ん・に・ん!」

「…」

「当番の先生に確認したら…明日学校の門を開けるのが、7時だと言う事だから──」

 桔葉さんは顔を歪めました。

「…ろ、6時50分に、校門前に集合。。。」

 窺う視線で、睦月さんが確認します。

「私には、異存ないけど…」

「─」

「桔葉の方、ちょっと朝早いけど…大丈夫なの?」

「め…目覚まし時計掛けて、が…頑張って起きる。」

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 4日目の早朝、6時57分。

 早朝の校門前に佇む睦月さん。

 隣の、お眠オーラ全開の桔葉さんの肩を突きました。

「ねえ?」

「…なぁ?」

「下校時間に…もう石が置かれていたりしたら、これって無駄足にならない?」

 半目の桔葉さんの、頭が揺れます。

「きゃのお─── 昨日、生徒会の帰り…学校の閉門前ギリギリに教室に行って…石とかが置かれていない事、きゃくにんじゅみ…」

「─ 確認してくれたんだ。」

 桔葉さんの唇が、ニヤッと笑ったかの様に歪みました。

「てゃだゃい ─── 多大な労力を払った早起き、無駄にする気 にゃいから…」

 睡魔との戦いで 体をぐらぐらと揺らしていた桔葉さんに、学校の内側から声が掛かります。

「おお、朝早くから ご苦労さん。こんなに早くから生徒会の仕事か?」

 門を開け始めた当番教師に桔葉さんは、間延びした口調で応えました。

「きゃおは ─── 今日は…帰宅部の朝練ですぅ…」

「は?」

「きょれから ─── これから、校庭のトラックを走り込みますぅ…」

 怪しい呂律と言動に、門を開ける先生の手が止まります。

 先生の問い掛ける視線に、睦月さんは 困った笑いを返しました。

「─ ええっと、滅多にしない早起きで…軽く寝ぼけてるだけだと思います。。。」

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 教室の扉を開けた瞬間。

 自分の席を確認する、睦月さんの顔が曇りました。

「机の上に…もう何かが置かれてる。。。」

「校内一番乗りの私達より…どうやって早く入ったの?」

 入り口で棒立ちになった睦月さんの横で、桔葉さんが呟きます。

 2人は目的の机まで、早足で向かいました。

 机上には白い紙が置かれ、何かが書かれているようです。

 内容を確認するために、恐る恐る手を伸ばす睦月さん。

「…何これ?!

 その口から、戸惑いの声が漏れます。

 桔葉さんは、睦月さんから渡された紙を、声に出して読みました。

「ハート石8個、見付ける事が出来ませんでした。あしからず。」

 虚を衝かれた表情を浮かべる桔葉さんに、力ない声で睦月さんが尋ねます。

「結局これって…どう言う事?」

「─ 自作自演で…勝手に自滅。」

「…」

「4回程度で破綻するような悪戯…するなって事、だよね!?

「そもそも…こんな悪戯自体、しないで欲しいんだけど。」

「でも…」

「?」

「何よりも…許せないのは!」

 桔葉さんは、憎しみを込めて、手に持っていた紙を、クシャクシャと丸めました。

「この私に、無駄に早起きをさせた事、だけどね!!

「─ 桔葉って、とにかく早起きするのが…嫌な人なんだねぇ。。。」
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