第3話(7)

エピソード文字数 1,909文字

「兄……様」

 可愛い金魚ちゃんがいる水槽がある、伯父さんハウスのバックヤード。そこに着くと、早速喋りかけてきた。

「兄……様。一つ、ご質問よろしい……ですか?」
「………………はい。なんでしょう?」

 なにかななにかな? なにをご質問されるのかなぁ………………?

「あれ、どういう事なのよ」

 瞬く間に――目付きが女王様のようなソレに変わり、育月は高慢に腕を組んだ。

『へ? ぉ? 育月は急にどうしたんだ?』

 あぁ謎の声。あのね? コイツはね――


 薄幸の美少女を演じている狡猾な女、なんだよ。


『優星……。マジか……』

 ああ、マジさ。
 全ての始まりは、そう。小学1年生の、冬だったな。
 この歳にして『印象がいい子は皆によくされる』と気付いた育月は、擬態を開始。違和感がないよう徐々に、外見通りの薄幸系で振る舞うようになった(非常にタチが悪い)。
 そして数か月振りに里帰りをした時には『育月ちゃんが孫ならよかったのにな』と言われるまでになっており、近所の方々にしょっちゅうお菓子やお小遣いを貰うようになっていたのだ。
 しかし――。色紙育月という生き物は、ここで満足しない。
『そうだわ。従兄を想い尽くすのに、従兄の方は異性として見ていない。こういう風にしといたら、同情もされてもっと好感度が上がるわね』
『いやぁ、そこまでしなくても……。伯父さん伯母さんだって、キャラ捏造で困惑してるしさぁ……』
『優星――ううん、優星兄様。やるわよ』
『承知致しました……』
 爺ちゃんの壺を割ったのを、猫のせいにした――という弱みを握られているボクは、服従。こうして俺らは、このような間柄になったのであります。

 謎の声さん、以上で御説明は終わり。これから育月様が御喋りになられますので、傾聴いたしましょう……。

「アンタに彼女が出来てあのキャラをやってたら、しつこい女って評判が下がる。彼女を作るのは勝手だけど、『連れて来たりその話をしたりしないように』って約束したわよね?」
「はい。そうでございます」
「優星。あの子らは、そんな関係じゃないのね?」
「その通りっスっ。単なるクラスメイトっスよ!」

 軍人みたく姿勢を正し、ハキハキ答える。だってこの方、恐ろしいんだもの。

「……三人目の、虹橋だっけ? あの子は、好意があるっぽいけど?」
「大したことをしてないのに、非常に好意を持たれちゃったんだよ。でも、安心して。俺に好意はないから」

 あんなの嫌。付き合ったり長年暮らしたりしたら、ストレスで死ぬ。

「ふーん、ならいいわ。聞きたい事はそれだけだから、戻りましょうか」

 育月は短く息を吐き、一度瞬きを行う。そうするとさっきまであったSっ気が消え、薄幸オーラが漂い始めた。

「正月の時より、切り替えが早くなってる……。アンタついに、達人の域に到達したのな……」
「わたしだもの。当然よ」

 育月は、しれっと言い放った。
 うん、すげぇよコイツ。マジですごい。自信満々選手権があったら、全次元のチャンピオンになれるわ。

「はい、無駄話はお仕舞い。アンタ達の歓迎会を開くようになってて、晩御飯の支度があるから行くわよ」
「はいよーっ。育月の料理は7か月振りだから、ワクワクしてたんだよね」

 ワクワク、しまくってました。思い返せばユニ達も、昨日ワクワクしてたなぁ。

「あら、そんなに心待ちにしてたの? だったら今度、作って送ってあげようか?」
「えっ、ホントっ? いいのっ?」
「いいわよ。1メニュー1000円で送ったげる」
「アンタ金取るのかよ! それが従兄に対する態度!?
「従兄ってのは親の兄弟姉妹の子供で、殆ど他人じゃない。なに期待してんのよ」

 ひどい。俺の心は傷付いた。

「ボクら、唯一無二のいとこだよ? もっと関係を大事にしませんか?」

 母さんも伯母さんも一人っ子で、お互いに他の『いとこ』はいない。大切な存在だと思いますよ?

「はぁー、バッカじゃないの。他人って話、1厘は冗談よ」
「1厘!? ほぼ本気じゃん!」

 %にしたら、冗談の値は0・1。泣くぞ? 俺泣いちゃうぞっ?

「あ、そろそろワカメが戻る頃ね。七時くらいには始められるようにするから、それまで川でバカみたいに泳いできなさいよ」
「俺の言葉を聞けよっ! てか一言余計だ!」
「あと一品、決まってないのよね。何にしようかしら……?」
「おーい育月さーん。聞いてくださーい――ぁ」

 育月は勝手口から家内に入ってしまい、結局聞いてもらえませんでした。シクシクシクシク……。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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