文字数 1,130文字

 テツヤとミライは一日の大半を、蒸して汗臭い、膿んだような部屋の中で過ごした。昼夜を問わず抱き合い、疲れては眠り、また目覚めては互いを求め合った。足の先から髪の一本に至るまで、ミライの全てが愛おしかった。肌に唇を這わせると、テツヤの硬い筋肉質の腕の中でミライの肌は霧状の汗をかき、うっすらと紅みを帯びた。閉じた体を押し広げ陰部に顔を埋めると、熟れた果肉を頬張ったかのように口の周りが濡れた。目の前に横たわる肉体は分厚く、途方も無く、掌でそっと撫でキスをした。ミライは体をくねらせ、悪戯っ子のような目でテツヤの髪を触る。
「私のことが好き?」
 テツヤは弄る手を止めた。
「どうしたの?」
 ミライが首を横に振った。
「まだ、触っていてもいい?」
「ええ、いいわ」
 テツヤの頭を撫で、少しざらついた舌が自分の体を這うのを見ていた。
「男の人って、皆こんな風なのかしら?」
「嫌かい?」
「嫌じゃないけど、みんなこんななのかなって、思っただけ」
 汗ばんだ肌が指先に吸い付く。ミライは仰向けで白い天井を見つめた。
「私、本当に女優になれるのかしら」
 ミライの小さな膨らみを触り、そのまま指を滑らせた。
「なれるよ、きっと」
「嘘つきは、嫌いよ」
ミライの頬が緩み、白く綺麗な八重歯が覗いた。

 二人は互いに地方出身者で、東京の映画学校の同級生だった。テツヤは演出家を志望し、ミライは俳優科で女優の卵だった。授業の中で、テツヤが監督する映画作品に出演したのがきっかけで、二人は付き合うようになった。駆け出しの若い二人にとっては、互いに将来の夢を打ち明け不安な気持ちを理解し合う中で、むしろ自然な流れであったのかもしれない。
「もしもよ、私が女優さんになったら、あなたどうする?」
「どうするって?」
「女優のお仕事って、色々あるじゃない? 例えばだけど、役で裸にならなければならないとして、テツヤくんがそれを許せるのか知りたいの」
「個人的には嫌かな」
「胸だけだったら、大丈夫?」
「私ね、本気なの、本気で女優になりたいって思っているの。だから、私、そのためなら何でもする。裸にだってなる」
 溜息をついた。
「ミライは、僕と一緒にいるだけでは満足できない?」
「そりゃ、一緒にいれたら幸せだと思うけど、私って欲張りなのよね。家庭と仕事の両方を手に入れたいの。でもね、私、家庭の方はあまり信じてない」
「どうして?」
 ミライはそっとテツヤの手を払うと、枕元に脱ぎ捨ててあった下着に手を伸ばした。
「喉が渇いたわ」
 下着を履き、ベッドからするりと抜けた。冷蔵庫の扉を開け、昨日買っておいたミネラルウォーターを一口飲んだ。テツヤはベッドに残されたまま、ミライの透き通るような白い背中と尻を見つめていた。
「今日は、帰るわ」
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