マキセ④

文字数 836文字

その後、脱け殻となりながらオレは家に帰った。

家のカギ…忘れた。
家の前に座りこむ。

そこへカオリが通りかかった。

「…えっ、シンちゃん…!?びっくりしたー!何で!?おばあちゃんちじゃなかったの!?」

「…おー、花火、だろ。」

「もしかして、カギないの?ウチで待ってたら?」

花火は河川敷まで行かなくても、オレたちの家のベランダからも見ることができる。
でも、遠い。
今のオレには遠すぎる。
今は景気良くでっかい花火が打ち上がるところが見たい。


「…や、オレ、行くわ、その為に帰って来たんだし。」

「え、花火?私も行く!」

人混みに入ると、祭の日を思い出した。
そっからは芋づる式にキノシタのことばっか。
サホって呼んだ。
シンジって呼ばれた。

会いてーな。

だけど、きっと、まだまだだ。
あいつの中でオレはまだ、大勢の中の1人で、やっと下の名前で呼び合えるくらいの、それだけの関係だ。


人混みを抜け、打ち上げ場所にできるだけ近い橋の上で止まった。


「うまく、いかねえな」

「…何が?」

「いろいろ」

「…うまく、いかないねー…」


うまく、いく日がくるんだろうか。


わからない。
けど、だからなんだ。
オレはキノシタを誰にも渡したくない。
渡さない。



いつも通り、カオリと並んで花火が上がる瞬間を見た。
1人じゃなくて良かった。
誰かに聞いてほしかった。


「オレ、やっぱサホが好きだ」

その言葉と同時に花火が上がった。

「え?なに?なんか言った?」

残念。声のデカささえ花火に負けた。

「聞こえなかったんなら、いー!」
今度は思いっきりデカい声で言った。

花火がどんどん上がる。

そう、コレだ。

このデカい花火を見れば、オレもまた走り出せる気がした。

キノシタ。
あいつって、なんか花火に似てるなー。

いいや、今日はオレの負け。
でも、明日からは、負けてたまるか。
花火に来られなかったくらい、なんだってんだ!
明日からが、勝負だ!!!


みてろよ、キノシタ…サホ!

そのうち絶対、アイスより何より、オレのことが好きだって言わせるからな!!


花火の光が、オレの背中を押した。

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