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エピソード文字数 695文字

「於濃の方様は……今宵は別の部屋で休まれるそうにございます」

 ――美濃……
 あなたの決意を、決して無駄にはしない。

「そうか。帰蝶が全てを知り、このような(はかりごと)をするとは……」

 信長はあたしの言葉を信じ、帰蝶が安土城を抜け出したことは、知る由もなかった。

 帰蝶が居なくなったことを、多恵やお付きの者に悟らせないためにも、この部屋から信長を出すわけにはいかない。

「……抱いて」

 あたしは自分から信長にキスをせがむ。
 信長をこの場に繋ぎ止めるために……。

 信長は一瞬目を見開いたが、そのままあたしを押し倒し、赤い紅をさした唇を奪った。

 着物に描かれた黒揚羽蝶が羽を揺らし、唇から甘い吐息が漏れる。その吐息が消えないうちに、信長は何度もあたしの唇を塞いだ。

「愛しき蝶よ。なぜそのように美しいのじゃ……。なぜ歳を取らぬ」

 ――この世にタイムスリップし、長い長い時が経ったが、未来からタイムスリップした私が歳を取ることはない。

 だが、そのことを家臣だけではなく、信長も疑念を抱いていたなんて……。

「……上様に寵愛されているからでございます」

 この戦国の世で、何度信長に抱かれただろう。

 天下を獲るためなら、兄弟をも殺め死に追いやる信長。冷酷で残忍、けれどこんなにも愛おしい。

「もっと淫らな蝶になれ」

 あたしは信長の腕の中で……
 感じるままに声を漏らし体を揺らす。

 男の殻を脱ぎ捨て女となったあたしは、蝶のように美しい羽を広げる。

 重圧から心を解き放ち……
 自由に羽ばたけるように……。

「……もっと……強く」
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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