白い花(10/1)

文字数 550文字

昨年咲かなかった花が咲くと
なんだか褒めたくなる
昨年咲かなかった理由も
今年咲いた理由も知らなければ
花の名前も知らないのだが
よく頑張ったと

駅に向かう道沿いに咲く白い花群は
誰が住んでいるのかも知らない一軒家の植栽なのだが
弾まない心を
少しだけ軽くしてくれる

昨日までは咲いていなかったのに
今朝になって急に咲き始めた
気がするのだけれど
昨日までも咲いていて
僕が気づかなかっただけなのかもしれない

心の有り様で
見えるものも
聞こえるものも変わるから
段々と自信がなくなる

本当に
昨年は咲いていなかったのだろうか?
記録に残していないので
記憶に頼るしかないのだが
とにかく頼りない

そもそも
同じ植栽なのに
年によって咲いたり咲かなかったりするのだろうか?
それほど特別な花でもなさそうだ
同じ景色でも
記憶に残ったり残らなかったりすることは多々ある

昨年咲いていることに気づかなかった花に気づいたら
なんだか安心する
昨年気づかなかった理由も
今年気づいた理由も
自分では分かっているので
花の名前も知らないくせに
よく頑張ったと
自分を褒めてやりたくなる

駅に向かう道沿いに咲く白い花群は
誰が住んでいるのかも知らない一軒家の植栽なのだが
弾まない心を
少しだけ軽くしてくれる

来年も花に気づくような心持ちでありたい
と願いを込めて
僕は両頬を勢い良く叩き
駅へと向かう
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