第5話 ショパン ピアノソナタ第2番(葬送行進曲)

文字数 766文字

主人公になんの曲を弾かせよう? 選んだのがショパンのソナタ第2番。3楽章の葬送行進曲は有名。

ピアノはやめてもいいのよ。ちっとも楽しそうじゃないわ。

なぜ僕がピアノを弾くのか誰も知らない。パパでさえ記憶にないだろう。

なぜあんな男に? 俺が劣っているのはピアノだけじゃないか? おまえがあいつを負かすんだ。最年少入賞という自慢の記録を塗り替えてくれ。

パパは覚えていなくても約束だ。

目標にしていたコンクール。本選間近、亜紀は僕の体と精神を心配した。

倒れるわよ。映画みたいに。精神が壊れる。

努力に勝る天才はなし、だろ?

1度だけ彼は弱みを見せた。昼休み、予鈴が鳴っても彼は気づかず弾いていた。彼は思いきり鍵盤を叩きつけた。

努力に勝る天才はなし。嘘だな。
立ち上がるとフラッとし私は支えた。
主人公もこんな雰囲気かも……

大きな邸の坊ちゃんは窓から圭を見ていた。目が合った。

女かと思った。この美少年がピアノの奏者?

圭君、あの子の友達になってくれない?

友達って、お願いされてなるもんじゃないですよ。

……そうよね。

音楽の授業、ピアノ曲の鑑賞のあと圭が三沢英幸を見て言った。

おまえ、弾いてみろよ。こんなような曲弾いてたじゃないか。


皆の視線が集中する。無視すると圭が皆を扇動する。弾けよ、みさわ、み、さ、わ……

彼は小さく舌打ちし、ため息をつき時計を見た。まだ時間はたっぷり残っていた。

そして弾き始めた。ショパンの葬送行進曲。皮肉な男。『こんなような曲』が葬送行進曲? 

しかし彼はピアノの前では猫背ではなかった。大勢の前で上がりもしない。

きれいな曲なんだ……有名な部分しか知らなかった。素敵だ。ピアノを弾いている彼は素敵だった。皆滅多に聴けない生の演奏に魅了されていた。CDの鑑賞のときには寝ていた生徒が姿勢を正して聴き入っている。

弾き終わると圭も拍手していた。

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登場人物紹介

作者

英幸《えいこう》

亜紀 英幸の義母

英輔 英幸の父

美登利

瑤子 亜紀の従妹

幸子 英幸のママ 英輔の前妻

香《こう》

三島 英輔の会社の部下

圭 英幸の友人

葉月

夏生

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