魔王討伐RTA_03:16:11
文字数 2,678文字
――異世界転生RTA、走るのはこれが最初で最後になります。
チャートは念入りに練ってきたので、ミスが出ないよう祈って走るだけです。
挨拶はこれぐらいにして、さっそく始めたいと思います。
ここに人の子が迷い込むのは何ヶ月ぶりか――。
事故が起きている、起こされている、起きるよう仕向けられている……?
いや、何にせよ……まずはようこそ、死せる若者よ。
君にはなんてお詫びすればいいか――
海と山と街がいっぱいに広がる、旅行にはうってつけの観光地だ。
食料のほとんどを農業と畜産で賄ってきた平和な世界に、突如異変が訪れる。
――それは、魔王の出現。
彼は世界を汚染させる霧を放つと、瞬く間に世界中の作物を枯らしていった。
このままでは食物を巡って争いが起きてしまう――。
世界は危機に瀕していた。一刻も早く魔王を倒さなくては……!!
触れた相手を即死させるシンプルな技能――『
無駄な戦闘を極力避けたいので、即死技能は真っ先に必要となります。
他にも取得したい能力はありますが、先に進むことを優先しましょう。
2時間後――。
先刻は部下が世話になったようだ。
貴様の作る銘菓、下々の間で好評である。
我も一口食べてみたが――不思議なものだ。
あんなに美味いものがこの世にまだあったとは、な……。
タダとは言わん。我の下に来るのなら、世界の半分を約束しよう。
――悪くはないだろう? 部下だって良い奴ばかりだ。
実にアットホームな職場だと言わざるを得ない。
そこで貴様は、カステラを作るだけ。
何にも困らない快適な暮らしを保証しよう。
我には全属性耐性はもちろん、即死耐性もバッチリ付いている。
心臓を貫かれたぐらいでは死なんし、寝込みを襲っても無駄である。
――どうだ? 我と一緒に、世界を変えてみないか?
――青年と魔王は、熱い握手を交えた。
人々や作物を困らせていた霧が晴れると、魔王の姿も見えなくなった。
それと同時に、街にはカステラ職人が現れ、食べるものを魅了して止まなかったという。
カステラは世界全土に伝わり、人間のみならず魔族さえ虜にしていった。
そんなカステラ職人が魔王を倒していたなんて、誰も気付くことは出来なかった。
青年の
カステラはいつまでも愛され、人々はいつまでも平和に暮らしたとさ。
おしまい。