魔王討伐RTA_03:16:11

文字数 2,678文字

起床しました。これより計測を開始します。

――異世界転生RTA、走るのはこれが最初で最後になります。

チャートは念入りに練ってきたので、ミスが出ないよう祈って走るだけです。


挨拶はこれぐらいにして、さっそく始めたいと思います。

家の前をトラックの音が聞こえてきたら

躊躇いなく窓を開け放ち、車道へ飛び降ります。

あぁ、何ということじゃ……。

ここに人の子が迷い込むのは何ヶ月ぶりか――。

事故が起きている、起こされている、起きるよう仕向けられている……?


いや、何にせよ……まずはようこそ、死せる若者よ。

君にはなんてお詫びすればいいか――

長そうなので巻きでお願いします。

これ、RTA(リアルタイムアタック)なんで。

えっ
異世界で生き返らせてくれますよね?

好きな能力一つくれますよね?


そういうつもりでここに来てるので、御託はいいから仕事しろ神。

最近の若者が分からんよワシ……。



まぁ、お前さんがそう望むならその通りにしてやろう。

……今、人が不足しているのはここか。

ちぃと厳しい世界になるぞ。好きな能力を授けよう。

では、瞬時にあらゆるスキルが身につく能力――







天才肌(スキル・スケイル)』で。
…………! 
――良い眼をしているな、お前さん。

これから大きな仕事を成し遂げようとする、強い意志を感じるぞ。

お前さんの我儘、ワシがしかと叶えよう。



ゆけ、新たな転生勇者よ!

険しい試練の道に幸あれ――!

 広大なだけが取り柄の異世界――ラスティア。

 海と山と街がいっぱいに広がる、旅行にはうってつけの観光地だ。

 食料のほとんどを農業と畜産で賄ってきた平和な世界に、突如異変が訪れる。

 ――それは、魔王の出現。


 彼は世界を汚染させる霧を放つと、瞬く間に世界中の作物を枯らしていった。

 このままでは食物を巡って争いが起きてしまう――。

 世界は危機に瀕していた。一刻も早く魔王を倒さなくては……!!

ここまでの記録は0:38:26です。

……天界での会話はもっと詰められたかもしれません。

再走ポイントですね。


1時間切れたのは幸先良いと思っているので、この調子で進みたいと思います。

では、先程手に入れた能力、天才肌(スキル・スケイル)を使って次の能力を入手します。


触れた相手を即死させるシンプルな技能――魂狩り(ソウル・ハンティング)

無駄な戦闘を極力避けたいので、即死技能は真っ先に必要となります。




他にも取得したい能力はありますが、先に進むことを優先しましょう。

あれ、あなた見かけない顔――。

外は危険だよ。あなたも作物みたいに枯れちゃう。


――それとも、もう手遅れだった?

誰が枯れてるだとぉ?
……死んだ魚みたいな目してる。

あ、ごめんね。自己紹介がまだだったわ。


私はここの街に住んでる――

魂狩り(ソウル・ハンティング)
ア゛ッ
余計なイベントを回避するため、

友好的な住人であっても関わってくる者には例外なく死を与えてやりましょう。



――郊外に舞台を移し、話の分かりそうな魔物を探しに行きます。

ここで、2つ目のスキルを取得します。

カステラのみに特化した錬成系技能――南蛮銘菓(カステラ・メイカー)



これを使い、魔物を効率よく手懐けます。

 数分後――。
キキーッ! 甘そうな匂いがするキーッ!

濃厚で、上品で……病みつきになりそうな甘い香りは、一体なんだキーッ?

よくぞ聞いてくれた。

これは南蛮の国からもたらされた極上の銘菓――その名もカステラだ。

ちょうど材料が手に入ったから試しに作ってみたんだが、お前も一口食べてみるか?

キキーッ! いただきますキーッ!

はむはむ……むひむひ……。


ん……? んおおお……?

うーーーーまーーーーいーーーーぞーーーー!!



口の中で広がる砂糖の甘み、ふわふわなスポンジ、しつこくない水飴の味……!!

今までに食べたどんなエサよりもうめぇ……!!

お前、すげぇキーッ! 

気に入ってもらえたようで嬉しいキーッ。

作りすぎたから、仲間にも分け与えてやってくれ。

足りなくなったらここに来いよ。いつでも作ってやるキーッ。

お前……なんて良い奴なんだキーッ……!!

きっと魔王様にも気に入ってもらえるキーッ!


すぐに届けてくるキーッ!







ここまでのタイムは1:07:56です。

大当たりを引いてしまったようなので、良い記録が期待できそうです。


あとは最後の大詰め。魔王との最終決戦を待つのみです。



 2時間後――。

――――貴様が、噂のカステラ職人とやらか。

先刻は部下が世話になったようだ。


貴様の作る銘菓、下々の間で好評である。

我も一口食べてみたが――不思議なものだ。

あんなに美味いものがこの世にまだあったとは、な……。

要件は何ですかい? 魔王様。
貴様……我の下で雇われてみるつもりは無いか?

タダとは言わん。我の下に来るのなら、世界の半分を約束しよう。

――悪くはないだろう? 部下だって良い奴ばかりだ。

実にアットホームな職場だと言わざるを得ない。

そこで貴様は、カステラを作るだけ。

何にも困らない快適な暮らしを保証しよう。

…………。
ちなみに、妙な気は起こすんじゃないぞ、人間。

我には全属性耐性はもちろん、即死耐性もバッチリ付いている。

心臓を貫かれたぐらいでは死なんし、寝込みを襲っても無駄である。


――どうだ? 我と一緒に、世界を変えてみないか?

いいですねぇ。やりましょうよ。
 どちらとなく、手が差し出される。

 ――青年と魔王は、熱い握手を交えた。

ああ、理解してもらえたようで嬉――
ここで、最後のスキルを取得します。

あらゆる耐性を剥ぎ取るスキル――神堕ろし(ジ・エンド)



これをその場で使います。

貴様、一体何をッ……!!

我を謀ったつもりか……ッ!!

人間の分際で……人間の分際でェーーーーーーー!!
魂狩り(ソウル・ハンティング)
ア゛ッ
――――ザ・エンドってね。
ここでタイマーストップ。記録は3時間16分11秒でした。

とても満足のいった結果です。



――詰められるところはあると思いますが、最後はこの言葉で締めさせてください。







多分これが一番早いと思います。
 広大なだけが取り柄の異世界――ラスティア。

 人々や作物を困らせていた霧が晴れると、魔王の姿も見えなくなった。

 それと同時に、街にはカステラ職人が現れ、食べるものを魅了して止まなかったという。

 カステラは世界全土に伝わり、人間のみならず魔族さえ虜にしていった。


 そんなカステラ職人が魔王を倒していたなんて、誰も気付くことは出来なかった。

 青年の活躍(タイムアタック)は、人知れず幕を閉じる。

 カステラはいつまでも愛され、人々はいつまでも平和に暮らしたとさ。






 おしまい。

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登場人物紹介

RTA走者

神様

街娘

魔物

ラスボス

・お借りした素材


【表紙・アイコン】

CreativeFreaks

ゆうひな


【画像素材・演出効果】

素材Library.com

いらすとや

きまぐれアフター

ニコニ・コモンズ

あやえも研究所



一部改変を含みます。

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