プロローグ ✿ 月の生まれる夜に

文字数 946文字

月の生まれる夜に夢を見た。


少女の身体は夜明けの空に浮かび、颯爽と風を切っていた。

(私・・・空を飛んでいるのね・・・。なんて気持ちいいのかしら)

すると朝日差す地平線の先に、高い塀に囲まれたお城のような建物が目にとびこんだ。

(あの高い塔なんだろう? 塔の上に誰かいるわ・・・)

少女はそちらへ飛んだ。

・・・・・・。
(修道士? 私の方を見ているみたい・・・)

青年の視線が重なり、少女はどきりとした。


白い翼がはためき、宙に羽が舞う。


少女は、自分が鳩になって空を飛んでいたのだと気付いた。

おいで
すると青年は、空に浮かぶ彼女へ右手をのばした。

(あなたは・・・誰?)

翼を大きくはためかせ、彼の元へ飛ぶ。


彼のすみれ色の瞳に見つめられながら目が覚めた。



(なんて綺麗な夢。風を切った感覚が、まだ身体中に残っているわ。それに・・・)

自分を見つめていた修道士の姿を思い浮かべる。


これほど美しく不思議な夢は、きっと忘れられないだろう。

          

月が満ちる夜に、また夢を見た。


目が覚めると、やわらかい夜風が少女のほおを撫でた。

ここは・・塔の上? あれ? わたし・・・修道女になってる

すると空の上から羽音がした。

白鳩は、彼女の伸ばした手にとまった。


鳩の足には手紙が結ばれていた。

魔法使い・・・より?

手紙には、他にも美しい詩句がちりばめられていた。


言葉の一つ一つに、差出人の繊細で優しい心が織り込まれていた。

ええ・・・私もよ・・・私もあなたに・・・

視界があわくにごり、手紙にパタ・・・パタ・・・とあつい雫が落ちる。


哀しい夢から覚めると、自室の天井が広がっていた。

私・・・泣いてる・・・。夢の中でもらった手紙は・・・
文面をはじめから思い出そうとしたが、なぜか途切れ途切れしか浮かばない。

私の知らない美しい言葉がつづられていたわ。


目が覚めた私に、あの魔法使いの手紙は書けない。


差出人の「魔法使い」は・・・誰なの・・・?

一人、思い当たるのは・・・。
あの修道士の青年が・・・・魔法使い?

他に考えられない。


魔法使いからの手紙に「空を飛ぶあなたと目が合った」と書かれていたことを、咲良は思い出した。

あの人だわ、きっと・・・。


私も彼に手紙が書けたなら・・・

夢の中に、ペンと便箋を持って行けたらいいのになぁ。
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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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