第29話 鼻垂れ坊主
文字数 1,266文字
朝に晴子さんの家を出てある場所へ向かう為、汽車に揺られていた。
のどかな田園風景が美しい。田畑の奥には海が見え、太陽光が水面に差し込み反射して、キラキラと輝いている。汽車の煙が窓から入り込み煙たさを感じたが、窓を閉めようとはしなかった。
数時間汽車に揺られて目的地に着いた。幼い頃に見た風景と同じだった。田舎のこの街は戦争から取り残されたかのように、のどかで平和で、幼心に戻れた気がした。
夏の暑い日、虫を捕まえていた鼻垂れ坊主がどれほど幸せだったのだろうか。虫をただ無心に追いかけ、捕まえては喜ぶ。泥にまみれて家に帰るとご飯があり皆で食べる。そして、はしゃぎ過ぎたせいか睡魔に襲われ思う存分昼寝をした。
ふと思い出した幼い頃の記憶だ。
駅を出てまっすぐの一本道をひたすら歩くと小さな集落が見えた。ちょうどお昼時ということもあり、家の中から最近嗅いでいなかったいい匂いがした。
集落を抜けて坂を登り右に曲がった。門をくぐると手入れがされていないせいか、雑草が生い茂り雑木林のような先に扉が見えた。
表札には薄れた山本の文字が書かれていた。
「ただいま」
俺は部屋に入った。
「おー、よう来たの。おーい、ばあちゃん賢ちゃんが来たよ」
二階にいるおばあちゃんにおじいちゃんが声をかけた。
「あらまあ、よう来たねえ。五年ぶりぐらいやねえ」
そう、俺が最後にこの家に来たのは五年程前だ。その時は、アメリカのお土産を渡しに来たのだ。
「無事でなによりじゃ。いつ戻るんじゃ?」
「数日後には前線へ戻ります」
「そうかあ……」
おじいちゃんは庭の盆栽を眺めていた。玄関付近とは違い庭は綺麗に手入れされており、盆栽が和を表し心を落ち着かせる。
「正直な所、日本はどうなんじゃ?ここの村は戦争の影響を全く受けておらんが、山を下った街では食糧難らしいじゃないか。それに都市部は空襲を受けて、この村にも都市部から逃げて来よる」
「そうですね……今回の戦争、日本は必ず負けるでしょう。東南アジア諸国もどんどんと占領されて来てますし、いつかは本土も危ないかもしれません」
「そうじゃろうなあ」
暗い空気が流れていた。
「まあまあ、おじいちゃん、賢ちゃんも来たことだししてはどうですか?その間にお昼ご飯作っておきますから」
おばあちゃんは暗い空気を読んでか話を変えた。
「そうじゃのお。取って来てくれんか?」
「はいはい」
おばあちゃんは物置小屋へ向かった。
「最近は近所の若造達も戦地へ行ったからできておらんかったんじゃ。お手柔らかに頼むぞ」
「こちらこそお手柔らかにお願いしますよ。俺なんか以前来た時以来なので五年ぶりです」
俺達は家を出て通りに出た。通りは人通りが少ない平坦な一本道で、それをするにはぴったりだ。
グローブは使われていないせいか埃が被っていた。俺はそんなのお構いなしに手に嵌め、相変わらず速いスピードで飛んできたボールをキャッチした。
老人と若造とのキャッチボールが始まった。
のどかな田園風景が美しい。田畑の奥には海が見え、太陽光が水面に差し込み反射して、キラキラと輝いている。汽車の煙が窓から入り込み煙たさを感じたが、窓を閉めようとはしなかった。
数時間汽車に揺られて目的地に着いた。幼い頃に見た風景と同じだった。田舎のこの街は戦争から取り残されたかのように、のどかで平和で、幼心に戻れた気がした。
夏の暑い日、虫を捕まえていた鼻垂れ坊主がどれほど幸せだったのだろうか。虫をただ無心に追いかけ、捕まえては喜ぶ。泥にまみれて家に帰るとご飯があり皆で食べる。そして、はしゃぎ過ぎたせいか睡魔に襲われ思う存分昼寝をした。
ふと思い出した幼い頃の記憶だ。
駅を出てまっすぐの一本道をひたすら歩くと小さな集落が見えた。ちょうどお昼時ということもあり、家の中から最近嗅いでいなかったいい匂いがした。
集落を抜けて坂を登り右に曲がった。門をくぐると手入れがされていないせいか、雑草が生い茂り雑木林のような先に扉が見えた。
表札には薄れた山本の文字が書かれていた。
「ただいま」
俺は部屋に入った。
「おー、よう来たの。おーい、ばあちゃん賢ちゃんが来たよ」
二階にいるおばあちゃんにおじいちゃんが声をかけた。
「あらまあ、よう来たねえ。五年ぶりぐらいやねえ」
そう、俺が最後にこの家に来たのは五年程前だ。その時は、アメリカのお土産を渡しに来たのだ。
「無事でなによりじゃ。いつ戻るんじゃ?」
「数日後には前線へ戻ります」
「そうかあ……」
おじいちゃんは庭の盆栽を眺めていた。玄関付近とは違い庭は綺麗に手入れされており、盆栽が和を表し心を落ち着かせる。
「正直な所、日本はどうなんじゃ?ここの村は戦争の影響を全く受けておらんが、山を下った街では食糧難らしいじゃないか。それに都市部は空襲を受けて、この村にも都市部から逃げて来よる」
「そうですね……今回の戦争、日本は必ず負けるでしょう。東南アジア諸国もどんどんと占領されて来てますし、いつかは本土も危ないかもしれません」
「そうじゃろうなあ」
暗い空気が流れていた。
「まあまあ、おじいちゃん、賢ちゃんも来たことだししてはどうですか?その間にお昼ご飯作っておきますから」
おばあちゃんは暗い空気を読んでか話を変えた。
「そうじゃのお。取って来てくれんか?」
「はいはい」
おばあちゃんは物置小屋へ向かった。
「最近は近所の若造達も戦地へ行ったからできておらんかったんじゃ。お手柔らかに頼むぞ」
「こちらこそお手柔らかにお願いしますよ。俺なんか以前来た時以来なので五年ぶりです」
俺達は家を出て通りに出た。通りは人通りが少ない平坦な一本道で、それをするにはぴったりだ。
グローブは使われていないせいか埃が被っていた。俺はそんなのお構いなしに手に嵌め、相変わらず速いスピードで飛んできたボールをキャッチした。
老人と若造とのキャッチボールが始まった。