アゲハ、逃亡

文字数 1,897文字




 釣瓶の城下町では、激戦が繰り広げられていた。

 カンタロウ達四人に、神獣の大群が襲いかかってくる。

 地上からは鋭い牙を持った、ドッグ型が。

 空からは翼を持ち、手に武器を持ったイカロス型が。

 屋根や空き家の中からは、ソード型、アーマー型が飛びかかってきた。

 神獣に戦略はなく、皆無節操に攻撃をしかけてくる。

 知恵を使う戦闘よりも、数で押し切ってきているのだ。

 神獣の数は、百を超えていた。

「はっ!」

 カンタロウは、もう数十匹の神獣を切っていた。

 切られた神獣は、白い泥となり飛び散る。

 アゲハ、マリア、ランマルも、覚えていないぐらいの数の神獣を、切り倒していた。

「くそっ! きりがない!」

 屋根から降ってきたソードを切りつけ、ランマルは叫んだ。

「数が多すぎます!」

 マリアはイカロスを突き刺し、ニ体のドッグをなぎ払う。しかし、限界が近い。

「このままじゃ、全滅だ! 赤眼化の体力がもたないぞ!」

 ランマルの言うとおり、四人とも赤眼化を発動させていた。

 体力の消耗を抑えるため、赤眼化の解除と発動を繰り返していると、逆に身体に負担がかかる。

 持続させたほうが、意外に消耗は少なくてすむ。

「……そうだね。神獣を切っても意味がない。本体を倒さないと」

 アゲハは水神の魔法で、周りの神獣を蹴散らした。背に魔法の翼をはやす。

 水色の魔力が、アゲハの背に集まってくる。

「アゲハ?」

「――じゃね。カンタロウ君」

 アゲハはニコッと笑い、カンタロウに別れを言うと、空へと舞い上がった。

 カンタロウは呆然と、アゲハが去っていった空を見上げる。

「カンタロウさん!」

 マリアがカンタロウに襲いかかった、ソードを切りつける。

 カンタロウは敵の気配に気づかないほど、アゲハが何も言わず、去ったことに意識を取られていた。

「飛翔魔法か? おい、カンタロウ! アゲハちゃんはどこに行くんだ!」

「…………」

 ランマルに、何も答えられないカンタロウ。

「カンタロウさん!」

 マリアがもう一度、カンタロウの名前を呼んだ。

 カンタロウは、イカロスで埋め尽くされていく空を、眺めることしかできなかった。





 空では、アゲハが自由に飛び回っていた。

 城下町の一点に、異様に白いものが集まっている。

 そこでは今、カンタロウ達が神獣と戦っているはずだ。

 アゲハはそれを、ニヤニヤしながら見下ろしていた。

 ――ごめんね。カンタロウ君。君との旅、楽しかったよ。

 あれだけの数の神獣だ。もう助かることはないだろう。

 体力が消耗し、最後にはラッハ達のように、切り刻まれて終わりだ。

 まだアゲハに気づき、むかってくる神獣はいない。

「敵は私に気づいていないか。今のうちに本体を見つけないと」

 気持ちを切り替え、気配がする方角に翼をはばたかせる。

「気配がする。あっちか」

 ゴーストエコーズの気配は近い。

 しばらく進むと、異様な城が見えてきた。

「何? あの城?」

 足が六本ある巨大な建築物の上に、立派な城が見える。

 建築物からは水が放出され、それは城下町に続いていた。

 今にも動きだしそうな物体だが、どうやら生き物ではないため、微動だにしない。

 水は滝となり、町中を流れていた。

 城の屋根は瓦葺き、青銅の鯱が頂上にある。突上戸や廻縁も見える。

 アゲハにとっては、あまり見たことのない形の城だ。

「巨大な虫の背中に乗っているみたい」

 アゲハが息を飲んでいると、城から大砲がでてきた。

 神獣が大砲を用意しているのだ。

 神獣は仲間を大砲の中に押しつけると、導火線に火をつけた。

「気づかれたか!」

 大砲が爆発し、弾となった神獣が、すさまじい速さでむかってくる。

 アゲハは神獣の攻撃をうまくかわしたり、剣でなぎ払う。

「水神の名において命じる! 水の刃となり敵を切り裂け!」

 アゲハは一桁詠唱を唱えると、魔法を発動させた。青い水が、鋭い刃となり、大砲を破壊する。

「原始的な攻撃だね!」

 調子に乗ったアゲハは、次々と魔法で大砲を破壊していった。

 城は耐魔法製の壁ではないためか、すぐに壊れていく。

 防御魔法も張っていないので、神の力を防げていない。

「ははっ! もろい城だね! そして本体は!」

 隙を突き、アゲハは城の最上階に水神の魔法をくらわせた。

 壁が簡単に破壊され、土煙が拡散する。

「何っ!」

 ツネミツは両腕で、煙と壁の残骸を防御した。

 アゲハは壁に手を置くと、ゆっくりと城の中に侵入する。

「ふふん。みっけ」

 アゲハから残忍な笑みがこぼれる。

 ツネミツは神獣でありながら、女に戦慄を覚えた。

「……貴様」

「さてと、どんな拷問、しよっかな」

 アゲハはポキポキと、手の関節を鳴らした。
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