第26話 いい子になりたい

文字数 3,124文字


‟『自由労放送が効き放題!<チャッターボックス>!これなら邪魔な妨害電波に途切れることもありません!ラジオ波放送には、ぜひ<チャッターボックス>を!』

♪チャッ、ナィン、スカラボー♪ビトーとケッタの毒虫ナイト!♪

「ビトーさんは帰られました。えー、ここでメッセージです。チャッターネーム<早く自由労になりたい出たがり権利労、ユーシンクソーライト> 常連だね。えー・・・

『いままで秘密にしておりましたが、実はワタクシ、8区の捕虫労組合で労役しております、隠れ連合労民の憂神紅・蒼来人(ユーシンクソ―ライト)でございます。

 話題のU子こと浜納豆女史ですが、ワタクシなんと本日夕刻、組合から労民医療配給所に運ばれていくところを目撃しました!

 事情を訊いたところによると、盗聴が趣味のU子は、自慢の無線機で今日も労務の合間にゲxxxン(アンチネッツ)の通信を盗み聞きしていたところ、幻の生物「包帯芋虫(ほうたいいもむし)」の発見情報を耳にして、あろうことかノルマを放り出し、探索に出向いたそうです。ところへ、ゲxxxン(アンチネッツ)のバグモタと出くわし、にらみ合いになりました。

 それもそのはず、その情報はゲxxxン(アンチネッツ)がもろもろの悪さのために仕掛けた罠のうちの一つで、開拓労民をからかうため、なかば冗談で流したガセネタだったのですから。

 しかし盗聴で入手したデマをを鵜呑みにしているU子は、「包帯芋虫」を横取りされてたまるかと、連合の捕虫労である自分の特権の、優先捕虫権を振りかざし、なんと、存在しない幻の生物「包帯芋虫」の捕虫妨害で、開拓特権による取り締まりをかけたのです!

 捕虫労のバカっぷりを撮影して、笑いものにするために現われただけのゲxxxン(アンチネッツ)も、U子のあまりのイカれ加減に「こんな反応されたら、逆にヤラセだと思われるわ」と、さすがにあきれはて「そんなものおらん、ワシらの流したデマや」と正直にバラしたにもかかわらず、いっさい耳を貸さないU子は「そんな出まかせ言って、私が帰ったあとで発掘する気か!そうはいくかよ」と梃子(てこ)でもそこを動かず、この発見で得られる一攫千(いっかくせん)Pを独り占めする気で、保安の助けも借りようとせず、ひたすら、にらみ合いを続けました。
 
ゲxxxン(アンチネッツ)はそんなU子のイカれっぷりを撮影し続けました。
 
 邪魔なゲxxxン(アンチネッツ)を追い出すべく、U子がとった手段は、まず辺りの虫を殺虫剤(バグデス)で殺し、虫の切れ間を作り出し、ゲxxxン(アンチネッツ)のバグモタを近づけなくさせることでした。それで、もし退散しなくても、虫切れで動けなくしてから、ボコボコにすればいいという捕虫労ならではの作戦です。U子のバグモタは背中の網に虫が沢山いるから問題ないのです。

 さしものゲxxxン(アンチネッツ)も、スカラボウル捕虫圏伝説を妄信し、しかも強欲丸出しで虫を殺し始めたU子の狂気に怖れを抱き、「こんなん自由労配信でも流せへんで、狂っとるわ!」と、いったん撮影をやめ、その場から離れました。

 そうして邪魔者を消したU子は、いよいよ幻の「包帯芋虫」を捕まえるべく、地面をザックザックと掘り始めました。しかしそのとき、退散とみせかけて密かに隠れていた、さっきのゲxxxン(アンチネッツ)が現われ、U子のバグモタを襲いました。U子は自ら掘った穴に蹴り落とされ、そのまま危うく埋められかけたところ、駆けつけた仲間の捕虫労に助けられたそうです。

 全身打撲により、包帯で身体中をぐるぐる巻きにされて「あれはワタシのものだー!」と叫びながら運ばれていくU子は、自らが「包帯芋虫」となって、いまごろ圏外に埋められているに違いありません。You think so,right?』

 ダハハハハ、懐かしいね、「包帯芋虫」ってね、むかしセグメント圏外でスカラボウル古代人のミイラが発掘されたという情報がまことしやかに流れて、それを隠蔽するために持ち出されたっていう、未確認虫のことね。あと、反適合(アンコ)者認定されたやつが「包帯芋虫」にされてこっそり圏外に埋められるっていうのは連合労民時代にビトーさんが作ったネタだと思いますよ。信じてる人、いまだにいますからね、連合労民の方たち、」”

 ――ムシッ!!!いい加減にしろ!――ブチッと、たまらずスイッチを切った。

 バカにしやがって!なにからなにまでコンチキショーだ!!ウメコは、こんな出鱈目を書くやつが、ホントに8区の捕虫労だとしたら、どうせクソノンコな武装化リベラル連中の仕業に違いないと、ムシムシしながら聞き、開拓労民の風上にもおけない、きっとさっきの自由労報言(ニュース)の、誇張された私の活躍記事にやっかんでこんなものを書いたんだ、と見当つけたけれど、虫を殺した云々のくだりで、昼間の外労連(げろうれん)のやつら以外にありえないと決めた。

 たぶん班長から聞かされた話の通り、報言(ニュース)記事で流すつもりだったのだろうが、きっと連合に握りつぶされたに違いない。その腹いせで、こんな投稿ネタにかこつけ、出まかせ垂れ流しやがったんだ、チッキショー!

 自由労にイラつかされるのも、バカらしく、いい加減疲れ、すっと心を鎮め、じっと寝床で丸まっていると、ウメコはまるでホントに自分が「包帯芋虫」にでもなったような気がする。気分はボロボロ、全身でなく心はすでに包帯でグルグル巻きだけれど。

 ところで「包帯芋虫」になったら、いずれ蝶にでも生まれ変われるのかしら。だったらそれも悪くないかもしれない。そうしていつかウィキッド・ビューグルを(だま)くらかしてやるのも悪くない、とウメコは思った。このまえミニスカートにされた恨みをまだ忘れてはいないのだ。そのとき私の望みは、やっぱり人間にしてください、って言うのかだけれど、このまま人間に戻ったって、どうせまた「包帯芋虫」にされて埋められたら、もとの木阿弥(もくあみ)だ。そのときはグーコ(いい子)で生まれてこないことには。

――それで私は音楽を集めているのか?――いつかウィキッドビューグルにいい子にしてもらう取引きのために?――ウメコはこんなとこに自分が音楽を好きな理由を発見したら、今日一日のいっさいの(わだかま)りが消え、せいせいしてしまった。

 しかしとにかく切れ間には気をつけよう。蝶が切れ間にやってきたら、それはバカな夢を見ているというメッセージだろうから。夢見心地にさせる音楽を止め、そうして現実に目を向けなさいということだ。

 やっとウトウト寝落ちしかけたころ、トランスビジョンモニターが自動的についた。開拓連合労民の就寝前の視聴義務「開拓日報」だ。

 ウメコは薄っすら目を開け、反射的に少し上体を起こし、さも真面目に傾注している姿勢をみせた。これは、うっかり眠りこけたのを気づかれ指導されないよう、半目を開けて半分起き、半分眠る、連合労民必須のテクニックである。

『連合発表の各セグメント、今日の開拓実績と明日の達成目標・・・・・・。

 セグメント1区、開拓面積245㎡、最長前進距離6m・・・・セグメント2区、開拓面積・・・㎡、最長前進距離・・・・・・現在の最到達線・・・km・・・・・・。

 ・・・続いて、各労の実績と各セグメントの概況です・・・・。

 ・・・捕虫労、今日の実績と明日の捕虫目標、虫霧予報です。今日の総量捕虫総量・・t 獲得平均クラック値・・v・・・獲得

 ・・・セグメント1区、捕虫総量・・t、獲得平均クラック値・・v・・・・・。

 それでは、ウィキッドビューグルからのお言葉です。

 当番のトラーネです、6区7区8区のみなさん、一日ご苦労様・・・・・捕虫は、すべての開拓事業の基幹労務であり原動力です。捕虫労員は、その労務の意義を忘れずに、明日のノルマに従事するように。ノルマはみんなのために、みんなはノルマのために!Be a Good con(よき適合者たれ)former!いい子でいましょう!では、おやすみなさい』
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