第71話 3月24日。希望。
文字数 2,881文字
「うーぎぼぢわるい。。。」
酷い二日酔いでグローキー状態な美久ちゃんをソリオの後部座席に乗せて、僕と所長は三月家を後にした。
玄関先で三月家の人たちが、総出で僕たちを見送ってくれている。
所長が窓を開けて、手を降った。
僕も車内で左手を後ろの見つけの人たちに向けて振り続けた。
倒壊した神社の横を右折して、珠洲道路に合流した。
「昨日は楽しくて、調子に乗って飲みすぎたな」
助手席でこれまた二日酔いの所長が呟いた。
「昨日も、でしょ」
と僕が返す。
「料理が美味しいとどうしても酒が進むな。
そういやナオ、昨日は酒の量、控えめやったな」
「いつもあんなもんですよ。お義父さんが居ると次々勝手にお酒を注がれるので、飲みすぎることありますが、昨晩は美久ちゃんがお義父さんのお酒の相手をしてくれたので」
バックミラーでちらっと美久ちゃんの様子を見ると、美久ちゃんは気持ち悪そうに項垂れていた。
「それにしてもお義父さんは酒つえーなー。あんだけ飲んだのに今朝も早く起きて隆太さんと漁に出ていたんだろ?」
後ろのトランクには沢山の採れたての魚が入ったクーラーボックスが積まれている。
「ええ。本当にあの二人はどれだけ飲んでも、早朝には起きてしっかり漁に行ってますからね。レイちゃんもお酒強いし、三月家の人は本当に酒豪の一族です」
「そっか。聡や春香ちゃんも、その血を継いでいるかもな。将来お前より酒強かったりして」
「そうかもしれません。まぁほどほどでよいんですけどね」
珠洲道路を順調に走り、復路についてはまだ開通していない「のと里山街道」の合流地点に着いた。
合流地点にあるコンビニはまだ閉店したままだ。
かなり地震の被害が大きかったようで、開店の見通しはたっていないという。
いつものように迂回路に入り、車を進める。
「三月家を建てるとして、いつ頃再建できるかな」
途中ちょっと寝たせいか助手席の所長は随分回復したようで、顔色もだいぶ良くなっている。
「そうですね、設計を夏までに終わらせて、9月から施工、1月過ぎに引き渡し。というのが普通の場合ですが、公費解体の時期や、珠洲での人手や資材の確保などやらないと行けないことが多くて正直わかりませんね」
「そうだよなぁ。珠洲の町も至る所で仮設住宅は建設中だけど、個人の家の修理する業者の姿もほとんど見かけないし、ましてや一軒家の新築のなんて全く見当たらないもんな」
「ないですね。ブルーシートと水道管を直す業者の方ぐらいです」
「それなら早く三月家を新築工事を開始したら、その様子が珠洲の人たちの希望にならんかな。」
「!? 確かにそうですね!」
「そう考えると、ちょっと無理してでも俺達が体制を整えて、一日でも早く建設を始められるといいな」
「僕も急いで図面を描きます」
「図面は俺達の専門だから頑張ればなんとかなる。
後は三月家の皆さんの建て替え中の仮住まいと、建築の人手と資材の問題か」
「先ずは仮住まいですね。確か所長に先日渡した『応急仮設住宅の入居の申し込み』資料に仮設住宅の入居条件が書いてあった気がします。」
「あの書類か。細かくは読んでなかったが、、、」
所長は書類が入ったバッグから資料を取り出した。
「えーと、入居条件だったな。
おっ、以下の2と4が当てはまりそうだ。
2は『半壊(「中規模半壊」、「大規模半壊」を含む。)であっても、住宅として再利用できず、やむを得ず解体を行う者』。
4は『住宅の応急修理制度を利用する方のうち、修理に要する期間が1か月を超えると見込まれる方(半壊以上の被害を受け、他の住まいの確保が困難な者に限る。)』
とのことだ。三月家も仮設住宅の入居条件は満たせそうだな」
「そうですね。帰ったら清美さんに連絡してみます。
確か夏には入居希望者すべての仮設住宅の建設が完了するはずです。
その資料の一番下に『住宅の一覧』が載っていたような記憶が」
「あったあった。えっと三月家の住むところは上戸だったけ。
上戸の主要な仮設住宅は4月には完成予定日と書いてある。
他の飯田町とか近そうな仮設住宅も遅くとも7月には完成しそうだ」
「なら、8月までに仮設住宅に入れる可能性が高いですね。
最速8月から工事ができるかもしれません」
「公費解体はもっと時間がかかりそうな気がするので、やはり補助金を貰って自前で解体後に施工かな」
「そうですね。公費解体は倒壊の危険度の高い家屋優先ですし、業者もいない今の現状を鑑みると年末ぐらいになっても不思議ではないかも」
「となると残るは、解体業者や建築の業者や資材の問題か。
それは俺が帰ったらあたってみるよ。
金沢の業者でも大規模な人員を能登には割けないが、一部ならやり繰りできる業者はあるかもしれん」
「お願いします。ちょっと現実味がでてきましたね」
「ああ。俺は珠洲に足を運んで支援して思っていたんだ。
物資はどんどん足りてきている。
地元の床屋が再開したり、飲食業の方たちが珠洲市のお弁当を作る仕事に従事したりと、俺達の支援がバッティングすることにより、地元の自立の阻害要因になってしまう可能性も今後出てくるんじゃないかと」
「そうですね。美容師の大花君も同じことを言っていて、最近は参加を見送っていました。」
「だろ?勿論細かい要望も沢山あるし、支給される物資だって完全じゃない。
断水も続いている。
避難所もどんどん閉鎖され、また新たな問題も出てくるだろう。
けど俺達はそれに右往左往しながら支援するよりも、折角設計や建築の知識があるんだし、それを生かした支援に切り替える時期にあるんじゃないかと思ってな」
「はい。」
「俺達もずっと無償で支援を続けられる体力もない。
自分たちの仕事に繋げた、持続可能な支援に切り替えていく。
先日の上戸小学校の避難所の閉鎖がその区切りかと。」
「結構深く考えてますね。さすが所長」
「お立ててもなんもでんよ。はは。
まぁなんだ、さっき言った通り、三月家の工事の始まることが珠洲のモデルケースとなり、後に続く人たちがでてくるようであれば、いい循環に繋がるんじゃないかと思っている。
ナオも今の仕事に加えての、三月家の設計作業になって大変だと思うがよろしく頼むな。
俺も解体業者と8月からの施工ができる業者がないか調整してみるし」
「はい。三月家のことですし、僕も最大限頑張ります」
「あだぢもがんばりまず」
力ない声で後部座席から美久ちゃんが言った。
「おっ寝てたかと思っていたが、聞いていたのか美久。
よろしく頼むぞ。お前が『船みたい家』のいいだしっぺだしな」
「その時のごどはあんまり覚えていないけど、じっちゃん達のために頑張りまず」
「はは。よろしく頼むぞ。三月家ができたら、またみんなで楽しく飲もう」
「いえ、、、どうべんお酒ばもういいでず。。。」
はははと所長と僕は笑った。
金沢に帰ったら忙しくなりそうだけど、お義母さんや清美さんからも聞いた要望をふまえ、レイちゃんの力を借りて家の形を固めていこう。
所長と僕はそれからの帰りの車の中で、家や今後の体制のアイディアについて語りあった。
今回は沢山話しているうちに、感覚的にはあっという間に金沢に到着した。
酷い二日酔いでグローキー状態な美久ちゃんをソリオの後部座席に乗せて、僕と所長は三月家を後にした。
玄関先で三月家の人たちが、総出で僕たちを見送ってくれている。
所長が窓を開けて、手を降った。
僕も車内で左手を後ろの見つけの人たちに向けて振り続けた。
倒壊した神社の横を右折して、珠洲道路に合流した。
「昨日は楽しくて、調子に乗って飲みすぎたな」
助手席でこれまた二日酔いの所長が呟いた。
「昨日も、でしょ」
と僕が返す。
「料理が美味しいとどうしても酒が進むな。
そういやナオ、昨日は酒の量、控えめやったな」
「いつもあんなもんですよ。お義父さんが居ると次々勝手にお酒を注がれるので、飲みすぎることありますが、昨晩は美久ちゃんがお義父さんのお酒の相手をしてくれたので」
バックミラーでちらっと美久ちゃんの様子を見ると、美久ちゃんは気持ち悪そうに項垂れていた。
「それにしてもお義父さんは酒つえーなー。あんだけ飲んだのに今朝も早く起きて隆太さんと漁に出ていたんだろ?」
後ろのトランクには沢山の採れたての魚が入ったクーラーボックスが積まれている。
「ええ。本当にあの二人はどれだけ飲んでも、早朝には起きてしっかり漁に行ってますからね。レイちゃんもお酒強いし、三月家の人は本当に酒豪の一族です」
「そっか。聡や春香ちゃんも、その血を継いでいるかもな。将来お前より酒強かったりして」
「そうかもしれません。まぁほどほどでよいんですけどね」
珠洲道路を順調に走り、復路についてはまだ開通していない「のと里山街道」の合流地点に着いた。
合流地点にあるコンビニはまだ閉店したままだ。
かなり地震の被害が大きかったようで、開店の見通しはたっていないという。
いつものように迂回路に入り、車を進める。
「三月家を建てるとして、いつ頃再建できるかな」
途中ちょっと寝たせいか助手席の所長は随分回復したようで、顔色もだいぶ良くなっている。
「そうですね、設計を夏までに終わらせて、9月から施工、1月過ぎに引き渡し。というのが普通の場合ですが、公費解体の時期や、珠洲での人手や資材の確保などやらないと行けないことが多くて正直わかりませんね」
「そうだよなぁ。珠洲の町も至る所で仮設住宅は建設中だけど、個人の家の修理する業者の姿もほとんど見かけないし、ましてや一軒家の新築のなんて全く見当たらないもんな」
「ないですね。ブルーシートと水道管を直す業者の方ぐらいです」
「それなら早く三月家を新築工事を開始したら、その様子が珠洲の人たちの希望にならんかな。」
「!? 確かにそうですね!」
「そう考えると、ちょっと無理してでも俺達が体制を整えて、一日でも早く建設を始められるといいな」
「僕も急いで図面を描きます」
「図面は俺達の専門だから頑張ればなんとかなる。
後は三月家の皆さんの建て替え中の仮住まいと、建築の人手と資材の問題か」
「先ずは仮住まいですね。確か所長に先日渡した『応急仮設住宅の入居の申し込み』資料に仮設住宅の入居条件が書いてあった気がします。」
「あの書類か。細かくは読んでなかったが、、、」
所長は書類が入ったバッグから資料を取り出した。
「えーと、入居条件だったな。
おっ、以下の2と4が当てはまりそうだ。
2は『半壊(「中規模半壊」、「大規模半壊」を含む。)であっても、住宅として再利用できず、やむを得ず解体を行う者』。
4は『住宅の応急修理制度を利用する方のうち、修理に要する期間が1か月を超えると見込まれる方(半壊以上の被害を受け、他の住まいの確保が困難な者に限る。)』
とのことだ。三月家も仮設住宅の入居条件は満たせそうだな」
「そうですね。帰ったら清美さんに連絡してみます。
確か夏には入居希望者すべての仮設住宅の建設が完了するはずです。
その資料の一番下に『住宅の一覧』が載っていたような記憶が」
「あったあった。えっと三月家の住むところは上戸だったけ。
上戸の主要な仮設住宅は4月には完成予定日と書いてある。
他の飯田町とか近そうな仮設住宅も遅くとも7月には完成しそうだ」
「なら、8月までに仮設住宅に入れる可能性が高いですね。
最速8月から工事ができるかもしれません」
「公費解体はもっと時間がかかりそうな気がするので、やはり補助金を貰って自前で解体後に施工かな」
「そうですね。公費解体は倒壊の危険度の高い家屋優先ですし、業者もいない今の現状を鑑みると年末ぐらいになっても不思議ではないかも」
「となると残るは、解体業者や建築の業者や資材の問題か。
それは俺が帰ったらあたってみるよ。
金沢の業者でも大規模な人員を能登には割けないが、一部ならやり繰りできる業者はあるかもしれん」
「お願いします。ちょっと現実味がでてきましたね」
「ああ。俺は珠洲に足を運んで支援して思っていたんだ。
物資はどんどん足りてきている。
地元の床屋が再開したり、飲食業の方たちが珠洲市のお弁当を作る仕事に従事したりと、俺達の支援がバッティングすることにより、地元の自立の阻害要因になってしまう可能性も今後出てくるんじゃないかと」
「そうですね。美容師の大花君も同じことを言っていて、最近は参加を見送っていました。」
「だろ?勿論細かい要望も沢山あるし、支給される物資だって完全じゃない。
断水も続いている。
避難所もどんどん閉鎖され、また新たな問題も出てくるだろう。
けど俺達はそれに右往左往しながら支援するよりも、折角設計や建築の知識があるんだし、それを生かした支援に切り替える時期にあるんじゃないかと思ってな」
「はい。」
「俺達もずっと無償で支援を続けられる体力もない。
自分たちの仕事に繋げた、持続可能な支援に切り替えていく。
先日の上戸小学校の避難所の閉鎖がその区切りかと。」
「結構深く考えてますね。さすが所長」
「お立ててもなんもでんよ。はは。
まぁなんだ、さっき言った通り、三月家の工事の始まることが珠洲のモデルケースとなり、後に続く人たちがでてくるようであれば、いい循環に繋がるんじゃないかと思っている。
ナオも今の仕事に加えての、三月家の設計作業になって大変だと思うがよろしく頼むな。
俺も解体業者と8月からの施工ができる業者がないか調整してみるし」
「はい。三月家のことですし、僕も最大限頑張ります」
「あだぢもがんばりまず」
力ない声で後部座席から美久ちゃんが言った。
「おっ寝てたかと思っていたが、聞いていたのか美久。
よろしく頼むぞ。お前が『船みたい家』のいいだしっぺだしな」
「その時のごどはあんまり覚えていないけど、じっちゃん達のために頑張りまず」
「はは。よろしく頼むぞ。三月家ができたら、またみんなで楽しく飲もう」
「いえ、、、どうべんお酒ばもういいでず。。。」
はははと所長と僕は笑った。
金沢に帰ったら忙しくなりそうだけど、お義母さんや清美さんからも聞いた要望をふまえ、レイちゃんの力を借りて家の形を固めていこう。
所長と僕はそれからの帰りの車の中で、家や今後の体制のアイディアについて語りあった。
今回は沢山話しているうちに、感覚的にはあっという間に金沢に到着した。