第1話 プロット本編

文字数 3,888文字

【起】
 土曜日。大通りを一本外れた4階建てビルの3階、「サクラ探偵事務所」とかかれたドアをノックして、30歳くらいの女性が入ってきた。

「すみませーん、探偵事務所ですよね? 事件の依頼なんですけど……」
 部屋に高校生しかいないのを見て、依頼人である女性は「探偵の方は……?」とキョロキョロする。

 私、鳴川(なるかわ)千隼(ちはや)がどう返そうか迷っていると、隣にいた小藤(ことう)秋香(しゅうか)生野(いくの)昌宗(まさむね))が立ち上がって言う。

「大人はいないですよ。ワタシ達3人が探偵グループですから」
「依頼、オレ達が聞くぜ」
「ええええっ!」

 女性は驚きのあまり叫び声をあげた。

 改めて、依頼人の女性である森園佳世に机に座ってもらい、話をする。
「ワタシ、小藤が推理担当、昌宗が情報収集や変装担当、千隼が記録担当です。毎週土曜日だけ事務所を開けてる高校2年生(全員高校は別)のサクラ探偵グループです」

「あの……このサクラ探偵事務所は、事件の当事者じゃなくて探偵を助ける探偵事務所だと聞いたんですけど……」
「ええ、合ってますよ。殺人事件はお断りですが、探偵が一人前になるお手伝いをしています」

 秋香がにっこりと笑って説明を始めた。

「探偵が一人前になるためには、鮮やかに謎を解く経験が必要なんですよね。皆が集まっている中で堂々と話し、犯人を指して謎を解く。じゃあ『鮮やかに謎を解く』ためには何が必要か分かりますか?」
「いえ……謎そのものですか?」

 困っている森園さんに、小藤は「それはこっちでは用意できませんから」とクスクス笑った。

「必要なのは……

!」
「ガヤ……?」

「そうです。探偵が話してるときに、みんな黙って聞いてるとうまく喋れない。漫画やドラマでは、そこでガヤが入りまるよね? 『でも、女性の力じゃそんなの無理じゃないか!』『どうやって密室にしたんだよ!』みたいな

。こうやって探偵が成長していくんです」

 昌宗が続きを口にする。

「でも一般人にはそんなことをやるのは難しいですよね。そこで活躍するのが、俺達サクラなんです。森園さんみたいな探偵事務所の人から探偵本人にはナイショで依頼を受けて、事件現場に一般人のフリで駆け付け、推理ショーに参加してガヤをやります。もちろん、そのためには先に謎解きをする必要があるので、オレ達みたいな優秀な探偵グループが適任ってわけです」

「なるほど……探偵が自信を持てるようになるために推理ショーを盛り上げてくれる……まさに『

』探偵事務所ってわけね……」

 ***

 説明を終えたところで、森園さんから今回の依頼。事務所で抱えている若手の探偵がちょうど密室の謎に挑むらしいので、その探偵が気持ちよく推理できるように、私達3人はガヤのお手伝いをすることになった。

 まずは昌宗のメイク・変装技術で3人とも普段とは別人になってから出発する。毎回事件現場に同じ人がいると疑われてしまうからだ。

 今回の謎はあるアパートで起こった物取り事件。密室の中で部屋の中のものが盗まれたという。
 秋香と昌宗と一緒にアパートに駆け付けると、すでにパトカーがいて人だかりができていた。(小さな町なので事件が起きると人が集まる)

 さっそく昌宗は近くの人に聞き込みを開始し、さらに警察とも話して巧みに情報収集していく。スピーディーに事前の概要を整理するのは、彼の得意技だ。

 続いて事件のあった部屋の前に行き、男性の中川探偵と顔を合わせる。森園さんの情報によると23歳らしい。

 うまく言いくるめ。一瞬だけ事件のあった部屋を見せてもらう。この瞬間が私の出番。見たものを写真のように記憶できる能力で、部屋の中を完璧に覚えた。

 最後に秋香が情報を統合して推理する。そして、密室のトリックを見破って私達に教えてくれた(結局考える時間は中川探偵より短い)。

 中川探偵が警察や周囲の人を集めて推理する。要所要所でここぞとばかりに「でもそれじゃあ誰かに目撃されちゃうかもしれないじゃないですか!」などガヤを入れていく。中川探偵も「……そういう質問が出ると思ってましたよ」と会話の応酬でうまく推理ショーを展開することができた。

 森園さんからお礼を言われ、謝礼金をもらう私達。

「あのトリック、どこで気が付いたの?」
「ああ、実はね……」

 タネ明かしをしながら、ラーメンを食べに行くのだった。



【承】
 土曜日。サクラ探偵事務所に新しいお客さんがやってきた。探偵事務所を経営する50代の男性、弓野さんから、新米女性探偵である夏下さんの推理披露に協力してほしいと依頼が来る。とある工場で作業服が切られており、誰が切ったのか犯人捜しをしているとのことだった。

 事件の依頼を受けた後、弓野さんから「なぜこんなグループを作ったんですか?」と聞かれる。私は「もともと3人とも、それぞれ探偵として活動してたんですよ」と答えた。

 昌宗の調査力とネットワークで同じ作業服を手に入れ、若手の工場社員に変装して現場に紛れ込む。工場社員も多く、聞き込みにかなり苦労する昌宗。一方で私も、事件に関係ありそうな場所を次々見ては記憶していく。昌宗と2人で調査しながら、私はサクラ探偵を結成したときのことを思い出していた。


 もともと秋香も昌宗も私も、別々の探偵だった。秋香は卓越した推理力、昌宗は情報収集、私は記憶力を武器にそれなりに有名な高校生探偵として活動していたけど、この世界には小さな事件が多すぎる。私達3人だけでは捌ききれず、未解決になってしまったものも多い。だからこそ私達は「新しい探偵を増やすことが、世界から謎を減らすための一番の方法だ」と気付いて、サクラ探偵事務所を始めたのだ。


 無事に情報が集まり、秋香は一気に推理をまとめて私と昌宗に教えてくれる。
その後、女性探偵の夏下さんの推理ショーに参加し、「だったら誰でも犯行は可能じゃないですか」などガヤを入れ、見事彼女は全員の前で堂々を推理をすることができた。

 謝礼をもらい、ご飯を食べに行くことにする。私は「ねえ、あそこに行きたいな」と提案し、サクラ探偵を組むときに3人で話したファミレスに行くことに決めたのだった。



【転】
 また新しい依頼人がサクラ探偵事務所にやってきた。探偵事務所の所長である40代のバリキャリ女性、本内さんから、新米男性探偵で、自分に自信が持てない月岡さんの推理に協力してほしいと依頼が来る。失踪したと言われている男性を探す事件だった。

 いつものように変装して、失踪した男性のマンションに行く。手がかりを探していき、比較的すぐに謎を解明することができたが、探偵の月岡さんは「先輩探偵がいないけど頑張って解かなきゃ」というプレッシャーのせいか、推理がうまく進んでいない。

 早く謎を解かないと、失踪した男性と会えなくなってしまう。焦った昌宗は「それとなくヒントを教えよう」と提案し、私も同調するが、秋香は大反対。

「ここで教えたら自分に自信が持てないでしょ! 自分で閃くのが大事なの!」
「そんなこと言ってたら、もう見つけられなくなっちゃうかもしれないでしょ! 最優先は今事件を解くことだよ!」
「そうしたら今後月岡さんが解けるはずだった事件が解けなくなっちゃう! 目先ばっかり見てちゃダメ!」

 喧嘩状態になり、秋香は「考え方が違うみたいね。ワタシ抜けるかも」といってその場を立ち去ってしまった。


 昌宗と2人でそれとなく月岡さんにヒントを教えてようやく彼も謎を解明し、推理ショーをやることができた(失踪したと思われていた男性も見つかった)。ただ、自分で最初から最後まで閃かなかったということもあり、探偵として大きく自信がついたわけではなさそう。秋香とのやりとりを思い出す。

 事務所に戻っても彼女はいない。昌宗と2人だと食事に行く気になれず、事務所のビルを出てすぐに開催し、私はコンビニに向かった。並んでいる探偵漫画のコミックが、少し恨めしく見えた。



【結】
 昌宗と2人、サクラ探偵事務所で依頼を待つ。秋香は2週間顔を出していないし、連絡も既読スルーだ。このまま彼女はメンバーから抜けるのだろうか。

 かなり有名な探偵事務所から依頼が来る。新人探偵、23歳の女性、下村さんの推理披露を手伝ってほしいということだった。事件はマンションでの強盗。犯人が逃走したのを見ていた目撃者3人の証言が一致していないらしい。

 しっかり現場を見る必要があるので、入念にメイクして大人に見えるようにし、事件現場にいく。昌宗の聞き込みも私の記憶能力もフル活用して謎を解こうとするが、最後の1人の証言がなぜ食い違っているのかがどうしても浮かばない。下村探偵も事件が解けそうで、今回はガヤは無理かと思われた、その時。

「急いで情報ちょうだい」

 秋香が現れた。驚きながらも喜んだ2人は知っている情報を全て教え、彼女が瞬く間に解いてしまった。下村探偵の推理披露にも間に合い「じゃあ2人目の目撃者はなぜ見間違えたんですか?」と絶妙のタイミングで質問を投げかけ、無事に推理ショーを終えることができた。下村さんも自信がついたようで、キラキラした目をしていた。


 解決に事務所に戻る途中、秋香が謝ってくる。

「ごめんね、ワタシこだわりすぎてたみたい」
「ううん、こっちこそごめんね。秋香の言うことももっともだったから」

 こうして仲直りし、事務所に戻って謝礼を受け取った後、「今日はチャーハンもつけちゃおう!」と盛り上がりながら、3人でいつものラーメン屋に行くのだった。
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