第4話(9)

エピソード文字数 2,354文字

 ぁーぁ。女の子を怒らせると、マジで怖いぞー?

「私の身体を楽しんでいいのは、従兄くんだけ……。よくも、ファースト太腿を楽しんでくれたわね……!」

 ファースト太腿ってなに? 初めて他人が太腿を触ること? 等々お尋ねしたい点があったが、口を挟んだら従兄くんも殺されそうだったので噤んでおいた。

「特別に、ちょっと強力な魔王術を使ってあげる。光栄に思いなさいよぉ?」
「かははっ、お主は阿呆か? 拙者は光速さえも超える速さで動ける故、最強の英雄であっても攻撃は当たらんぞ」

 魔王の力を宿しているシズナでさえ、触られた感覚で行為に気が付いたんだ。アイツの言う通り、動きを捉えられないだろう。

「うふふっ、阿呆はそっちよ。回避力が異常に高い相手を倒す方法は、あるわ」
「ぐけっぐけっぐけ、ならば御教授願おう。どうやるのだ?」
「…………それは、こうやるのよ。『ストップ・シャドウ』」

 彼女がお腹の前で両手を打ち鳴らすと、地面が激変。草が覆い茂っていた大地が、一瞬にして黒一色になった。

「んぬ? これ、は……?」
「ゴキブリを捕まえる、仕掛けのようなものよ。地面を覆い尽くした影を踏んだ敵は、術を解除するまで足が離れなくなるの」

 なるほどね。光の速さで動くなら、スタートを切れないようにしてしまえばいいんだ。

「はい、御説明お・し・ま・い。あとは、止まっている的に攻撃を打ち込むだけね」
「ま、待ってくれっ、一生のお願いだっ! 拙者を倒す前に、そのタイツを穿いてくれぇぇっ!!

 ぶれーねーな、アイツ。もう惚れ惚れしてきちゃったよ。

「頼むっ。どうかその、20デニールの黒タイツを――」
「私の身体で楽しんでいいのは、従兄くんだけと言ったでしょう? 味わいなさい、『ラスト・ハッピードリーム』」
「「「「「!!!!!!!!!!」」」」」

 シズナが右の掌にふぅと息を吹きかけると、デニールさんと分身4体が僅かに震えて直立。まるで人形のように固まってしまった。

《なっ、なにが起きたのでしょうKA! 然芯選手、微塵も動きませんYO!》
「この魔王術は対象に大好きな物か者に囲まれた夢を見させ、体内を幸せな気分で充満させるの。そして闇によって齎された『偽りの幸福』はやがて本当の姿を表し、私がもう一度掌に息を吹きかけると…………巨大な茨となって、身体の内側から串刺しにされるわ」

 魔の王、えげつないなぁ。デニールさんは、違う意味でえげつなかったけどさ。

「し、シズナちゃんっ、この術さんはブブーだよっ! これって呪いの系統(けーとー)だから、強制転送(きょーせーてんそー)されても死んじゃうよーっ」
「シズナ先生、この辺にしてあげや。殺すのは惨いき」
「え? 二人は、あんな奇人を生かしておいていいの?」
「「…………」」

 魔王と勇者は、閉口する。あれを目の当りにしたら、女子は反論できないよねぇ。

「うふふふふふふふ。ファースト太腿を奪った罪は、万死に値するのよぉ」

 レミア達に説明をしている彼女の瞳には、光がない。こっ、この人怒りで理性を失ってます!

「あっ、そうだわっ。ここに魂を滅ぼす呪いをかけて、転生すら出来ないようにしましょう!」
「にゅむっ、詠唱(えーしょー)を始めてるー!? ゆーせー君どーしよっ!」
「もう半分終わったぜよ!! 師匠っっ、どうしたらえいろう!!
「…………しょうがない。俺に任せろ」

 早く収めないと、ドエライことになりますからね。ぼくが一肌脱ぎましょう。

「………………ふぅ。やりますか」

 やりたくないけど、仕方ない。俺は暴走魔法使い魔王に歩み寄り、耳元で囁く。

(実は今朝方、コッソリお前の太腿を触っちゃったんだ。なのでそれは、セカンド太腿なんだよ)

 ファーストを奪われて憤激してるのならば、そうではないと思い込ませたらいい。単純なことだ。

(ファーストは、キミの従兄くん。あんまカッカするなよ)
「…………なんだそうだったのっ。もぅ、従兄くんのエッチっ」

 嘘のように怒りが引っ込み、肘でウリウリ突っついてくる。
 そう――。大抵の問題は、誰かが犠牲になれば簡単に解決するのである。

「それなら、温情を与えてあげてもいいわね。審判さん、『金輪際、痴漢行為はしない』という条件付きで解放してあげるわ」
《然芯選手は、敗北同然でしTA。そうしない限り死亡してしまうので、自分が代わりに同意しておくBI!》

 ベロリンガルが約束をすると影が消え、念のため身体をチェックするんだろうね。強制転送が発動し、デニールさんも消えた。

《中継をご覧の皆様、試合終了でございまSU! 鬼の目にも涙っ、というモノなのでしょうKA! よく分かりませんが、あの魔王使いさんが止めたっぽいぜ戮殺WOっ!》
「あ、あんなヘンタイを殺すと、手が穢れるからな。俺の傍にいる犬に、変態菌をつけたくなかっただけだ」

 俺は咄嗟に誤魔化し、ペッと唾を吐く。
 唾を吐けば悪者になる。そう思ってるわたくし、マジ小者。

《おーっと、相変わらず極悪でしTA! 美学があったんだ――》
「審判さん、バトルは終了よね。次の出番までは何分あるのかしら?」

 シズナが、早口でベロリンガルの声を遮った。??? この人、やけに急いでいるような……?

《準決勝は午後九時からとなっているため、およそ一時間ありまSU。それがなにKA?》
「いいえ、なんでも。従兄くんレミアさんフュルさん、控え室に戻りましょ」

 猛威を振るった魔法使い魔王は俺の手を取り、俺達の返事を待たずに上機嫌で退場。彼女は帰路でも機嫌が良く、鼻歌混じりで部屋に入ったのでした。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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