第3話

文字数 1,017文字

でさぁ……。私のいとこ、地震の時浜通り(福島県東側に位置する沿岸地域)に行ってたんだって。
うわ! 津波とか、大丈夫だったの!?
それがね、彼女自転車が趣味なんだけど……車に自転車のっけてサイクリングに行ったらしいの。ちょうど地震が来たときは車は海岸近くの駐車場に停めて、自分自身はサイクリングの最中だったらしくてさ。自分は無事だったんだけどね、車が流されちゃったんだって。
うわー、助かってよかったねえ……。
でも車が流されたんでしょ? どうやって帰ってきたの?
自転車で帰ってきた……。
すごい! 山越えじゃん? 自転車で!?
うん。さすがに大変だったって。
でもさあ……学校、ちゃんと始まるのかしらね?
うちの子今年卒園だったんだけど、卒園式もまだなの。
うちの子の通ってる小学校は体育館壊れちゃったのよね、今後卒業式をやるってことになったとしても、学校じゃ無理なんじゃないかって感じ。
そもそも卒業式できると思う? 卒業式しないままもう入学式になっちゃうわよ?
まあ、それはやるんじゃない? 卒業式だよ?
はあ……
なによ。ずいぶん深いため息じゃない。
実は私さあ、最初の頃ずっと停電だったし……テレビも見れなかったでしょ? だから原発がどんなことになってるかとかもよくわからなくって。子どもと結構外で遊んだりしてたんだよね。
観月だけじゃないよ。私だって、子ども小さいからうちの中ばかりだと飽きちゃうでしょ? 最初の頃、外にお散歩に行ったり、ドングリ拾いしたりしてたのよ。
私もよ。子どもとスーパーに入るための行列に並んでた時、雪が降ってた。
いつか子どもに異常が現れたら、やっぱりその時は後悔しちゃうんだろうなあ……。

でも今の私は……子どもと二人で福島を離れたら……自分がまず駄目になっちゃう気がするの。

まあさ、今度はうちにも遊びに来てよ! こんな時は一人でいたら落ち込んじゃうでしょ? 子どもたちも友達がいたほうが退屈しないでしょ?
そうそう、そうなの。外にも出られないし幼稚園も学校もないし、家の中で何して遊ぶか悩むのよねえ。うちの子はブロックなんかも好きだけど、そればっかりじゃあやっぱり飽きるみたいだし。二人は子どもと何して遊んでる?
うーん、お絵かきとか。あと、実家が近いからジジババに頼っちゃったりもするなあ。
紙飛行機おすすめ。この間やったんだけど、作るところから初めて、階段の上から飛ばして、誰の飛行機が一番遠くまで飛んだかとか、かなり遊べたわよ。
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登場人物紹介

私。こと観月。幼稚園年長さんの息子がいる。中学まで神奈川で育つがその後福島に移り住み福島で結婚。

自宅でピアノ教室を開いていたのだけれど、地震のために通ってこられる生徒さんが激減。開店休業状態に。

今回のお話は3.11の後、少しばかり落ち着いたころ。高校時代の友人であるアッコとマミが、観月の家に集まった時のお話し。

私はアッコ。三歳の息子がいる。出産を機に退職したんだけど、そろそろ仕事を見つけたいなあと思っていた矢先の大震災。外出もできず、職探しも中断中。

私はマミ。娘は小学一年生。事務職をしていたのだけれど、震災のために今は自宅待機中。

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