やまのべフェス(やまのべロック?)

文字数 5,381文字

1.
PM5:00。
川遊びとバーベキューの片づけが終わって、
トラじーちゃんたちに迎えにきてもらって、教会に到着。
みんな、帰りの車の中ではぐっすり眠りこんでいた。
えーと。
ほら、眠ってるさくらさんとゆりさんの顔がやたらと近くてゆりっぽいとか、
ぼたんちゃんがダリアの胸まくらでねてたとか・・・・・
ああああああ!
葉一に言われたからそういう描写入れてみようとしたけど、まじ無理。
葉一、お前、ほんとにすげぇよ・・・。
だから、お前が寝言で、「ふにゃ・・滅びのばーすとすとり・・」とか言ってた、
・・・お前の黒歴史っぽい寝言はきかなかったフリをしといてやるな。

さて。
今から、全員でシャワータイム、夕飯、練習をして、
ワーシップライブはPM7:30からだ。
「・・・あのさ、俺はもう、そういう期待してないけど、
『全員でシャワー』とか、誤解をうけるような表現をするなよ・・・」
「?? シャワータイムだろ?
じゃあ、さくらの家でもシャワー、貸してくださるそうだから、さくらとゆりさんは
そちらで、ダリアは牧師館のシャワー、ひまわりちゃんとぼたんちゃんに使用方法おしえてあげて・・・へ?一緒にはいるの?せまいと思うけどな・・・
で、俺たち男はトラじーちゃんの家のシャワーをお借りする、っと・・・」
「だから、その一緒にはいる、の描写をもっと細かくというかな・・・まぁいいや・・・」
葉一は、どこか遠い目をしながら、タオルをとりにいった・・・・

男のシャワーとはいえ三人となると時間がかかる。
急いで、教会に戻ると、美味そうな、カレーの香りがただよってきた。

関係ない話だけど、やまのべ教会は毎週、礼拝後にみんなで食事をとる『ランチ』があって、そのランチ、ほとんど毎回、カレー。
(希望者のみ、だけど、200円でお昼が食べられるためか、ほとんどの教会員が利用する。)
これはお袋がいたときからずっとで、やまのべ教会35年の伝統のようなものだ・・・
おかげで、俺は『日曜のお昼といえば、カレー』という習慣が身についてしまって、
・・日曜はカレーを摂取しないと落ち着かない。

「あれ、そういえば、樹太郎くんが、ここにいるってことは、
このカレー、だれがつくってるんだ・・?」
「そうですね、僕が今から三リットルのカレー、さっと作る予定だったのですが・・」
さっと作れるのか。樹太郎くん、今度おしえて・・・、っていってる場合じゃない。
可能性としては、牧師館にのこっているダリアか・・・
隣の家だからすぐに戻ってこれたさくらか・・・・
葉一も、樹太郎くんも、夏だというのにこころなしか、青ざめているような・・
そして、俺も、きっとそうなのだろう・・・!
「・・・・いくぞ、お前ら・・・・!」
俺が、決死の思いで、玄関の扉に手をかける。
まずは、俺が、台所にとびこむ。
しかし、必ずや、悲痛な決意を秘めた表情をした葉一と樹太郎くんが、俺の後に続いてくれるだろう・・・!
樹太郎くんなんて、ワンプッシュで119につながるようにスマホを準備してるし。
三人で、こくっ、と顔をみあわせて、扉をひらく・・・

体を低くして、鼻をおさえ、できるだけ、臭気を吸わないように中に入る・・
なんともない。
ハンドサインで、『台所・・OK,  旧会堂に進む・・・』と伝える。
二人も、真剣な面持ちで、口を開かず、『OK…』とサインを返した。
そろそろと旧会堂にすすむと・・・

あれ?なんともない?
そこには、ニコニコした、ぼたんちゃんのお母さん、椿さんが立っていた・・・

「いやー、ぼたんちゃんのお母さんのカレー、美味しいですね!」と、葉一。
「でしょー!ぼたんの家のカレーは、隠し味にチョコレートいれるんだよ!」
「チョコレート、ワタシモ好キデス―!コンド、ヤッテミマスー!」
「・・・・ダリア、お前、何キロ、チョコいれる予定だよ・・・!」
「そういえばー、カレーにコーヒーの粉を入れるといいってきいたことあるわ!」
「・・・・さ、さくら、カレーに何キロ、コーヒーいれるつもり・・・?」
「ひひ、ひまわりさんのおうちでは、カレーに何か特別なものいれますか!」
「・・・私の家は、カレーは教会で食べるものだからつくらないです・・・」
樹太郎くんとひまわりちゃんの会話を、葉一がニヤニヤみてた。
ちなみに、ひまわりちゃんは今、ツインテールをネコ耳っぽいヘアに結んでて、
さらにメイド服のようなワンピース、ブーツ(暑い)更に、じゃらじゃらと
ビジュアル系バンド?の人たちがつけてそうな、アクセサリーをつけていて、
川でしていたシールタトゥーに包帯まいてて、封印なのか、怪我なのか・・・!
・・・樹太郎くん、君、そういうの、本当に好き・・・?!

葉一が、「どっかでみたことあるよなー・・・」と、椿さんを見ていった。
ぐるぐるの、瓶底眼鏡、かちっとまとめてある髪形、割烹着。
えーと。
「どっかで、会ったことありません?この教会の、早天祈祷以外で。」
「それはねー!」
と、元気よく、答えようとするぼたんちゃんを手で制して、椿さんは立ち上がった。
「ふふ・・あるときは、カレーを配る配膳のおばちゃん!
また、あるときは、教会の裏方に徹する地味な信者のおばちゃん!
果たして、その実態はっ!」
俺の脳内に、『はにーふらっしゅ!』というBGMがひびいた・・・
「英語の人気教師・ふぇろもん先生でーす!!!!」
ばさっーっと、椿さんが割烹着を脱ぎ捨てると、そこには俺たち高校の教師、
『ふぇろもん先生』がいた・・・・
・・・・先生、絶対、いまの練習してたでしょ・・・・・

2.
みんな、驚いてたけど・・もうそれどころじゃない。
練習も終わって、あと5分で開場だ。
なんだか、みんな、そわそわしている・・・
「せ、先生も見てるとか緊張するね・・・さくらは平気?」
「それも緊張だけど・・・うちのパパ、ママも見に来るらしいんだよね・・・」
「うちの家は親族全部がくるようです・・・」と、ひまわりちゃん。
「じーちゃんの話だと、めったに教会に来ない人たちにも、案内を送ってあるとか・・・」
「ぼたんのとこはね!隣の村に住んでる、おじいちゃん、おばあちゃんもくるよ!」
・・・椿さんは更にビデオカメラを三台、設置してるよ・・・
「俺もさー、スマホの台もってきたから撮影させて!(女の子メインの位置で!)」
ちなみに、映像はスカイプ中継でカナダの叔父の教会でもながすことになっている。
(時差?なにそれ?な、叔父たちと、ダリアのご家族・友人らがリアルタイムで視聴するらしい)
「ジャー、全員で集マッテ、オイノリしまショー!」
ダリアが言って、キャンプ参加者全員で、礼拝堂の講壇、舞台に立つ。
・・・この舞台さ、教会の素人(俺とか)が釘うったものだからさ・・・
・・・重量制限オーバー、してない?ミシミシ、言ってない・・・?
「ジャー、よしゅあ、オイノリシテくだサイ!」
「ふぁっ!」
「時間ナイノー!早ク!」
え、だって俺、・・・今まで、実は牧師らしいシーンなかったじゃん?
ほら、さくらとか、なにか言いたげに見てるよ!
ゆりさんとか葉一も俺が祈ってるとこなんか見たことないだろ!
「よしゅあくーん、時間ないのー!早くぅー!」
葉一が、にやっ、として言う。ううう、
けど、ぼたんちゃんとか、ひまわりちゃんはやっぱり本番が不安、だよな・・

「いっ、イエス様、今から本番です!失敗しないように助けてください!」
えっと、えっと、
「練習した皆が、なにより楽しく演奏とかできて、来てくださった人々も、」
えっと!
「イエス様にも、楽しんでもらえる時間にしてください!
イエス様のお名前で祈ります!アーメン!」
「「「「「「アーメン!!!」」」」」」

しゅわ、っと顔が赤らむ。
ややや、やった・・・
「お前って、やっぱ、牧師みたい・・・」
・・・牧師です。


時間になった。
やまのべ教会は木の背もたれつきの長椅子が並べてあるんだけど、ほぼ満席。
ほとんど顔見知りだけど、しらない顔も、ちらほら、ある。
・・俺でも、緊張するくらいだから、舞台の皆もさぞ、と舞台をみると、
・・・全く、緊張した様子のない、ダリアがゆっくりと舞台の中央に立った。

ダリアの華やかな容貌と白いワンピースが観客の注目を集める。
さくら、ゆりさんは白と黒のブラウスとスカート姿で、いつもより大人の雰囲気だ。
葉一とぼたんちゃんはおそろいのようなブラックジーンズをはいていた。
ひまわりちゃんの服でさぇ、舞台という非日常ではきちんとしてみえる・・・!

「ミナサマ、ヨウコソおコシニナリマーシタ!
コレカラ、イッショに、神ヲホメタタエテ、イキまショー!
   ――Thank you Jesus, Let’s  Praise the Lord !」
その言葉と同時に、演奏がはじまった。

  神の愛は すべてのひとにおよぶ
  なにももたない私、
  なにもできない私にさえも

  イエス・キリストこの方は 
  私のことを友と呼ぶ
  イエス・キリストこの方は 
  こんな私を友とされた

  神の愛は すべてのひとにおよぶ
  ひとりの私、
  ひつようとされない私でも

  イエス・キリストこの方は 
  私のことを友と呼ぶ
  イエス・キリストこの方は 
  こんな私を友とされた

軽快なテンポの音楽、舞台で皆が楽しそうに歌っているのをみて、
ひとり、ふたり、と立ち上がり、曲にあわせて、手拍子もはじまった。

  罪のためにかくれた私、
  だれにも見られたくない私、
  けれども 神が ちかづいて、
  私の、名前を呼んだ

  イエス・キリストこの方は 
  私のことを友と呼ぶ
  イエス・キリストこの方は 
  こんな私を友とされた

葉一が、キャキャ―ン!とベースを鳴らし、
別のアップテンポの曲に変わった。
・・・・ん?
まさか、この曲は・・・!
  
  イエスさーまーはー わからなーい!
  イエスさーまーはー わからなーい!
  イエスさーまーは、 わからなーい!
  いつまでもー! いつまでもー!

ダダ、ダリアー!!
お気に入りの歌でご満悦のようだが、なんか、さっきの感動が・・

すると、会場の明かりがフッと、消えた。
と思ったら、樹太郎くんが、会場の電気を消していた。
そして、災害用?の特大懐中電灯を両手にもち、舞台を照らす・・・

そこには、野球帽を反対にかぶり、Tシャツ、ハーフパンツ、グラサンの、
トラじーちゃんがいた・・・・!
い、いつのまに・・!

あ、タケばーちゃんも両手に特大の懐中電灯でトラじーちゃんを照らしてますね・・
じ、自前・スポットライトぉぉ・・・・・・!
 
さくらからマイクをうけとって、トラじーちゃんのラップ?がはじまった

  Hey, イエス・キリストはわからない
  So, ひとは神を理解できない
  だからと言って、 とおりすぎてない?
  聖書も 教会も 救いの道も

あっけにとられてると、葉一が、ベースをおいて、ゆりさんからマイクをうけとった。
そして、どこからか野球帽をだして、反対にかぶって、おもむろに。

  He-y, そういったって 意味不明
  So, イエスと俺とは無関係、
  2000年前、イスラエル
  いったい俺になんの関係?

  Yo!Yo!Yo!Yo!  Yo!Yo!Yo!Yo!
  Yo!Yo!Yo!Yo!  Yo!Yo!Yo!Yo!


Yo! のところで、全員が息のあったヒップホップなダンスを披露する。
・・・す、すげぇ。
間奏になり、ダリアが歌い始めた。

  わからない、でやめないで、
  キリストは、あなたのために
  十字架にかかった
  「関係ない」という、あなたを愛して
  
葉一が、ベースにもどる。さくらとゆりさんは一緒にマイクをもつ。
今度は、ダリアとトラじーちゃんが交互にラップ。

  Hey, 理屈じゃない、信じる、が必要
  お前にイエスは必要?
  愛され ゆるされ 友とされ
  もう降参だイエス ともにいよう!
  
  Yo!Yo!Yo!Yo!  Yo!Yo!Yo!Yo!
  Yo!Yo!Yo!Yo!  Yo!Yo!Yo!Yo!

  イエス・キリストこの方は 
  私のことを友と呼ぶ
  イエス・キリストこの方は 
  こんな私を友とされた

  
気が付いたら、観客は全員総立ちして、いっしょに歌って・・・
いや、神を賛美していた・・・。
キーボードやベースやカホーン、めちゃくちゃなラップもあったし・・・
ここには、クリスチャンじゃない人もいるのに・・・

それはまぎれもなく、礼拝で、
いまこの時、だれもが、キリストの友だった。
  
 『そのとき、若い女は踊って楽しみ、若い男も年寄りも共に楽しむ。
 「わたしは彼らの悲しみを喜びに変え、彼らの憂いを慰め、楽しませる。」
       聖書 エレミヤ書31:13 』

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