貯金箱開けたい!

文字数 2,056文字

僕が小さい頃、お爺ちゃんから貯金箱を貰った。豚の貯金箱だ。
それから、コツコツとお小遣いを貰うたびに貯金して来た。そして遂に開ける時が来た。貯金箱が満タンになったのだ。
しかしどこにも取り出し口はなかった。お父さんに診てもらうとお父さんは言った。
「これはね、割って取り出す貯金箱なんだよ。父さんも昔持ってたっけ。」
お父さんは金槌を持ってくるとガンガンと叩いた。
しかし、貯金箱は割れなかった。
「おかしいな、全然割れないぞ。」何度叩いても貯金箱にはひび一つ入らなかった。
「父さんはもう手が痛い。お兄ちゃんを読んできなさい。」
お兄ちゃんは僕より5つ上でとてもガッチリとした体をしている。熊よりも強いと言っていた。
「よし、俺が割ってやろう。」お兄ちゃんはそう言って貯金箱を庭に持っていった。ついてって見ると、なんと僕の身長よりも長いハンマーを持ってきて貯金箱目掛けて振り下ろした。驚いたことに貯金箱は地面にめり込んだだけで、耳の部分すら折れてはいなかった。
「おかしい、こんなはずはない!」そういってお兄ちゃんは何べんもハンマーを振り下ろした。目は血走り、こめかみに青筋が浮いていた。一時間は叩いていたね。流石にお父さんも心配になったのか、
「そうだ、お爺ちゃんに貰ったのならお爺ちゃんが説明書を持っているかもしれない。お兄ちゃんはちょっと休んでいなさい。」そう言ってお兄ちゃんから貯金箱を取り返した。
お兄ちゃんは「こんな筈はないこんな筈は…」とぶつぶつ言いながら家に入っていった。お爺ちゃんに電話すると残念な返事が返ってきた。

「すまん、説明書をどこにやったか忘れてしまったわい。悪いが見つかるまでの間、開け方を考えてくれ。」お父さんはこの返事を僕に伝えた。
「説明書をどこかにやってしまったんだとさ。他の開け方を考えてくれ。父さんは今からちょっと仕事に行かなきゃならなくなった。」
僕にはまだこれを開ける手立てがある。僕の友達にお金持ちの都市子ちゃんがいる。どれくらいお金持ちかというと、このお話を読んでいるあなたの住む街一つを簡単に買えてしまうぐらいのお金持ちだ。
都市子ちゃんに相談すると「いいわよ。」と言ってくれた。まず、切って開けることにした。「中のお金を一緒に切らないでね。」と言うと都市子ちゃんは「任せて。私の雇う人達は一流の人ばかりよ。そんなミスはしないわ。」と答えたが、僕は不安だった。工場のような建物に入ると白髪交じりのおじさんがいて
「お任せくださいお嬢様。きっと開けてご覧に入れます。」と言って切り始めた。おじさんの持っているよくわからない道具はギュイイインと音を立てて貯金箱を切り込んだ…が、しかし、貯金箱は傷一つつかなかった。どんな切り方をしようが、だ。
仕方がないので次の作戦に移った。屈強な男達がバールのようなものを持ってきて、よってたかって貯金箱を叩き始めた。お兄ちゃんもいた。

男達は「こんな筈はないこんな筈は…。」と言って帰っていった。次は地下で爆発させた。
外からモニターで見ていたが凄まじいものだった。画面が黄金色に輝き、燃えさかる炎が生まれ、その火を次の爆発が呑み込んだ。
しかし、貯金箱には焦げ目一つつかなかった。次はクレーンで釣り上げたトラックやロードローラーを落としてみた。
しかし、貯金箱はへこみもしなかった。もしかして都市子ちゃんは中のお金の事を考えていないんじゃなかろうか。
「ねえ、こんな事して本当に中身は大丈夫なんだろうね。」と僕が尋ねると、「安心してよ。次こそ開けてあげるから。」と彼女は笑って言った。目は笑っていなかった。
そもそも僕の質問に答えていないじゃないか。金持ちにもプライドがあるのだろうか。それから数え切れないほどの方法を試みた。
けれど、豚の貯金箱は相変わらず豚の見た目をしていた…。

「仕方がないわ。この方法は取りたくなかったけど、開け方が分からないものね。この貯金箱の開け方を調べることにするわ。」と、彼女は諦めたように言った。最初からそうして欲しかった。
だが、どれだけ調べても、何人がかりでも、その貯金箱の開け方を知ることはできなかった。お爺ちゃんが言っていた貯金箱を作った会社は倒産していたし、そこの社長だった人は亡くなっていた。他に貯金箱を買った人も見つからなかったしお手上げだった。
都市子ちゃんがうつむきながらぶつぶつ言っていると、僕に電話がかかってきた。お爺ちゃんからだった。
「ようやく分かったぞ。それは昔近所にあった古道具屋のシゲさんから貰ったもので説明書なんてなかったわい。今から開け方を言うぞ。」

開け方はこうだった。両耳をまわし、尻尾を傾けて鼻を押し込む。
すると右前足が取れた。ついに開いたのだ。どれだけこの時を待ちわびただろう。お金を取り出す時が来たのだ。僕は早速中から小銭を出そうとした。


しかし貯金箱一杯にお金を入れたせいか、穴が小さいせいか、お金は詰まって出てこなかった。
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