第11話

文字数 493文字

 全く予想外の出来事に驚き、雪子は椅子から飛び上がってしまい、そのまま後ろ向きに派手に転倒した。瞬間的に頭をかばったために、背中を床に強かに打ち付ける形になってしまった。激痛のせいで、雪子は暫く起き上がれなかった。苦痛に悶えながら床でうずくまっていると、実験室の扉があき、一人の女性が入ってきた。
 それは寄生虫学講座の助教の一条真理子だった。
「真田さん!まだ残ってたの!?何かすごい音が聞こえたけど…」真理子は、実験室で倒れている雪子に駆け寄った。その腕は雨で濡れていた。
「一条先生……?」雪子は床の上でもがきながら、絞り出すような声を出した。「どうしてこんな時間に教室に?」壁に掛けられた電子時計は23時半を示していた。。
「忘れ物しちゃってね。自宅のカギ。家に着いて初めて気が付いたのよ。それで」あぁ、と雪子は納得した。この人は以前にもスマホや財布を教室に忘れた事があった。そういったものなら翌日に忘れず回収すればよいが、自宅のカギとなるとそうはいかない(彼女は一人暮らしなのでカギを開けてくれる家族もいないのだった)。それで真理子は雨の中をわざわざ教室まで戻ってきたのだ。
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