第十三話

文字数 3,369文字

 ゼィは、甲冑を坑内の奥まった場所まで片足で移動させた。
 逃げ込めたもののこれで後がないのをゼィは悟った。操縦席を開放した。
 「約束の場所だ。」
 ゼィは、先に降りた。
 「さてと、これからどうする。この損傷では、もう戦えんな。」
 外から見ても甲冑の損傷の酷いものだった。右腕は動かず左の膝下を失っていた。
 「これでよくここまでもった‥‥。」
 ゼィが、苦笑した。
 「褒めてもらえそうだな。」
 「‥‥褒めましょう。」
 そう言ってアナマも降りると、甲冑の状態を一瞥した。外付けの強化装甲を付けていても損傷の酷さが分かった。それでも、操縦席の近くに被弾していないのは、ゼィの操作の技量だった。
 「‥‥可哀そうに。御爺様なら直せるでしょう。でも、別物になるかも。」
 アナマの言葉にゼィは、話を合わせた。
 「そろそろオーバーホールの時期だったからな。親っさんに頼むか。」
 「‥‥それがよいと、思います。」
 アナマは、甲冑の足に手を当てて労った。
 「‥‥よく、頑張りました。」
 「さてと、取り敢えずは、急がないとな。」
 ゼィは、逼迫する状況を理解していた。
 「後は、どこまで逃げ切れるかだ。ここは、詳しいのか。逃げ道ぐらいは知っているだろうな。」
 「‥‥心得ています。」
 アナマは、先に歩き出した。
 甲冑が移動できる大きさの坑道は入り組んでいた。階層を下り奥まった先は、地下水脈の広がる場所だった。その先に逃げ道は見当たらなかった。
 アナマが水辺で声を掛けた。
 「‥‥目覚めなさい。」
 水面が震え波打った。水の底から甲冑の頭が現れ浮上してきた。ゼィは、その予想もしなかった展開に呆然と眺めた。蒼い甲冑が地下水脈から出てくると、アナマの前に膝を就いた。
 その蒼い甲冑は、数年前に戦った兵士なら誰もが恐れたイサラエス国の重戦闘攻撃ZFAジュリアⅢだった。完全装備を施した強襲仕様のⅢ型は、禍々しい雰囲気があった。その肩の紋章を見てゼィは、我が目を疑った。【蒼い翼の堕天使】と二つ名で呼ばれるマナ・レイテナという稀代の乗り手だけに設えられた特別仕様のⅢ改SS型だった。
 かつてエシリマ国の親衛大隊を単騎で壊滅させた蒼い甲冑は、女王が座上する旗艦と同士討ちになったと伝わっていた。
 ゼィは、蒼い甲冑の戦いを動画で見たことがあった。絶対的な強さの中、戦う姿は神々しかった。人ではない力を感じさせる壮絶な強さだった。
 「これは‥‥、どうしてこんな場所に。こんなモノがあるんだ。」
 ゼィは、状況の展開に驚きながらも一条の光明を見て笑った。
 「そんなことは、どうでもいい。これが使えるなら、もうひと暴れ出来る。嬢ちゃんが逃げる時間は稼いで見せる。」
 「‥‥ご心配なく。わたくしが使いますから。」
 アナマの言葉にゼィは、絶句した。アナマの冷静な眼差しを見てゼィは想い出した。蒼い甲冑に乗っているのは、女性兵士であることを。
 「まさか‥‥。」
 ゼィは、嘆息した。
 「【堕天使】は、嬢ちゃんだったのか。」
 アナマは、白銀の長い髪を肩の長さで切り落とした。何かで見た短髪のマナ・レイテナの肖像画が思い浮かんだ。ゼィは、納得した。
 「そういうことか‥‥。」
 「‥‥イサラエス国、マナ・レイテナ大佐です。ここまで、御世話になりました。‥‥それから、こう見えて歳は喰っていますので。」
 マナは、そう言い残して操縦席に座った。
 「‥‥後は、任せてもらいます。」

 ゼィの甲冑が逃げ込んだ坑道口を保安官らは、遠巻きに取り囲んだ。予めゼィが逃げ込むのも計算して既に他の出入り口は、封鎖していた。保安官は、確かめた。
 「他の出入り口は、押さえているな。」
 「甲冑が出られる場所は塞いでいます。人の出入りできる所も。」
 「そうか。それなら、穴から追い出すか。」
 勝敗が決まり気持ちに余裕が生まれていた。
 「あの損傷では、まともに戦えんさ。」
 そう断言して保安官は、周りに問うた。
 「誰が一番の手柄をとる。」
 周囲から一斉に声が上がった。保安官が、その中の二人を選んだ。
 「お前らには、貸しがあったな。」
 保安官助手を一人同行させた。保安官は、念を押した。
 「死神は、生きて捕らえろよ。」
 三機の甲冑が坑道内に入った。
 山脈から昇る朝日が快晴の空に映えて眩しかった。保安官は、一仕事終えた安堵感から今後のことを思い浮かべていた。
 暫くして、坑道の奥から爆裂音と地鳴りが伝わった。
 「派手にやりやがって。」
 保安の嘲笑に周りも追従した。
 坑道の入り口から黒煙が噴き出た。その中から現れた蒼い甲冑に取り囲む一団は凍り付いた。予想もしない蒼い甲冑の出現に。手には、甲冑の首を下げていた。
 「何だ‥‥。」
 「おぃ‥‥、保安官助手の甲首をぶら下げているぞ。」
 「蒼い甲冑。‥‥イサラエスのZFAジュリアⅢじゃないのか。」
 「嘘だろう‥‥。なんで、こんなところに怪物がいる。」
 取り囲む賊が狼狽えた。
 「あの肩の紋章を見ろ。‥‥堕天使だ。」
 「独りで、女王旗下の親衛部隊を全滅させた奴か‥‥。」
 既に幾つかの甲冑が逃げ腰になり囲みから後退を始めていた。
 「偽物だ。‥‥どこのどいつか知らんが。張ったりもいい加減にしろよ。」
 保安官は、叫んだ。
 「堕天使は、死んだと聞いたぞ。偽物だ。お前ら、怯えるな。囲んで潰せ。化けの皮を剥がしてやれ。」
 「‥‥本物が偽物か、試してみますか。」
 マナ・レイテナの物静かな声が外部音声から聞こえた。
 「‥‥わたくしは、手加減できません。」
 若い女の声に誰もが戸惑った次の瞬間、蒼い甲冑は一気に間合いを詰めていた。近くの甲冑を一撃で貫いた。
 意表を突かれて混戦になった。蒼い甲冑の動きは、周りの状況と敵の甲冑の動きを先読みしているようだった。どの甲冑も蒼い甲冑に弾の一つ太刀の一つも中てられなかった。瞬く間に、半分の賊の甲冑が動きを止めていた。
 「化け物か‥‥。」
 呻く保安官は、尋常でない強さに驚愕し背筋が凍る思いになっていた。周りを嗾けるが次々と撃破されていった。
 「ハクトは、どうした‥‥。」
 保安官は、後方を捜した。ハクトの白い甲冑は、既に後退しつつあった。
 「あの野郎‥‥。」
 その怒りの言葉は、接近する蒼い甲冑の威圧感に途中で消えた。散弾を放つより先に鉾が飛び胸の真ん中を刺し貫かれた。保安官が斃されたことで、統率と戦意は無くなり我先に離脱を始めた。
 蒼い甲冑は、逃げる敵も容赦しなかった。遁走する甲冑をライフルで端から一撃で撃ち抜いた。最後に残ったハクトの白い甲冑は、朝日の中を隠れるように離れつつあった。ライフルでは限界に近い距離だった。それでも蒼い甲冑は狙いを定めると、迷うことなく引鉄を引いた。白い甲冑の片足が吹き飛び転倒した。
 蒼い甲冑は、全速で追った。迎撃で放たれる弾を苦も無くかわした。手前で飛び上がると、空を舞い白い甲冑に迫った。ゼィの目から見ても、白い甲冑が蒼い甲冑に敵わないのは歴然としていた。白い甲冑が受ける楯ごと剣で切り裂いた。
 「俺の手で斃したかったが、‥‥まぁ、好しとするか。」
 ゼィは、胸の痞えが下りた。蒼い甲冑の強さに改めて納得した。
 「凄いな‥‥。堕天使からは、誰一人逃げられなかったか。」
 蒼い甲冑の戦いは、凄まじく非情だった。その姿は、誰かを護ろうとするが故に、自らの命さえも厭わない戦士だけが持つ強さに見えた。
 「嬢ちゃんは、何を護ろうとしているんだ‥‥。」
 思わずゼィは、呟いた。

 蒼い甲冑が朝日を背にして戻ってくる姿にゼィは、アナマが歩く姿を重ね思い返していた。
 「これが、【蒼い翼の堕天使】の力か。」
 その戦いを見れば、単騎で戦局を変えられるのが納得できた。ゼィは、全てにおいて次元が違うのを認めた。【稀人】が乗れば甲冑と一体になる特殊な機能が搭載されていると云われる噂が真実味を帯びてくるのだった。
 「それにしても、【蒼い翼の堕天使】に乗っていたのが、あんな嬢ちゃんだったとはな。」
 ゼィは、独り言ちた。
 「【死神】が【堕天使】を護っていたなんて笑えるな。」
                                 死神と堕天使 終幕


 後にゼィは、エリワナ公の下に参陣する。八将の一人として勇名を残すことになる。
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