毎日平穏です。

文字数 1,279文字

 ちょっと暗めの赤髪に、大量のピアス。
もう何年もこのスタイルを貫いている。

 たまに気分で黒髪に戻したりするが、あまりに似合わなすぎて鏡を見るとそのまま頭突きをかましたくなるのでまたすぐに赤に戻す。
まだ髪を染めたことがなかった頃の自分がどうやって似合わない黒髪に耐えてきたのかは覚えていない。

 初めてピアスを開けたのは高校2年生のとき。
当時付き合っていた彼氏に「告白された!付き合うことにした!別れてくれ!」などと意味不明な事を言われ、ムシャクシャして帰り道にあるドラッグストアでピアッサーを買い、その日の夜に自分で開けた。後悔はしていない。
 後日、学校の非常階段でイチャコラしている元彼と新彼女に遭遇してしまったので、そのへんに落ちていたゴキブリの死骸を投げつけて雄叫びを上げておいた。後悔はしていない。

 そのままピアスに嵌ってしまい、気がついたら右に7個、左に8個、さらに臍に1個と増えてしまった。

 こんな感じの見た目で周囲から引かれるかと思いきや案外そんなこともなかった。
 おじいちゃんおばあちゃん、外国人にはなぜかよく道を尋ねられるし、女子中高生には乗換駅を聞かれる。幼稚園児におもちゃを自慢される。よく不審者に遭遇する。

 仕事も普通に会社員をやったりしているし、私の毎日は平凡で平穏である。たぶん。

「ねー笠原ぁ、いい本見つけたわー」
会社で仲のいい、オタク友達のシロちゃんが話しかけてきた。
「電車で読んでさー、泣いたよ、尊いわ…」
シロちゃんと私は腐女子というやつである。アニメ好きだったりゲーム好きだったり猫好きだったりと色々こじらせている。周囲に隠れて腐っているため、これ関係の話をするときはお互い小声だ。
「いやよく電車で読めたね…」
「壁を背にしてヨユーよ。後でオススメしてあげるわ。」
「頼む。」
シロちゃんは黒縁メガネの角度を直しながら自席に帰って行った。

 帰宅中、電車で新作のゲーム情報なんかを漁っていると、シロちゃんからメッセージの通知が来た。
さっきのオススメの話か?とメッセージを開くと、肌色の面積が多すぎる、他人に見られたら社会的死を迎えそうな漫画のデカデカとした画像が送られてきていた。
 お、綺麗なイラスト…いや待てここは電車だじっくりと見てはいられないと焦って画面を消そうとしたとき、電車がカーブで大きく揺れスマホを落としてしまった。
 まずい!!と慌てて拾い上げ、画面、画面は無事かと確認していると、正面に立っていた大学生と思しきイケてるメンズが「うわぁ…」という顔でこちらをチラチラ見ていることに気づいてしまった。

 …見たな?さてはお前、見たな?
そんなもん一体何がいいんだ信じられねーこんな女マジでいるんだうわーキモッ!みたいな顔しやがって。
 脳内で、あなたには!分からないでしょうね!!とどこかの議員のような台詞で毒づき、ついでにハゲる呪いをかけておいた。前髪が後退するタイプのな。

 シロちゃんには干上がったようなウサギが白目を剥いているスタンプを送っておいた。
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