にんにんにんじゃなのぼくは

文字数 1,164文字

季節外れの雪が降り注いだ夜
くそっ……今回もダメだったか
婚活パーティーでいつものように惨敗した帰り道……俺は
……
公園のベンチで膝を抱えているおっさんを目撃した
……
こんなおっさん、普段だったら絶対にスルーするのだが……
……大丈夫かよ?
……え
婚活パーティで、誰からも相手にされなかった直後だったせいだろう

同情、優越感、孤独の共有、自己投影……

様々な感情がない交ぜになり、このおっさんに声をかけさせた

ありがとう……少し、空腹でね……
声をかけてから、自分がしたことの危うさに気がついた

しかし幸い(と言うのは悪いが)、おっさんは見るからに衰弱しているし、多分大丈夫だろう

そうか。じゃあ、これでなにかあったかいもんでも食いなよ
俺は財布から千円を手渡した
えっ? いや、しかし……
いいって、いいって


んじゃ、体には気をつけろよ!

おっさんの事情は全く聞かずに金だけを渡して立ち去った

別に金が無くて腹を空かせていたとは限らないのに……

やはり俺は単に、「いいこと」をして、少しでも気分を晴らしたかっただけなのかもしれない

ま、でも、現に気分は晴れたし……

おっさんだって千円もらって嬉しかっただろうし……

うぃんうぃんってやつだろ

グダグダと考えても仕方がない

俺は帰ってすぐに寝た

それきり、そのおっさんのことを思い出すこともなかった

~一週間後~
今日は休日

だけど、婚活パーティーに参加する気にはなれない

心が折れかけているのかもしれないな……

……だらだらとゲームでもすっかなぁ
>ピンポーン
おっと

ナイスタイミング。アマゾンで注文してたゲームが届いたな

はいはーい
ガチャリ
ビクッ
こんにちは
こ、こんにち、は

(なんだ、こいつ?……素っ頓狂な格好して)

ぼく、あの時助けてもらった忍者なの

……あ゛?
覚えてない?

空腹で動けなかった時に……

俺に忍者の知り合いなどいない

妙な勧誘だったら帰ってくれないか

……

あ、そっか

ドロンッ
こっちの格好だったっけ
!?
あの時は千円ありがとう

おかげで、牛丼が3杯も食べられた

おっさん!?

つーかいやいや!! なに??

今、何が起きた???

忍法・変化の術
忍者かよ!!
ドロンッ
忍者なの、ぼく
マジかよ……

おっさん、忍者だったのかよ

おっさんじゃないの
……そっちがほんとの姿、なのか?
そうなの
あん時はなんでおっさんの格好を?
弱ってたから

弱ってるときに美少女まるだしだと危険、なの

(美少女……?)

ま、まあいいや。そんで、忍者が俺に何の用だよ?

恩返し、しにきたの

願い事、何でも一つだけ、叶えてあげる

……何でも?
……忍者に可能な範囲で
忍者の適用範囲がどの程度なのか全然分からんが……

まあ、とりあえず家、あがれよ

わーい
もちろん疑問は山ほどあったが……

俺はとにかく暇だったし、誰でもいいから会話する相手が欲しかったのかもしれない

たとえその相手が、得体の知れない、自称・忍者だろうと

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登場人物紹介

自称・忍者。

千円の恩を返しに、はじめの家までやってきた。

大抵のことは忍法が解決してくれると思っているし、実際そうである。

はじめから『にんにん』と名付けられた。気に入ったらしい。

羽尻はじめ。

恋人が欲しいので婚活パーティーに参加するも、上手くいった試しがない。

暇で寂しかったため、得体の知れない忍者を家に招き入れてしまう。


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