第3話

文字数 608文字

 そして、新しい商売を始めるというので、ジェードが呼び出された。
 詳しいことは少人数で、直接会って話すのが、このような職業の基本だ。メールも電話も傍受の可能性が捨てきれない。悪事を働くには尋常では無いコミュニケーション能力が必要というのは、こう言うところにも表れる。

「失礼します」

 ジェードが入って行くと、いつもどおり、雄ライオンの剥製がお出迎えしてくれた。ワインレッドの天鵞絨の絨毯に、いわゆる社長が使う木の机。ウヴァロヴァイトは王様みたいな純金の装飾の施された椅子に座っていた。今も、ジェードは彼が立っているところ、歩いているところは見た経験が無いままだ。

「年度末に在庫を残すな。どんどん回せ。麻酔なしで心臓を捥ぐ時に、身体が痙攣しても傷付けるなよ。あれは高値の商品だ。ルチル。下々の作業班に良く伝えておくように」

 ウヴァロヴァイトはスプーンに残ったカラメルを執念深く赤い舌で舐め回し、隣に屈むルチルの太腿に自分の足を乗せてもらい、フットマッサージを受けながら、そんな指示をしていた。
 ルチルは相変わらず表情一つ変えず、薄桃色のルージュの引かれた唇を一ミリも動かさず、黙々とマッサージに集中している。
 あのマンションでの一件で、ルチルはウヴァロヴァイトを守るために瓦礫で怪我を負い、今も顔の右半分が包帯で覆われたままだ。それもまた、誰も何も、話題に上げなかった。ルチルは今も一言も喋らない。
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登場人物紹介

ウヴァロヴァイト。

ジェードの上司。

金を貸した相手にどんどん子供を作らせ、

その臓器を売って金を稼いでいるとのうわさ。

ルチル。

ウヴァロヴァイトの一番の部下。

クンツァイト。

界隈で有名な悪党組織のボス。

ウヴァロヴァイトより組織の人数は多い。

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