いちご白書をもう一度

文字数 1,063文字

先日、大学の後輩からメールが来て、その文末に追記のような形で大学時代に少し交流のあった2年後輩の女性のKさんが癌で最近亡くなった旨が記されていた。
還暦を少し過ぎたぐらいの年齢なので、早すぎる逝去である。

彼女は大学祭実行委員会の後輩にあたる。
Kさんとは彼女が2年生、私が4年生になった春先ごろから、委員会メンバーとの喫茶店での雑談や飲み会で時折一緒になることがあった。
彼女は、スラリとしたキュートな感じで茶目っ気のある女性だけど、結構芯が強いしっかりした人という印象があった。

その年の5月上旬の昼下がり、私が大学のキャンパスを歩いていると背後から彼女に声をかけられた。
「観たい映画が近くの名画座でやっているので、これから一人で行くつもりだったけれど一緒に観に行きましょ~よ~。」とかなり強引に連れていかれた。

映画は「いちご白書」だった。
この数年前に「いちご白書をもう一度」という曲がヒットしたので、どんな映画なのか観てみたかったそうだ。
映画のあと、近くの手ごろな店で一緒に夕食を済ませ国立駅まで歩いているとき、急に彼女が腕を組んできたのでビックリした。
「えへへ、こうしているとデートしているみたい。」といたずらっぽく笑っていた。

私は4年生の夏休み明けから卒論を書いたり、就職活動をしたりで結構忙しくしていたこともあって、彼女とはその後も偶然大学で会ってたまにお茶を飲むぐらいの関係のままで推移した。

冒頭に「交流があった」と書いたが、いわゆる恋愛関係ではなかったと思う。
彼女は感じが良く、また、ほんの少し銀色が乗っているような瞳が印象的でルックスも良いので、
男子からよく声を掛けられるのではないかなと思って一度尋ねたことがあるけれど、
「全然。中学・高校と女子校だったし、大学に入ってからも授業と大学祭で忙しくて。」と笑っていた。

私については「いとこのお兄さん」のような安心感があるので、話しやすいとのことだった。
私は「なんだよ、いとこのお兄さんかよ。」と一応抗議をしたものの、内心では「確かに年下の親戚の女の子という感じだなあ。」と妙に納得しいていた。

そんな関係なので、卒業してからは彼女と再会することもなかった。
彼女は卒業後外資系の会社に勤務したのち、結婚して家庭に入ったそうだ。
それ以上のことは承知していない。


佳人薄命。
だけど人は誰でもいつかは人生を卒業する。
彼女の人生が実り多いものであったことを祈って、その夜は一人献杯した。

「いちご白書」は社会人になってしばらくしてTVで再び観た記憶がある。
彼女ももう一度観たのだろうか?
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