『あなたがたのうちひとりが、わたしを裏切ります。』

文字数 5,060文字

1.
午後になって夏季講習の終わった、さくらとゆりさんが合流した。
「なんとか、三曲、形になったよ。これ、楽譜ね。」
玄関で二人を迎え入れる。
ここからだと、礼拝堂の音はもれ聞こえてくる程度だけど、
礼拝堂の中は今、ライブハウスと化している・・・。
PAとしてある程度の音量調節がおわったら、することもなくなるので、
俺だけ、牧師館や旧会堂で別の仕事をしている。
たとえば、キャンプの川遊びにもっていく備品チェックとか、
バーベキューの炭がなんかしめってるから(てか、これ何年もの?)
干して乾燥させてみたり。
ちなみに樹太郎くんは、バーベキュー用の包丁を砥いでいたり、台所用品を準備している。
・・・ほんまにできた中学生やでぇ・・・・!

「あ、あの、よしゅあ君、これ・・・」
ゆりさんが、おずおず、と、一通の白い封筒をさしだしてきた。
え?
おれに?
白い封筒。意味深なシールでとめられている、かの物体は。
ゆりさんが、茶色がかった瞳でこちらを見つめてくる。
こここここここk、
おk、これはラブレターですか??
心の中では、生まれてはじめてもらうラブレターで、
えらいやっちゃえらいやっちゃ、ヨイヨイヨイ♪、
親父、俺、とうとうやったよ・・・!
と感動に打ち震えつつ、なにごともなかったかのようにうけとると。

なんか、分厚くない?

「・・・ママが、おおさめください、って・・・」
はい?
いやな予感がして、あけてみると、そこには分厚いお札がはいってた。
ぴゃああああああ。

「ゆ、ゆりさん、なにこれ、あの、」
ラブレターは?の言葉はなんとかのみこんだ。
「ママが、宗教にかかわるなら、お布施がいるんじゃないかって心配してて・・」
「・・・・・・・ボクハ、ソノキモチダケデジュウブンデス…!」
ラブレターへの期待感、そして垂直落下した気持ちを立て直して、お金をかえした。
「あのさ、本当にこういうの、気にしなくていいから・・・。
よそはしらないけど、うちの教会は、訪ねてきてくれた人からお金もらったりしないし、キャンプに参加するだけで高額なお金は必要ないから・・・」
「で、でも、ママがこの間のカレーのお代は?ともいってたし・・」
お祈りも、とつぶやいたけど、そのお祈りってこの前のトラじーちゃんのお祈り?
「いや、あのカレーはトラじーちゃんたちの好意だし、
もし、日曜礼拝のあとのランチのカレー代と同じにかんがえても200円ぐらい?
あ、お祈りはもちろん無料だから!!!!」
「そうなの・・・?ママが、お布施とか、寄付とかするべきかしら、って。」
「いや、ほんとーにいらないから!!俺もこの教会の会計がどうなってるのかまだ
あんまりわかってないんだけど!」
「よしゅあはホントにお飾りの牧師なのねー!
普通、自分の教会の会計とか知ってるものじゃない?」
いままでのゆりさんと俺の会話を後ろからうかがっていた、さくらが口をひらいた。
・・・大きなお世話だ。
・・・うちの教会の皆さんは優秀だし、まだ学生の俺にお金の心配をかけさせまいとしているだけなんですぅー(多分)
「キャンプの実費として、みんなで食材とか割り勘する、金額だけで大丈夫!
あ、あと、一人米二合は絶対もってきて!米は買わないから!」
ゆりさんは安心したようにくすくすとわらいだした。
「なんか、驚かせてごめんね?・・ママにも、そう伝えておくね。」
にこっ、と笑ってくれた。
・・・そういえば、随分慣れてしまってたけど、
ゆりさんは、やまのべ高校『萌える女子・ナンバーワン』だったことをおもいだした・・・!
「・・不安にさせたみたいで、こちらこそ、ごめんな・・・
きちんとした、キャンプの案内だしたり、親御さんに連絡するべきだったかも・・」
・・・・親御さんに電話してみるべきかな・・・
『教会で、男女混合のお泊りです!(同級生の男の声)』とか?
・・・・・アウトだろ。
あとで、タケばーちゃんとか、卒なくこなしてくれそうな大人にたのもう・・・
こうやって考えると、俺ってまだまだダメだよなー、とか、
自分のいたらなさ?に凹む・・・
と、ぼーっとしてたら、
気が付いたら、ゆりさんは書庫をぬけて礼拝堂にいってて、
牧師館は、俺とさくら、ふたりっきりになっていた。

「あれ?お前も礼拝堂いかないの?」
ときくと、さくらは、思案気に、こちらをじっとみつめてきた。
「・・・・なんだよ」
「ちょっと、話があるんだけど。・・・二人っきりで。」
・・・・・・・。
ふはは、これがな、かわいい女の子とか、かわいい幼馴染とかに、こういわれたら
なんかわくわくするというか、ときめきを覚えるんだろうけど!
あ、さくらも、かわいい女の子の幼馴染だった!一応!
今日は、スポーティーなキャミソールと膝までのスカート?ズボン?
で、いつものポニーテールもバンダナが巻いてある夏仕様で似合ってる。
けど、ときめきとは違うドキドキがするのは何故なんだろうな・・・・!

さくらは、勝手知ったるなんとやら、で牧師館(俺んち)の台所に先立ってはいり、
『なんか、冷たいのちょーだい。』と勝手に冷蔵庫を開けた。
さくらが、俺の家で勝手に冷蔵庫をあけるのも・・・そういえば久しぶりだ。
さくらも、同じ思いだったのか、
「あ、ごめん、つい昔のくせで。」と言った。

ぷしゅ、と缶コーラをあけて飲む、さくら。
そういえば、昔はさくらも俺も、この冷蔵庫の上の棚には手が届かなくて、
・・・お袋はいつも上の段にチョコレートとか、隠してたよな。
二人でなんとかそれを取ろうとして、俺がさくらを肩車してトライしたんだけど、
さくらが冷蔵庫の上の棚をつかんだタイミングで俺がバランスくずして、
・・・・・漬物やら、卵やら、頭からひっかぶったこともあったな・・・
俺の母親と、さくらの母親と両方に叱られた、いい思い出?だ。
・・・親父たちは爆笑してたけど。
さくらも、同じことをおもいだしたのか、ふっと表情がゆるんで・・・・
・・・台所中に書いてある、『ダリア・さわるな危険』とか、『ダリア・立ち入り禁止』の札をみて、顔がこわばったのだった・・・

「・・・なんなの、コレ?」
「気持ちはわかる・・・が、これがないと、俺が毎回地獄をみることになるんだよ・・!」
なんど料理を失敗しても、決してくじけない・歩くポジティブ・ダリアは、
現在、台所立ち入り禁止である・・・
片隅においてある、こげついた鍋二つとフライパン、大量のかき氷シロップの空き瓶とか栄養ドリンクの瓶、
『食べられない植物図鑑』などで、お察しください・・・・!
「・・結局、ダリア、とはずっと暮らしてるのよね・・」
「いや、暮らしてるっていうか、日中はほとんど教会にいるし、牧師館では
食事を一緒にしてるぐらいでそんなに一緒にいるわけじゃ・・・」
朝部屋にとびこんできたりするけど。
「・・・・よしゅあは、ダリアの・・・ううん、なんでもない」
んん?
「なんだよ、言いたいことあるならいえよ・・・」
「今はいいの!それより、よしゅあに言っておきたいことがあるんだけど・・」
んん?
さくらが、ゆっくりと顔をあげた。
夏・幼馴染、男女二人っきりのシチュエーション。
完成されたシーンに、少しだけ心が騒ぐ。少しだけな!すこしだけ!

「・・・あのさ、キャンプの夜・・・」
伝説の樹の下にきてください。
・・・さくらが、その次を言い出さないので、音声をおぎなってみた。
え?違う?
「・・・アレ、するの・・・?」
・・・アレ?
んんー?
「だからさ、アレよ・・・ほら、キャンプの夜に、昔、よしゅあのお父さんが、
『いま、イエス・キリストを信じたいと思うものは、手をあげてください・・』みたいな。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・な、ナニそれ・・・?
「しないの?なら、いいの。よしゅあが牧師なのはわかるけど、今回は同じ高校のメンバーなんだし、宗教っぽいことやって、もしあとで変なことになったら困るのはよしゅあなんだからねっ!
歌うのとか、教会のキャンプはいいけど、よしゅあは仮にも、とりあえず、のまにあわせの、牧師なんだから、やりすぎないこと!」
と言って、さくらは、パタパタと、礼拝堂にむかった。

・・・・・今回は、賛美・ワーシップライブが中心だし・・・・。
・・・・・俺は、牧師メッセージっていう、聖書の話をするつもりもなかったし。
・・・・・お前のいうとおり、とりあえず、まにあわせ牧師ができるわけないだろ。



2.
「よしゅあー!トリアエズ、ココまでにシマスー!」
オナカスキマシター!と、ダリアが元気よく、旧会堂にとびこんできた。
そして、俺は・・・・
樹太郎くんと、キャベツを千切りにしていた。
今日は、樹太郎先生による、特製お好み焼きだZE★
「おつかれー、みんな、どんな感じ?」
「スバラシイデス!ヨウイチ、ベース、グングンウマくなりマシタ!
ボタンちゃん、ナント!カホーン・マスターデス!ヒマワリガ、キーボードウマイのは、サイコウダトして・・サクラとユリは、コーラスとハモリガ天使ノヨウデス!」
「へー、じゃ、当日も期待できるな・・」
「アレ?よしゅあ、ナンダかゲンキナイ・・・?」
「いや、きゃべつをずっと千切りしてたから、つかれただけ・・・」
「よしゅあ!ズット―、アリガトー!
よしゅあが、樹太郎くんが、ウラカタシテクレルカラ、
ワタシタチ、タクサン、レンシウデキマシター!
ワタシタチは、キリストの体デアッテ、一人ヒトリは各器官ナノデスネー!
一人ヒトリガ、神の尊イ、ハタラキのタメニ、大切、
必要ナンデスネー!」
感激した?ダリアが、がばっ、と抱き着いてきた。
あ、樹太郎くんが目を丸くしてる・・・
「あの、コレ、外国のスキンシップというか、外国のスタンダードだから・・・
ダリア、片づけにいかないと・・・・はなれろって・・!
樹太郎くん、俺も、、PA機材片づけにいってもいいかな?」
「大丈夫です!特製のお好み焼き生地も完成したので、
あとは、キャベツと紅ショウガを混ぜて焼くだけです!」
「ジュタロウのー、オリョウリ、ミンナオオヨロコビしマス!」
樹太郎くんは、いつも俺たちが感動して食べるので、よく食事をつくりに来てくれるようになっていた。
ありがとう・・・!ありがとう・・・・!(泣)
「あの、よしゅあ先生、あとは皆さんにおまかせしていいですか?
・・・・俺、このあと、親と話し合いをするんです。」
トラじーちゃんたちの家に、都会で働いている両親が来て、
今後の事―新学期には、学校にいけそうか、とか、中三だから、受験のこととか、
はなすらしい。
樹太郎くんは、緊張した面持ちで、でも、しっかりと、言った。
「俺、今まで、親と真剣にはなしたこともなかった。
親はわかってくれない、そんな、責め立てる気持ちばかりで。
でも、この前、よしゅあ先生が、俺の部屋の扉をたたき続けてくれたみたいに、
イエス様が、俺の扉をたたき続けてくれたみたいに、
俺も、親に、あきらめないで、気持ち、はなしてみる・・・」
「樹太郎くん・・・・!」
「ジュタロウ―、安心シテー!ウマくハナセルヨウ、オイノリしていマス!」
ダリアが、祈ってます、っていうと安心できるのは何故なんだろうな・・・
「オコノミヤキモー、オマカセデス!オチャノコーデス!」
そして、そのセリフには不安しかないのは何故なんだろうな・・・・


★おまけ★
「・・・なぁ、よしゅあ、なんで、このお好み焼きオレンジ色・・・・?」
「あと、ところどころ蛍光ピンク色なのは・・まさか、これは異世界焼きですか?」
「ね、ねぇ、ダリアさんとさくら・・・・
もしかして、この紅しょうが、一キロ、赤い汁ごと全部、いれたの・・・?」
「ほんとだー!業務用の紅ショウガの袋が、からっぽになってるよー!
ボウルにあまったお好み焼き生地、紅しょうがのプールになってるー!」
「・・・・・紅しょうがってー、全部いれない・・・?」
「・・・・・紅ショウガッテ、汁ゴト、イレナイノー・・・・?」
樹太郎―!!!!!
カムバーック!!!!(泣)
せっかくの!
お好み焼きは!!紅しょうがの味しか!しませんでしたー!!!!(泣)
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