第21話 源氏とキセキの物語、天皇賞春は王様の命令!?(5)

文字数 1,808文字

2020年5月2日土曜、夜のシェアハウスは競馬の住人、大人の王国だ。
リビングのL字ソファーには窓側の短辺には果凛と冴、その右手の長辺には優、短辺の向こう正面になるオットマンには惠が座していた。
センターテーブルに軽食と飲み物を準備万端となるとエプロン姿の鞍さんが優の右へ座る。
オーソリティの勝利で気を良くした鞍さんは髪のサイドを編み込みにしていた。
鞍さんは機嫌が良いと髪を編み込みにする。
果凛は上下セパレートのパジャマ、惠は長袖Tシャツにハーフパンツ、優はジャージで、昼と同じタイトスカートにスーツの冴は仕事を一時間、抜け出したという。
今日も銃を脇に挟む冴に優が仕事の内容を問うが、「やだよー」と口笛を吹かれた。
まあ、前回の予想大会と似たような光景だ。
テーブルにはカニクリームコーンのピザ、鶏肉とキノコの和風スパゲッティ、シャウルスとモッツァレラ、パルジャミーノの各種チーズ、取り皿とフォークがある。軽食の両隣に大きな円柱の氷入りのクーラー、左にはロゼワインが二本、右にはお茶のペットボトルが冷やされていた。
鞍さんが促すと、鞍さんと果凛はロゼワイン、惠はアッサムティー、優がプーアール茶を手にして、銘々が軽食を取り皿に盛る。
これから一晩中の仕事という冴はお酒飲みたいと駄々を捏ねながら、ジャスミン茶を手にしていた。
さて、と鞍さんがワイングラス片手に徐に立ち上がる。
「予想大会始めます」
拍手ともに住民たちの視線が鞍さんに集中する。
「皐月賞は馬連的中でよかったですかね。競馬もコントレイルとサリオスの直線の攻防が見応えありました」
住民たちは馬券的中もそうだが、皐月賞のマッチレースに満足していた。
「それで、鞍さん、皐月賞の馬券はどうなったの?」
冴が『スマホが手元になかった私も悪いのだけど…』と懺悔しながら、パスタを口にする。
鞍さんのスマホがログインで不調、冴がスマホを仕事場に忘れてネット投票が出来なかった件だ。
お陰で皐月賞の馬券は鞍さんの競馬仲間であるヒロコとユキノにLINEトークで依頼した状態だ。
「…いや、ヒロコとユキノに頼んだ馬券ですよ」
「ああ、あれ」
「『ああ、あれ』じゃなくて、どうだったんですか?」
ピザを片手の果凛に追求された鞍さんはスマホを手にする。
『今頃、確認ですか?』とのツッコミを冴は飲み込んで『鞍さんらしい』と思うことにした。
住民たちがスマホに集中すると、鞍さんは胸に抱いて部屋の隅へと逃避する。
『どうだったんですか?』と住民たちが追う先は暗がりで背を向けていた。
追い詰められた獣が唸ると、住民たちは躊躇と不安を表情に露わにする。
鞍さんがスマホの確認結果を披露する。
「大丈夫です。ヒロちゃんもユキちゃんも買ってくれていました」
安堵の息がリビングに拡がった。
『増えたお金は二人とも相殺だそうです』と聞く冴は『ヒロコもユキノもしっかりしている』と薄ら笑いだ。
シェアハウスの近所で、ヒロコは酒屋、ユキノは喫茶店を営んでいて、鞍さんの利用代金に充当するらしい。
「よかった」
「でも鞍さん、管理人用にスマホがあれば、即PATで良かったんじゃないですか?」
冴が鋭く問うと鞍さんは『難しいことは、分かんない』と惚けた。
嬉しそうな果凛が胸に、惠は腰に飛び込む。
冴は肩を抱き『みんな、くすぐれ』と発破をかける。
三人は一斉に鞍さんに襲いかかると、大笑いが響く。
「今まで隠していた罰ですよ」
そう囁く冴がウインクを投げた。
手足をばたつかせて発する『くすぐったい』『いや、止めて』『死んじゃう』という台詞を聞き続ける優は赤くした顔を背けていた。

「明日の天皇賞を踏まえて、見たいレースがあるのですが…」
お茶を一口含んだ優が住民たちを見回す。
何の?どんなレース?と果凛と冴、咀嚼がスローになる。
「…イングランディーレ、です」
『イングランディーレ?』
女性四人は『どんな馬のレースなの』と顔を見合わすと、グラスと取り皿の動きが止まる。
『十六年前の天皇賞です、まずは観てください』と優は85インチ8Kテレビを操作する。
1番人気は平成の盾男であるレジェンド騎手の乗るリンカーン、2番人気はネオユニヴァース、3番人気はザッツザプレンティだ。
因みにイングランディーレは18頭立10番人気だった。
そういうと画面にゲートインの風景が浮かぶ。
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