第14話 夕日
文字数 908文字
曇っていた空はうっすらと夕日が覗き始め、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。
そんな中、弓月と二人並んで歩いている。
その場で立ち止まり、夕日を見つめる弓月。
雨の中猫を探していた時は弓月の表情も沈んでいたが、今は時より笑顔も浮かべるようになっていた。
同じ物を見て、同じ感覚を共有する事は純粋に嬉しい。
確かに世の中大変な事は多いが、こんな綺麗な世界もあるんだと言う事を、
弓月にも知って欲しい。
弓月は道端に咲いている白い桔梗の花に手をかけながら、優しく微笑む。
桔梗は6月上旬から8月上旬までの花で、つぼみがふくらんだ風船のようになるので、
英語でバルーンフラワーと呼ばれている。
花言葉は「永遠の愛」「誠実」だが、桔梗には他にも弓月に送りたい花言葉がある。
俺は雨で地面に落ちた桔梗の花を拾って、ハンカチで優しく包み、ポケットにしまう。
今すぐは無理かもしれないが、状況が上向いてきたら言葉と共に、弓月に渡そう。
施設のみんなも、きっと弓月の事を想っているはずだから。
それでもきょとんとしている弓月を眺めながら、家路へと歩を進める。