第14話 夕日

文字数 908文字

曇っていた空はうっすらと夕日が覗き始め、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。

そんな中、弓月と二人並んで歩いている。

「……夕日、綺麗ですね」

その場で立ち止まり、夕日を見つめる弓月。


雨の中猫を探していた時は弓月の表情も沈んでいたが、今は時より笑顔も浮かべるようになっていた。

「そうだな。見慣れた夕日のはずだが、今は違って見えるよ」

同じ物を見て、同じ感覚を共有する事は純粋に嬉しい。


確かに世の中大変な事は多いが、こんな綺麗な世界もあるんだと言う事を、

弓月にも知って欲しい。

「夕日に照らされたこの桔梗も、凄く綺麗ですね」

弓月は道端に咲いている白い桔梗の花に手をかけながら、優しく微笑む。


桔梗は6月上旬から8月上旬までの花で、つぼみがふくらんだ風船のようになるので、

英語でバルーンフラワーと呼ばれている。


花言葉は「永遠の愛」「誠実」だが、桔梗には他にも弓月に送りたい花言葉がある。


俺は雨で地面に落ちた桔梗の花を拾って、ハンカチで優しく包み、ポケットにしまう。


今すぐは無理かもしれないが、状況が上向いてきたら言葉と共に、弓月に渡そう。


施設のみんなも、きっと弓月の事を想っているはずだから。

「弓月、今はどこで泊まっているんだ?」
「駅前の素泊まりの宿です。あそこならあまり詮索される事がないので」
「あの格安のとこな。
 詮索されないのは良いが、あまり女の子が泊まる所ではないな」
「でもまだ施設に帰る訳にいかないので……」
「それについてだが、俺に考えがある。大波荘に着いたら話すよ」
「ありがとうございます。すみません、私なんかのために気を配ってくださって」
「弓月、自分の事を私なんかと言うのはやめような」

「今まで色んな事がありすぎて、周りを見る余裕がなかっただけで、

 世の中悪い事ばかりじゃないし、お前自身も魅力的な女の子なのだからな」

「そうですね……綾瀬さんも凄く優しい方だし、猫を助けてくれる男性。

 それに今はルキア君もいますしね」

「魅力的な女の子は?」
「ごめんなさい……それはいまいちピンと来なくて」
「そうか。まあこれから色々な事を見つめ直していけばいいと思うぞ」

それでもきょとんとしている弓月を眺めながら、家路へと歩を進める。

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登場人物紹介

綾瀬 亮介(あやせ・りょうすけ)

大学2年生。

相棒の猫・ルキアと心で会話する能力を持ち、また力を合わせる事で、

他者の心の状態を『色』で判別する事ができる。

謎の少女

亮介の自宅に突如現れた少女。


ルキア

亮介の家に住み着く猫。

亮介と会話をしたりする事ができる。

まさに深窓の令嬢と言う感じで、少し茶色がかったふんわりウェーブの髪と

青みがかった瞳が印象的で、ボディーガードを連れている。

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