第1回リデビュー小説賞を振り返る座談会 #1
文字数 9,308文字
こちらの座談会で、選考経過や受賞作についての講評、また惜しくも受賞とはならなかったけれども、魅力的だと感じた作品について、編集部員が語り合う予定です。
(今回は、参加者は「制限参加コラボ」で開催いたします)
開催まで今しばらくお待ちください。
どうかお付き合い、よろしくお願いいたします。
ちなみに、【リデビュー小説賞】募集開始の際に開催された座談会はこちらです。
ご興味ある方は、こちらも読んでみてください。
まずは、最初に全体講評的なものから。
コメントとしても書いたことと重複いたしますが、めちゃくちゃレベルが高かった…!というのが最初の感想です。
応募総数も400通近い作品をご応募いただきましたし、そのどれもが、当然ながらプロの書き手の作品ですから、平均レベルが圧倒的に高い…!編集者数人で、全作品を最後まで読ませていただきましたが、良い意味で、めちゃくちゃ大変でした…(汗)
小説は、他のエンタメジャンルに比べて、極少数で(たった一人でも)創作を完成させられるジャンルです。だからこそ、これだけ多種多様な作品が生まれるわけです。
【リデビュー賞】としての授賞は人数が限られてしまい心苦しくもあるのですが、実際は、もっともっと作品を世に出して欲しい、編集者として一緒に作品を作らせていただきたい、と思う方々がたくさんいらっしゃいました。
今回のリデビュー小説賞について何からお話ししたものだろう……と色々考えたのですが、おそらく多くの方が気になっているであろう選考方法について、まずはお話できればと思います。
選考については、
①すべて編集者の手と目で(一般に下読みと呼ばれる方々の力は借りていません)
②最低1作品を二人が目を通す
というルールで行いました。
つまり、多くの方からご質問があった「ポイント(お気に入り)によってふるい落とす」という形は一切取っていません。
もちろん、多くの方から支持された証であるポイントを軽視しているわけではありません。ただ、ポイントやランキングというシステムからこぼれる傑作・良作が存在していることも、間違いないと考えたからです。
改めて申し上げますが、今回の「リデビュー小説賞」に、本当にたくさんのご応募をいただきまして
誠にありがとうございました。
当初「始まったばかりの小説投稿サイトの企画だし、スルーされてしまったらどうしようか……」と心配していたのですが、熱のこもったたくさんの作品ばかりで、選考はいい意味でとても大変でありました!
これから当座談会で、いろいろと語らせていただきますが、しばらくおつきあいいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
作家の皆様、リデビュー賞へのご参加ありがとうございました!
賞の選考は、大変でありながらも楽しいと思っておりますが、リデビュー賞は作品群のレベルが当たり前ですが高く、楽しいと同時に、改めて責任も感じました……!
座談会では、ざっくばらんに感じたことなど、お話ししていければと思います。
また、投稿者の年齢は応募要項に必須ではありませんでしたが、想像よりも若い20代~30代の作家さんの応募も多いように見受けられました。
今現在、活躍していらっしゃるけれども、別ジャンルに挑戦したいとご投稿いただいた方も多数いらっしゃいました。
「何がライトノベルなのか?」という古くて新しい命題、これもまだまだ続いていくんだいうことも考えさせられました。いわゆる「ラノベ」ジャンルについてですが、思った以上に読者がはっきり見えそうでなかなか見えないものでもあり、近年ますますその傾向が強まってきているのではと思います……うーんうまいこと言おうとしたけどなかなかまとまらないなあ(笑)
それゆえ、好みや細かい瑕疵にかかわらずグイグイ読ませる力が強い作品が多く、「プロ限定」ということの意味を肌で理解させられました。
もちろん、市場や流行りを意識した作品も多かったですし、通常の新人賞も「好き」を貫いたものは多いのですが、その中でも、書きたいという気持ちを感じる作品が多かったと思います。
個人的には、【リデビュー小説賞】は作品に対してだけではなく、その作家さんの才能に対しての評価となるべきだと思っています。そういう意味で、富良野さんはこれからもたくさん作品を書いて欲しいと感じました。
一方で、やはり小説として世に出すことが前提になると思いますので、この大長編をどういう形でブラッシュアップし、改稿していただき、読者に届けるか、という点では、これからしっかりとお打ち合わせをさせていただきたいと思っています。
特に、中盤から後半に書けては、SF設定や、リアリティレベルを高めること、主人公達が直面する壁、主人公の感情などの軸を整理することで、さらに傑作となる可能性があります。
そういった、改良点はあるにしても、これだけ感情移入をさせられる物語を書けるのは素晴らしい!改稿のお打ち合わせはこれからになりますが、どういう形になるのか、ぜひ楽しみにしていただきたいです。
やや余談になりますが、どうしても、長編になると物語を一本の軸で貫くことが難しくなるので、いかに軸をぶらさずに最後まで走り抜くか、というのは、特にネット小説で連載する場合などには悩ましいところですよね。
週刊漫画のように、その都度都度、読者を楽しませるような仕掛けを打っていくことと、一冊の本(物語)としての完成度を求めることと、そのどちらもが必要となる難易度たるや。
そういう状況で一番大切なのは、主人公像(いわゆるキャラクター性)なのだと思います。『辺獄のパンドラ』は主人公達にしっかりと感情移入させられる物語としての強さがありました。
ページ数にして6ページほどで、若くして妻を失った主人公の心の痛みがキリキリと伝わってきます。
富良野さんの筆を読んで、心情を描写するには内面を書き連ねるよりも、道端のものを見てどう感じるか、ものを食べてどう感じるかを一文で描くほうが効果的なことがあると、あらためて教えてもらった気がします。
行ってみたが最後、(主人公に共感して)傷ついた心が、刺激的な仮想世界と新たに出会う人々によってどんどん癒やされてしまいました。
『パーソナル・ドリーム・ライフ』に、すごく……すごく行ってみたいです……。
どんどん予想だにしない展開が待ち受けていますので、ぜひ直接読んでみてください!
ただ、おそらく富良野さんが本来描いていた世界観はさらに広いです。きっとすべてを丁寧に描くと倍の80万字でも足りないのでは……とすら思わせるくらいの奥行きは、中盤以降にいくつかのゆらぎを生んでしまったように思います。
あるいは、この作品でやりたかったことの一部は今後の作品に譲り、目的地の取捨選択を行うことも刊行に向けた選択肢のひとつかもしれません。
(海野さんは、新規ペンネームに変わる予定です)
いや、もう、なんと言いますか……僕はこの小説を語る言葉を持たない……。それほどまでに突き抜けた小説です。
絶対小説――夭折した文豪の魂が宿る、魔術的な原稿。
それを持つ者には、比類なき文才が与えられるという。
いやもう、このあらすじだけで、何事か!?と思いますよね。メッタメタに、めっちゃくちゃ面白いメタフィクション小説です。同時に、中々売れない小説家の僕と、創作にまつわる物語でもあります。現実と虚構のあわいを行き来しながら、それでも物語を書き続けようとする主人公の生き様に感動しつつも……いや、これは一体何の話なんだ!?と幻惑され、僕たちは遠く遠くの世界に運ばれていくのです。
リデビュー小説賞第二回を、もし開催するとするなら、「字数が多い方が良い」わけではないので、どうかご注意ください…!決して長いから素晴らしいわけではありません(笑)
現在、芹沢さんはすでに改稿を進めてくださっていて、数万字削減されているそうです。
(それもとんでもなくすごい話だと思うのですが)
この作品は、非常にメフィスト賞っぽい雰囲気もあり、文芸第三出版部から刊行するべき作品だと感じました。
空想を空想だからと軽視せず、冗談を冗談だからこそ本気で扱うような手つきは、ホップするような読み心地をもたらします。
そしてそんな手つきで(本当に……)破天荒な(具体的に言うと、カッパや秘密結社があっさり出てきます)物語を組み上げながら、一方で扱っているテーマは、小説に対する真摯な思いなのだからたまりません。もう、心のど真ん中を剛速球で撃ち抜かれてしまいました。
……想像してみてください。
油断すると置いていかれそうなくらいくるくるとシーンが移り変わり、新しい景色を楽しんでいるとまた次のところに連れて行かれる、そんな感覚が30万字も続くことを!
サービス満点な著者の芹沢さんの嗜好も相まって、終わらない遊園地のアトラクションのようでした。
今、創作の現場はドラマが詰まっています。小説を書くこと、創作をすることの悲哀も快楽も、やはり描くべきドラマなのだと思います。しかも『絶対小説』はそこにメタエンタメの視点を持たせることによって、創作と創作される世界そのものをエンタメに昇華させた作品なのです。
『辺獄のパンドラ』とともに、同じく改稿を経て世に問うことになると思うのですが、問題作、そして、話題作になるべき作品ですから、今から、この小説を世に出した時の反応が楽しみです(笑)本の形になったときに、この物語がどんなふうにブラッシュアップされたのかも、楽しみにしていただきたいと思います。
出遅れました、編集Tです。
今回は主にミステリとSF、ファンタジーを担当させていただきました。
『辺獄のパンドラ』について。
河北さんも仰っているように、叙情性がすばらしいです。あと人物の特徴、小道具の使い方が抜群にうまい。40万字の長篇でも、あぁこういうふうにつながるのかと思う瞬間が何度もありました。
仮想空間やAIなどSF的な世界観ですが、SFを読み慣れていない方も十分に楽しめる作品です。設定部分の加筆修正、登場人物の感情の流れ、物語上での役割の整理など、どんどん作品を磨いていただければ。書籍になる日が待ち遠しいです。
今回はプロの作家さんを対象にした賞なので、受賞された方の著作が読めるのが新鮮でしたね。『辺獄のパンドラ』を読了後、すぐに富良野さんの既刊を買ってしまいました。
芹沢さん(海野さん)の『絶対小説』は、どこに連れて行かれるのかわからないメタフィクション。ジャンルフリー、枚数制限無し、とにかくおもしろいもの! というメフィスト賞的な印象を抱く作品で、私もとても文三らしいと思いました。
各エピソードのタイトルもすごく凝っているので、ぜひご覧ください。第1話を読み終わったときの印象と、すべて読み終わったときの印象が(いい意味で)違いすぎて、誰かと語りたくなる小説でした。芹沢さんは他にもいくつかご応募いただいていて、引出の多さを感じています(選考は、あくまで作品単位で行われています!)。
そして、三作目『モリス〜悪意と言う名の街〜』。これはですね…なんと言っても最初の掴みがいい!
みんなに慕われ愛されている優等生の森巣(モリス)くん。
だが、彼には何か隠された裏の顔があるようで……?
彼は善人なのか、悪人なのか!?
面白いエンタメ小説には、魅力的なキャラクターが不可欠、と言ってもいいでしょう。誰もが気になるキャラができれば、その小説は必然的に面白くなります。
そして同時に、冒頭のツカミ、第一章がどれだけ大切なのか、ということを思い知らされる小説です。
本来は囲碁や将棋の用語なのかな。
物語において「読み筋」とは、この物語がどういう物語なのか、どういうストーリーで展開するのか、読者が予想する、期待するストーリーラインとも言えます。
『モリス』は、その「読み筋」がすごく良くてきている物語でもありました。
読者が、「このモリス君が一体何者なのか」をワクワクしながら読める。それは同時にキャラクターの魅力にもなってくる。
今の時代にふさわしいエンタメ小説だと感じました。
この物語を読んで、僕はモリスくんのことをもっと知りたい、最後までそこを書ききって欲しい、と思ったのです。
著者の如月新一さんとは、この二人の関係性を最後まで書ききってもらうよう、ご相談をして改稿を進めていただいております。(……大変楽しい打ち合わせでした!)
あと、タイトルはもっと魅力的なものがありそうだな、と思ったのですが(笑)、各話のタイトルは『絶対小説』同様、すごく雰囲気が素敵で、書籍化する際にも、このエピソードタイトルを残したいところです!
発表順ということで次なる作品は、『ラストオーダー ~ひとりぼっちの百年戦争~』です。
――機械と人間との間に生じた大きな戦争を経て、地上を知らずに暮らす少年ノーリィが、「ラストオーダー」を遵守してたった一人で百年もの間戦い続ける機械の少女であり、兵士であるリアと出会い……といったお話であります。
ヒロインの造形、そしてまだ「文明」が残る過去の記憶のなかに登場する、メイド喫茶などの文化はいわゆるアキバ的な要素と、文明崩壊後の人類がどう生きているのか、などの終末的世界観がクロスしながら、物語が進んで行きます。
ですが、ヒロイン・リアが、たったひとり、ただひたすら命令を守って圧倒的に不利な状況下でも命令を遂行しつづける、そんな彼女の心模様が――時々たのしかった時代の回想を踏まえつつですが――とても切なく、リアがはやく、この意味の無い?戦いから解放されて、往時の幸せな時を取り戻してくれないかなあ……と、読みながらこころから願っている自分がいました。
物語としてはまだ冒頭であり、今後どのようになっていくのかとても気になるところであります。
百年もの間、命令を遵守して重要拠点を守るための戦いを続けている軍用女性型ヒューマノイドでありますが、本当はかわいらしい少女の外見をもっているという……。
(百年以上生きているわけだから、ある意味ロリババアなのかもしれないなあ……)
最後の命令と同時に、女の子としての何かも、ずっと守り続けている……みたいな、ギャップ萌えにつながるようなところがもっとあったらなあとも。
戦いの描写も迫力があり、読みながら脳裏に浮かぶ映像、映画館で見ているような臨場感がありました。
当時から百年以上の時が流れたのですが、メイド喫茶「あしもふ」でリアとであった二人はいったいどんな運命をたどったのだろう、そして、リアの願いどおり、このお見せでも「最後の注文」をうけるという願いはかなったのだろうか……!?
次なる作品ですが、『異世界感染 ~憑依チートでパンデミックになった俺~』です。
《異世界》やら《チート》というわけで、いわゆる「なろう系」(この言葉もホント一般化しましたねえ)の作品であります。冒頭のトラックにひかれて現代人が転生……というスタイルは往時に比べると減ったと思いますが、さてその先の転生したものが……なんと「ウイルス」だったというわけでして。
異世界転生の際、すごいものに転生できたりとんでもないチートを与えられればラッキーである、というのとは別に、思わぬものに転生してしまったけれど、よく考えて見るとある種のチートの変形だったりするんです。
今回はウイルスに転生した主人公ですが、「ウイルス……生物でもないじゃんorz……」とガックリするには早かったんですねえ!!
読み進めていて、「確かに、ウイルスだからこそ可能なんだよなあ」という場面がたくさん出てきました。感染→憑依→肉体のっとり→さらに別個体に感染……というサイクルで、理想的な肉体を求めてある種の進化をしていく。まさににウイルスに転生したことの利点そのものです。
読み進めていくときの爽快感というか、「そうこなくちゃ!」というすっきりした読み味(読み筋とは言いますが読み味とは言うかな?)はまさに「なろう系」ならではのものがありました。
とはいえ、まだ修正が必要かなー!? 補足がいるかな? という部分もあるのですが、これからの修正作業にて追求していただければと思っております。
『絶対にダメージを受けないスキルをもらったので、冒険者として無双してみる』
こちらも、作品テイスト的にはいわゆる「なろう系」ということでカテゴライズされますでしょうか。
主人公のハルトくんは、少し前のなろう系作品とは異なり、同時代的に転生? するキャラクターであります。
登場と同時に、強烈な《竜》のブレスの直撃を受けてもなんともない……タイトルどおりの《絶対にダメージを受けないスキル》を女神イルファリア(転生時は女神の名前とかは知りません)からもらって、冒険者ギルドに加入し、アリスとリリスという、美人姉妹とともに戦いを進めていくことになるのですが、いわゆる「なろう系」では、主人公キャラのチート的特性がこれでもかというくらいに強調され、その無敵感が読後爽快感に変換されて、楽しく面白く読めていくのですが、本作はその常道を少し避けて、敢えて遠回りしているような読後感がありました。
おそらくこれから、主人公のさらに強烈な活躍とともに、より壮大な作品に仕上げていこうという狙いがあるのだろうか……というように思いました。
これからのお話の進み具合が、ますます気になってきますね。
今回、無事に発表までいくことができまして、本当に嬉しく思います!
自分的に繰り返しますが
『何度だって、デビューしていいのです!!』