リンドム編(4)

エピソード文字数 2,223文字

辺りは相変わらず闇である。

拾い集めた材木で火を焚き、五人と一羽はしばしの休息を取った。

「ナギさん、ランスさん、はじめまして。私はリンの姉の、レンと申します」

白いドレスの少女。レンはそう言ってゆるりと頭を下げた。長い髪がふわりと揺れる。物腰の柔らかい、おっとりした感じの人だとナギは思った。

「グラディさんとは、ウルブスの病院でお会いしましたわよね。剣士様だとは思いませんでしたわ」

レンはグラディを見て、首を傾げるように頭を下げた。それからまたナギを見て、

「ナギさん。リンと一緒に旅をしてくださってありがとうございます。リンは早くあなたに会いたくて、ずっと大騒ぎしてましたのよ」

「うるさいわね。あんまりお喋りしてると、ポッキーあげないわよ」

リンはポッキーが気に入ったらしく、さっきから一人占めしている。

「いいえ、私、リンに助けられてここまで来れたんです。何もかも、リンのおかげなんです」

ナギはそう言って、再び嬉しそうにリンを見た。リンはナギが保存しておいたチェラシスのふたを開けて、黙々と食べている。レンがクスッと笑う。

「リン、ナギさんと二人っきりでお喋りしたいなら」

「うっるさいわね! アタシはお腹空いてるだけよ!」

また、チェラシスを口に入れる。リンがずっと持っていたコウモリの杖は、今はレンの手の中にある。

「でも、どうしてお二人は離れ離れになったんですか?」

ナギの問いに、レンが答える。

「全ては、リークのしわざです」

リーク……

はじめて聞く、名。

「全ての元凶よ」

呟くように、リンが言った。肩を抱いている。波打つ肩。怯えているとナギは驚いた。リンが怯えるなんて。それほど恐ろしい敵なのだろうか?

「私たちの次空は、リークに侵略されてしまったのですわ」

言葉を継いだのは、レンだった。

「私たちは姉妹で、こことは違う次空を管理していたのです。それが、リークがいつの間にか私達の次空に潜り込んでいて、気づいた時には手遅れでしたの。
リークは私たちの次空をあっと言う間にコアインシストまみれにして、私たちの息の根を止めようと現れました。最初にやられたのが私で、私はもう駄目だと思ったのです。とどめを刺される瞬間、リンが私をとっさに別の次空に飛ばしたのです。
その後おそらくリンは捕まって、大変怖い思いをしたのだと思いますわ。それから私は、いなくなったリンを探して、この次空にやってまいりましたの。そしてようやく、リンを見つけました。この子が生きていてくれてると信じ続けてて良かった。でも……」

レンがそこで言葉を詰まらせる。パチパチと火が爆ぜて、グラディは焚き木を足す。

「ようやく見つけたリンは、かわいそうに、焼かれて死にそうになっていましたの。私は急いで魔法を飛ばしてリンの魂をまず助け出し、それから体をそろそろと、助け出しました。私の手元に杖があればもっと即座に出来たのですが、リンは私の体を飛ばすのだけで精一杯でしたから、杖までは拾い上げて飛ばせなかった……杖はそれからずっと、リンが持っててくれたのですね」

そうか。

あの時、リンが自分の腕からこぼれ落ちて、死んでゆっくり灰になって消えてしまったと見えたのは、レンがリンを、そっと少しずつ取り戻していたのか。

「リンが回復するのに、だいぶ時間がかかってしまって……ナギさん、ごめんなさいね。心配したでしょう?」

「あの炎のモンスター、アタシをローストビーフみたいにこんがり焼いてくれて、おかげでお肌のコンディション取り戻すの大変だったわ。でも、ナギ、炎のモンスター討伐してくれたのね。ありがとう」

ナギはまた泣き出してしまう。本当に、本当に良かった。リンに、もう二度と会えないかと思った。嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなかった。

「私からもお礼をしますわ。ナギさん、本当にありがとうございます。黒焦げのリンを見た時は、私、本当に……」

レンまで泣きそうになるので、リンがしゃべり出す。

「で、でも一番許せないのはやっぱりリークだわ。あいつにはひどい拷問をされたわ……あの時、本当に死ぬんだって思った……ひどいのよナギ! アタシの耳に虫入れようとしたのよ! 虫よ、虫! あーもう思い出しただけで」

リンがまた体を抱いてブルブルと震える。リンはよほど虫が嫌いらしい。

「私も殺されかけたんですもの、許せませんわ。リーク、あのスカポンタン、今度こそ頭叩き割って脳みそ引っ張り出して平べったく伸ばして干して、その脳みその日干しで往復ビンタしてさしあげますわ」

ナギもグラディもランスも、目が点になった。レンさん、穏やかな口調で今、何と?

ああ、やっぱりこの人はリンのお姉さんなんだと、ナギは変な納得をした。

「それにしても、ナギさんもご立派ね。この次空の管理者さんなんでしょ? 私と同じくらい?」

レンがナギに改めて訊く。

「え? いえ、私、16歳、です」

ナギは涙を拭きながら答える。そう、グラディもランスも同じ年齢だ。

「まあ、16歳? じゃあ私の一つ下ですのね。すごいですわ。リンのもう一人のお姉さんですのね。これからもリンをよろしくお願いしますわ、ナギさん」

「え? お姉さん、って、リ、リンって」

「? この子はまだ14歳ですのよ」

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登場人物紹介

ナギ ……本篇主人公。16歳。失踪した兄を探すため、冒険の旅に出る。

パセム……ナギの兄。ナギを守るためにゾンビと戦い、行方不明になる。

アビス……ナギの親友。元気よく、いつもナギを励ます。パセムを慕っている。

フロス……ナギの親友。明るく好奇心旺盛で、人なつこい。

ムジカ……ナギの親友。おっとりした少女だが、天才的ピアニストでもある。

グラディ……ナギの幼なじみで、連邦一の剣士。一子相伝の雷剣の使い手。

ランス……グラディの親友で、連邦一の槍使い。口下手でどもるところがある。

エジェット……グラディの祖父で剣の師匠。

リン……黒いゴスロリの黒魔法師少女。右頰にコウモリのタトゥがある。

ピンセル……リンと一緒におり、空間の隙間を走る車を操る。喋らない。

リョータ……メルカートおじさんの家で出会った七色インコ。

ノートン……真実を伝えるベリテートのジャーナリスト。

悪魔……???

ルナ……ハティナモンで出会った不思議な女の子。回復魔法が使える。

ティマ……連邦とは海を隔てたモルニ国出身の女の子。ネピオルネスのスコラに通う。真面目でしっかり者。

アミィ……ティマの親友で、同じくモルニ国出身。活発で明るい性格だが、スコラはさぼりがちになっている。

レン……リンの姉で、数少ない白魔法師。様々な回復系魔法を使う。誰よりも優しいが、変わり者な一面もある。

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