第6話   楓蓮 アルバイトする 2

エピソード文字数 4,699文字

 


  ※  



「あはっ。難しいですよね」

 んだよ。このボタンは! 

 メイド服の背中にあるボタンが上手く嵌らねぇ!

「こんなの普通着ないですもんね。はい。出来ました!」
「ありがとうございます!」
 最初からずっこけた感が半端無いが、白竹さんは笑顔で接してくれる。
 学校でも優しいお方だし、いつもニコニコしてるからな。

「じゃあ私についてきて下さいね」
「はいっ!」

 ここでは白竹さんはバイトの先輩なのだ。


 とにかく指示通り動いて教わった事は一発で覚える。覚えきる! 同じ事を二度もミスしないように、白竹さんのアクションをガン見しながら、どういう仕事をするのか覚えないと。



 と言っても、最初から上手くできるはずもなく、白竹さんの後ろを金魚の糞みたいに付いて回るだけだった。



 指示されたテーブルにお水を入れに行ったり、入って来たばかりの客にメニューを持って行ったりと誰でも出来る作業をこなしていく。




 誰でも出来るとはいえ、真剣に取り組まなければ。





 そして厨房に行くと、さっきのクネクネ男に挨拶される。

「あっ。楓蓮さんでしたね。僕は魔樹っていいます。魔樹って呼んでね」
「魔樹さんですね。こちらこそ。アルバイトは始めてなんでよろしくです!」
 元気だけはアピールせねば。
 レベル1の生まれたてなんで、元気に挨拶する。それしかできねぇから。
「あの……すんません。めちゃ失礼なんですけど、魔樹さんって、お、男ですよね?」
「うん。そうだよぉ~。よく女の子に間違えられちゃいますっ」

 良かった。間違ってなかった。
 俺が男だと思ったのは、胸が無いという理由だけで、女なのか迷ったが二分の一で正解だった。




 しかしこの魔樹さんだが、何と言うか……外見も中身も男の娘的な感じだな。



 厨房で仕事をしている彼を見ると良く分かる。フライパンを持ちながらも腰をクネクネしたりと、鼻歌交じりの「ふんふ~ん」と機嫌良さそうに料理を作ってゆく。

「頑張ってね。楓蓮さん。分からない事があったら僕に聞いてね~あはっ」
「はいっ!」

 魔樹さんの第一印象はとても良かった。白竹さんやじいじも優しいし、人間関係も良さそうだし、ここのバイトにして本当に良かった。



 後は……俺がバイトのノウハウをマスターすればいいだけ。
 教えられた事を忠実に出来るようにならなければ。


 ※



 この喫茶店「エスペランザ」はオープンしてまだ一週間だそうだ。
 オープン記念という事もあり、客の入りも良さそうで次から次に客が入ってくる。



 
 最初の二時間ほどは忙しくて無心で働いていたが、八時を過ぎる頃にはようやく客の入りが減ってくる。そんなタイミングでじいじが休憩しておいでと言ってくれたので、更衣室へと入ってゆく。




 すると、部屋の中には魔樹さんが椅子に座っていたので軽く挨拶する。
 

「ふふっ。僕も今休憩中なのですよ~じいじが行ってこいって言うから」
「は、はい! 私も言われました。ってか魔樹さんもじいじって呼ぶんですね。もしかして白竹さんの……兄妹ですか?」
「あ、聞いてませんでした? 僕と美優は双子の姉弟だったりするんですよぉ。えへへ」
「えっ?」

 双子? あの白竹さんと?


 そう言われると確かに……どことなしか顔のパーツは似ているような気がする。でも髪の色が全然違うんですけど。

 しかし。双子だとは恐れ入りました。

「楓蓮さんってあの……とっても綺麗ですねぇ。素敵です」
「あ、いや、その……ありがとうございます」
「えへへ。楓蓮さんってすごく綺麗ですよねぇ」
「…………あ、ありがとぉございます」


 な、なんだこの人は。喋り方がやべぇ。

 お。男なんだよな?


 座っている間もずっと身体がクネクネ動いてて、何が楽しいのか分からないが、ずっとニコニコ笑顔が絶えない。


 なんだかオネエっぽいと言うか、男らしさが全く感じられず、女の子ですって言われても普通に信じてしまいそうだ。

「後もう少しです。疲れてないでしゅか? 足が痛くない? 大丈夫?」
「大丈夫でしゅ。頑張ります!」

 面白い喋り方にこちらも合わせていた。

 あと半分。慣れない靴で足が痛いが、気合で乗り越えろ。




 魔樹さんと一緒に更衣室を出ると後半戦がスタートした。客足が少なくなった分、白竹さんやじいじにも余裕が出てきたのか、今度は口頭などでの説明が多くなってくる。




 接客なども後ろに立たれて指導される。ここではかなりのミスをしてしまったが、じいじも白竹さんもとても優しく、俺のモチベーション低下を防いでくれた。




 優しい指導に慣れていない俺は、逆にミスしないよう燃えてくる。「大丈夫。大丈夫。最初だから」と言われた方が何だかショックなんですよ。




 こういう所はわりと負けず嫌いというか、笑顔で接しているが心の内はメラメラと闘争心むき出しだったりする。





 とにかく今日教えられた事だけはマスターしないと。などと思っているとあっという間に閉店となってしまっていた。




 ※

 

 閉店してからの作業は掃除がメインだった。

 掃除だけなら、要領よくこなせば教えられなくても出来る。



 テーブル拭きやらトイレ掃除など、そういうのは楽勝である。出来るからって手を抜く訳ではないが、丁寧かつスピーディに雑巾を扱い、予定時間よりも数分早く終わらせる。



 十時前頃になってくると粗方掃除も終わり、じいじは厨房の奥に行ってしまい、魔樹さんと白竹さんが寄って来た。

「楓蓮さん。ちょっといい? 私達と一緒にそこのコンビニに買出し行きましょう」
「分かりました」

 白竹さんと魔樹さん一緒に買出しへと狩り出される。

 言われるまま喫茶店を出たのはいいのだが、俺はそこで気付いてしまう。



 メイド姿で外に出てしまった事に。




 やべぇ。こりゃ相当恥ずかしい。

 同じメイド姿の白竹さんは気にしていない様子だが、俺達を見かけた人間が全て振り返っているじゃないか。



 うぉお~~。こ、これは何の羞恥プレイなのだ?



 今日の仕事の中で、この瞬間が一番ヤバイと思った。

 そんな時、白竹さんに質問をされる。

「そういえば楓蓮さんって。彼氏とかいるのですか?」
「あ、いえ。いません」

 いるわけねーよ。と言いたくなりそうな質問だ。

 今は女ですけど、心の中は男ですからね。

 


「わぁお~~! そうなのですか?」

 と魔樹さんが言うと身体をクネクネしてやがる。


 なんだろう。何度もその姿を見ているとやたら癒されるというか、そんな風に思えてきた。

「白竹さんは? とっても可愛いし男に困らない感じに見えますけど」
「いえいえ。いませんよ。運命の人は今だ現れないです」

  へぇ~そうなのか。男くらいいてても不思議じゃないのに、わりと真面目な返答が返って来た。


 と、そこで魔樹さんにも振ってみよう。

「魔樹さんは? 彼女いそうな気がしますが」
「ぼ、僕はダメだよ? な、なよなよしてるしぃ……お付き合いはしたいとは思いますけども。こんなだから……できませにゅ」

  できませにゅか。


  ってか魔樹さんは初対面だからこんな人なんだなとは思ったが……

 



 白竹さんは、学校の雰囲気とはちょっと違う気がするぞ。

 喋り方は優しいものの、わりとハッキリと答えるよな。


 まぁ今は身内ばかりの喫茶店だし、学校とは違うのは仕方が無いが、 なんだか魔樹さんの方が学校の白竹さんに似ているというか……あのクネクネする仕草とか。




  あっ! そうだ。そういえば……

「そういえば、ちょっと聞きたかったんですけど。じいじが白竹さんの事を、まゆうさんって呼んだ気がしたんですけど、美優さんとどっちなのかなって」

  一瞬二人の顔が停止したかのように見えたが、二人同時に笑顔になると「じいじはモウロクしちゃってるから」と白竹さんが答える。

「私は美優ですよ。みゆうちゃんとか。みうでもいいよ」
  じいじはちょっとボケちゃってるのか。
  ってか、まゆうって……美優と魔樹が合体してるじゃねぇか。


 


  さて。コンビニでの買出しが終わるとさっさと喫茶店へ戻る。
  コンビニの時計が十時になってたので、帰れば今日のバイトは終わりだろう。



今日はお疲れ様でした。とっても助かりました。ね。魔樹」
「うんうん! 超絶助っ人さんでした。今度は土曜日でしたね。楽しみに待ってますよぉ」
「はい! こちらこそ全力で頑張ります!」
 そんな会話をしている途中、急に「ふがっ!」っと言う声が聞こえてくると、何事かと思い三人同時に振り返っていた。




  すると、目の前に立っていたのは……あれ? 龍子さん?
  昨日のヤンキーお姉さんじゃないか?



「ああっ……か、楓蓮さん?」
「あっ。龍子さん。ですよね?」
「は、はい! 龍子です!」

  龍子さんは元気よく返事すると、白竹さん達を見るなり、更に驚いていた。


 仰け反るような派手なリアクションは、昨日と変わらない。

「楓蓮さん! ア、アルバイトしてるんですか?」
「えっと今日からですけど。めちゃ新米です」


「お知り合いですか?」と白竹さんに言われると「ええそうです」と返していた。
知り合いというか、昨日初めて会っただけですけど、正直に言うのもアレだと思い、手短に済ませた。




  そんな他愛も無い会話をしている間、龍子さんは下を向いたと思えば、ブルブルと身体を震わせる。


 何となく力を溜め込んでいるような、そんな風に思った瞬間、龍子さんは顔を上げてこんな事を言うのだ。

「私もバイトしたいです! アルバイトします!」
  え? な、何で?
「わぁお! 勿論大歓迎ですよぉ。そこの喫茶店ですけど。今ね。人が居なくて困ってるの。助っ人さん大募集です」
  笑顔で応えたのは魔樹さんだ。すっげークネクネしてるぞ。
 「嬉しいです! きっと採用してくれますよ」と白竹さんも絶賛だ。


 
  二人は先に喫茶店に入っていくと、龍子さんと二人になる訳で……喋らない訳にもいかず、

「あの、いいんですか? そんな決めちゃって」
「はい! 私も……仕事先探してて、ちょっとでも知り合いが居ればいいかなって思って……」
 確かにちょっとでも知り合いですけど。


  あ~でも何となく分かる気がする。俺だって白竹さんがバイト先に居るって言うのはそれだけで心強かったしな。

「実は私。引っ越してきたばかりで、知り合いが誰も居ないし……」
「龍子さんもですか? 実は私もそうなんです」
「楓蓮さんも? すっごい偶然ですね」

  マジかよ。ってか俺の知り合い全員引越し繋がりなんだが。
  すっげー偶然にも程がある。




  と、その時白竹さんが出てくると「採用です」って言うのだ。


 おいおい! じいじ。見ても居ないのに採用だと?

「あの……山田龍子です。は、激しく頑張りますんでよろしくです!」

  激しく頑張るんだ……
  そう言われると、俺も負けてられねぇ。とか心の中で闘争心がメラメラと沸きあがってくる。



「ちょっとこちらに入って来て下さいね」と魔樹さんがドアを開くと、俺も龍子さんも喫茶店へと入っていくのだった。

「龍子さん。頑張りましょうね」
「はい! すっげー頑張ります!」
 こうして。龍子さんも晴れて採用となり、白竹さん一家にお世話になる事になった。


  楓蓮はとても順調だ。
  いいバイト先で良かったとしみじみ思う。




  だが学校での蓮サイドは……
  問題が山済みで、あまり考えたくない。


 
  あいつを……聖奈をどうにかしなければ明るい明日はやってこない。そう思った方がいいだろう。



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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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